軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

距離を縮めて

翌日の朝のことである。

食事を終えて皆がばらけ始めたころに、

「ハルカ、ちょっとよいか?」

「はい、いいですよ」

頷いたハルカの隣に腰を下ろしたエニシは、そわそわと人が捌けていくのを待つ。

食事の片づけをしているシャディヤは、それを微笑ましそうに横目で見ている。

一部拠点の者たちからすると、エニシは成人前の女の子と認識されている。

何らかの事情で【神龍国朧】からやってきて、助けてくれたハルカに懐いているというのがカバーストーリーだ。

本人が好きでやっていることだし、特に害もないのでハルカ達はその嘘を放置している。

本人も子ども扱いされて甘やかされるのは嫌いではないらしく「エニシちゃん」と呼ばれると、ニコニコ笑って返事をしている。そこに三十八歳のプライドは見えなかった。

昨日の様子を見ると、案外それこそがエニシの本性なのかもしれない。

「歩きながらで良いか?」

「はい、それでは散歩でもしましょうか」

幸いなことに今日も天気がいい。

手持無沙汰になったハルカが拠点内をうろついているのはいつものことだし、誰も気にしたりはしないだろう。

〈忘れ人の墓場〉は、森と森の間にある開けた土地だ。

その面積は実はとても広い。

ハルカ達はやや〈オランズ〉寄りに拠点を作っているが、いくつかの建物や畑、それにドラグナム商会の敷地を確保したうえでも、まだ土地全体の1割も使っていない。

人口密度が非常に低いこの場所では、内緒話をするのは簡単だ。

空を中型飛竜が編隊を組んで飛んでいく。

今日も〈黄昏の森〉へご飯を探しに行くようだ。

〈暗闇の森〉は、まだまだアンデッド達がいた頃に食い荒らされた後遺症で、生き物自体が少ない。楽園と気づき移住してきた鳥たちはいるようだが、残りは水辺や沼地に住む生き物が大半を占めている。

飛竜たちもそれを知っているようで〈暗闇の森〉側へ飛んでいくことはあまりないようだった。

「そろそろまた草の背が伸びてきましたね。〈オランズ〉へ続く道、舗装を考えてもいいかもしれないですね」

独り言をつぶやくのは、エニシが話すきっかけになればと思ってのことだ。

少し遅れて竜たちが飛び去った余韻の風が吹く。

二人の髪を揺らしたそれが止んだところで、エニシはようやく口を開いた。

「ハルカよ」

「はい」

「多分、我一人で国へ戻っても、大したことはできぬと思うのだ」

「長く尽力したんです。コリンはああ言いましたが、それを認めてくれる人はいるはずだと思います」

ハルカが励ますように言うと、エニシは苦笑した。

「よく考えてみたのだ。巫女たちは夢を見ていたが、自分たちでどうにかしようとは思っておらなかった、と思う。我に会いに来る者の多くは、余裕のある強者か、まったくない弱者だったな。そして我に感謝をしていたのは主に後者だ。我を思っていても、窮地に声を上げられないくらいの弱者が多かった、と思う。前者は、我が能力を失えば担ぐ価値無しと切り捨てたのであろうな」

下を向きながら歩くエニシの足取りは、しっかりとしていて落ち込んでいる者のものではない。口調も落ち着いていて、ハルカに説明をするような話し方であった。

「死んだものとして逃げ出したのは、我が身かわいさもあったのかもしれぬ。希望になることに疲れて、弱者をおいて逃げ出したのだからな。無意識にその自覚があったからこそ、罪悪感から、早く戻らねば、成果を出さねばと焦っていたのかもしれぬ。都合の悪いことから目を背けてな」

少し先を歩き、流し目と共に振り返ったエニシの姿は、儚くも大人びて見えた。

「年下の娘に泣かされるなど、我ながらまったくもって情けない話だ」

再び前を向いたエニシは、足元にあった小さな石ころを蹴り飛ばそうとして「いったぁ」と声を上げてしゃがみこんだ。

地面から頭を出していただけの大岩だったらしい。

どうにもタイミングが悪いというか、格好をつけきれない人物だ。

「あの、治癒魔法使いましょうか?」

「だ、大丈夫だ……」

涙目で立ち上がったエニシは、無理やりきりっと表情を作ってみせた。

茶化す者がいないのが幸いである。

「なぁハルカよ、落ち着いたら共に【神龍国朧】へ来てもらえぬだろうか? 我が生きていると、落胆した者に伝えたいのだ。余計にがっかりされるかもしれぬが、それもまた、我の責任じゃろう」

「……辛くないですか?」

「我のことを思って厳しい言葉を投げかけてくれるような者は、今まで一人もいなかった。優しくしてくれるものは、たーくさんおったがな。だから、寄りかからせてもらえんだろうかと、そう思っておる」

緊張して自分の服の裾をぎゅっと掴んだエニシだったが、ハルカの表情を見て指の力を緩める。

「ちょっと気になっていたんです、【神龍国朧】。私は美味しいものを食べるのが好きで、もしそちらへ行ったら、是非名物を頂きたいところですね」

「そうか……。口に合うとよいなぁ……」

ゆるりと微笑んだエニシは、空を見上げて呟いた後にハルカの方を振り返って、涙目で上目遣いをしてみせた。

「悪いのだが、やはり治癒魔法使ってもらえんだろうか? た、多分折れているのだ……」

やはりエニシはシリアスが続かない人物のようである。