軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

見た目に引きずられて

ハルカはその日、小川のほとりで大人しく仲間たちの訓練風景をぼんやり眺めていた。隣にはいつも通りにくつろぐノクトと、心配そうにハルカを見ているユーリ。

少し下って、足を小川につけてバシャバシャしているのはエニシだ。まるで本当に子供のようである。逃げていく小魚を見て楽しんでいる。

別にハルカは訓練をサボっているわけではない。

邪魔をしないように大人しくしているのだ。

カナによれば、吸血鬼に対抗するためには、まず意識的に武器へ魔素を纏わせることが必要らしい。

ハルカは一応それができる。

できるけれど、仲間たちほど器用にできない。

武器が壊れないように頑張って魔素を纏わせるより、その拳を振るった方が早いことは明白だったし、そもそもハルカの戦い方は基本的に魔法を使用するものだ。

誰よりも丈夫な体を持ち、誰よりも力があることは、ハルカの戦い方にとっておまけである。あまりに大きすぎるおまけだとしてもだ。

まぁ、つまり、意識的に身体強化や纏を使うことが下手すぎるので、自主的に引っ込んだわけだ。

「いいじゃないですかぁ、私たち魔法使いには魔法使いの戦い方があります。吸血鬼なんてねぇ、障壁で囲んでプチッとして朝まで放っておけば死にますからねぇ」

「はい、まぁ、そうなんでしょうけど……」

心ここに在らずといった返事にノクトは笑う。

その光景を想像したハルカの脳裏によぎった言葉は、戦い、ではなく処刑、である。勝ち方負け方に貴賎があるとすれば、なんとなくだが貴いほうではないような気がした。

どちらかというと、悪役っぽいような……、というのが口にしないハルカの本音だ。

単純に気分の問題である。

まぁ、ハルカに今一つ覇気がないのはダーティっぽく思われる対吸血鬼の戦い方が原因ではないのだけど。

「コツはですねぇ、命乞いをしてこない程度に圧縮しておくことですねぇ。そうじゃないとうるさいので」

「なるほど……」

障壁の上にうつ伏せに寝転がったノクトによる、悪ふざけのような露悪的な解説を聞いても、ハルカはツッコミのひとつもなく曖昧に頷く。

ノクトは横目でちらっとハルカの様子を見て笑った。また変なことで悩んでいるであろうことが、手に取るようにわかったからだ。

「よいしょっと」

障壁の上に座ったノクトは、尻尾を障壁の外へ垂らし、宙を滑るように移動してハルカの正面へ回った。

「みんなが一生懸命訓練しているのに、サボっているようで気が引けます?」

うっ、と声を漏らしたハルカに、ノクトはまた笑った。ハルカの反応を見てではない、その上にぐるぐると回っている水と炎の球の数を見て笑ったのだ。

ハルカは暇を見つけるといつも、魔法のコントロールをする訓練をしている。

自由に動かしつつ、意識の外へおく。

ノクトが普段から障壁を手足のように扱うように、ハルカは使える魔法の多くを、思考とのラグなく使えるように訓練を続けていた。

最終的には夜眠っていても障壁を維持できるようになれば上出来だが、その領域まで辿り着いた魔法使いを、ノクトは自分以外に見たことがない。

もちろんもっと破壊力のある魔法を多彩に使う者はいるが、一つの魔法のコントロールにおいて、自分より優っている存在はいないと、ノクトは確信している。

これだけの魔法を自由に空に浮かばせ、制御下に置き続けられるのならば、近い将来、ハルカはノクトのいう上出来まで辿り着くだろう。

戦い方それぞれで、努力の仕方は違う。

同じような訓練ができないからといって、サボっているように思うのは馬鹿げた話だ。

ハルカはサボっているから気が引けていると思っているようだが、ノクトは気がついてしまった。

本当はあの輪の中に入れなくてちょっと拗ねたような寂しいような気持ちを抱いているだけだと。

流石にかわいそうなので言葉にしないでやっていたが、笑いが溢れてきてしまうのも仕方なかった。

「魚が取れた、ユーリよ、ほれ、我の手で魚を取ることができ……うわっ……、ん、んん」

いつのまにか小川に入り込んでいたエニシが、片手に小魚を持ってユーリに自慢をしようと振り返り目を剥いた。

ハルカの頭上にぐるぐると大量の魔法が蠢いているのに驚いたのだ。それから気を取り直すように咳払いをしてから、いつかそれが降ってくるのではないかと警戒しつつ小川から上がってユーリの隣へやってくる。

「ほれ、ユーリよ。ここの小川にいる小魚は警戒心が薄いのだな」

「とれるのすごいね。僕、とったことなかった」

「ふむ、焼いて食べるか?」

ユーリは少し困り顔で首を傾げて、エニシを宥めるように言う。

「かわいそうだから、逃がしてあげよ?」

骨ばってるし、本当に小さい魚だし、正直食べるところなんてほとんどない。食べられるのならともかく、そうでないのならリリースだ。

「う、うむ、そうだな、そうか、少々浮かれておった。もちろん逃がしてやるとも」

長い間雅な暮らしをして、自然に触れてこなかった経験と、国を離れてひもじい思いをした経験が、エニシの判断力を鈍らせているようだ。

よく言えば童心に返っているのだろうし、悪く言えば調子に乗って浮かれている。

まぁ肝心の観察対象であるハルカがぼんやりしているのだから、少し気を抜いて浮かれたって許されるだろう。

魚を逃がして戻ってきたエニシは、ユーリに「えらいね」と言われて「別にそんなことはないがな」と胸を張った。

ここにいる四十前後の大人たちは、どうにも見た目も心も随分と若々しいようである。