軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

騒がしい露店

冒険者としての身分を証明することであっさりと街の中へ入ることができた。

身分がわかった瞬間対応が非常に丁寧なものに変わるのにも慣れてきたものだ。

〈アシュドゥル〉もまた、ご多分に漏れず商人と冒険者の街だから、なんとなく陽気というか、エネルギッシュな雰囲気で溢れている。

特に街を入ってすぐに並んでいるのが商店ではなく、露店であるというのがそれを助長していた。やる気なく座っているだけのものもいれば、土くれなのか遺物なのかわからないものを声高らかに売り込もうとしている者もいる。

まあそのお陰かあちこちで取っ組み合いのけんかも起きているようだけれども。

アルベルトが喧嘩に目を奪われ、コリンが掘り出しものっぽいものを探して首を振り、モンタナがぼろぼろの木の枝をじっと見つめて足を止める。これはしっかりしなければと気を入れ直したハルカはほんの少し進んだところで、炭火の匂いを嗅ぎつけ、その発生源を探すために辺りを見回した。

全滅である。

広い道とはいえ、その真ん中でそれぞれが好き勝手な方向を見て足を止めている。

関わらないほうがいいと判断して、そそくさと避けて歩いていく人たち。

アルベルトから発されるけんかっ早そうな雰囲気によるものか、あるいはハルカが特級冒険者としての貫禄を身に着けてきたのか。

恐らく前者だろう。

何せ一番騒がしい喧嘩を興味深そうに眺めているのだから。

今のところまだ殴り合いにはなっていないようだけれど、威勢のいい啖呵が続く。

「だっから、あんたらも勝手に持っていったんだろう!? 使い方がわからない!? 知るかばーか!」

「んだと、このガキが! 価値があるって言っただろうが!」

小さな少年がそれなりに鍛えられた男に胸ぐらを掴まれ宙に浮きあがる。

しかし少年はそれで口を閉じたりしなかった。

「俺が説明しようとしたのを聞かなかったくせに! 学術的価値があるって言ったけど、転売して成立するなんて最初から言ってないね! 頭が悪いなら悪いなりに賢そうなやつの言葉に耳を傾けたらどうなんだ!? 俺だってな、価値のわからないようなやつらに物売るのはごめんだ! 金投げて勝手に持っていったのはそっちだろ? いらないなら持ってたもの返せよ! 今返せ、そら返せ!」

持ち上げられていることなどものともせずに、両腕を突き出して男に商品を返すようにしつこく迫る。力に訴えたのに息つく間もなくしゃべり続ける少年に、男は頬を引くつかせながらも、いつの間にか精神的には追い詰められている。

「こ、この……!」

男が少年を地面にたたきつけようと高く持ち上げたが、それでも少年はしゃべり続ける。

「あー、暴力か!? 反論できないならお前の負けだからな! 勝手に金投げて持っていったくせに、今更売れないから金だけ返せだぁ? そもそも俺は売ったって言ってないんだから、訴えたらお前が罪に問われるんだからな!」

投げていいものか、止めておくべきか。

男が悩んでいるうちも言葉が延々と吐き出される。もはや周りの人間も感心して見物モードに入ってしまっていた。

「なぁ、あの小さいのって前見たことあるやつじゃね?」

しばらくじっと観察していたアルベルトが仲間たちを振り返ると、皆がそれぞれ好き勝手な方を向いていて、喧嘩なんて見ていない。

「え、あ、はい、なんですか? ……あ、ヨンさんですね、ほら、プレイヌの遺跡にいた小人族の」

「やっぱジーグムンドと一緒にいたやつだよな」

「あー、ナギ見て怒りだした人だ!」

「いたですね、そんな人」

「よく覚えてましたねぇ」

アルベルトはあの日外で訓練していてほとんど関わっていないというのに大した記憶力だ。

おそらく強者であると認識しているジーグムンドに紐づけられていたことから、記憶の片隅に残っていたのだろう。

仲間たちからみたヨンの印象は、怖いもの知らずだ。

ナギを見て開口一番常識を説いてきたのは、あの小人族のヨンくらいである。

ものすごい体格差にも一切怯えず騒ぎ続けるのはいかにも彼らしい。

「すごい早口の人がいると思ったら、あの人でしたか……。えーっと、知り合いですし仲裁に行きましょうか、一応」

ハルカが歩き出すと、ぞろぞろと仲間たちも続く。

どちらの言い分が正しいのか知らないけれど、誰かが怪我をする前に止めておこうかなぁ、程度の発想だ。

「あのー」

「なんだよ! 今いいところなんだけど!」

声をかけると、頭上に振りかぶられているヨンの方がキッとハルカのことを睨む。

遅れてハルカを見た男の方は、もはや困り顔で、ハルカに助けを求めているようにすら見えた。

「あ! あんた覚えてるぞ! 竜に乗って遺跡に来たやつだろ。ジーグなら今いないぞ、あと俺はこいつをわからせるのに忙しい!」

「いや、あの、危ないのでちゃんと地面に足を付けてお話ししませんか?」

「そうだな、そうだよな」

渡りに船とばかりにハルカの言うことを聞いて、さっさとヨンを下ろして逃げ出そうとする男に、ヨンがまた大きな声を出した。

「あ! こら! まだ話は終わってないぞ! 持ってたものを返せってば! あれはな、北西地域で見つけた新しい遺跡で見つけたものなんだからな! 調査費がないから泣く泣く売ってたけどな、お前みたいな金のことしか考えてないやつにはもったいないんだよ!」

「わかった返す、もううるさいんだよお前は! 返す返せばいいんだろ! その代わりお前も金を返せよ!?」

男はヨンを地面に無理やり下ろすと、逃げるようにその場を立ち去っていく。

「あ、待て! 俺も一緒にお前の住処まで行くぞ、そのまま逃げられたら堪らないからな! ジーグが戻ってきたらぼっこぼこにしてもらって取り返すつもりだったけど、自分から返すなら勘弁して……」

「ヨン、街の反対側にいても声が聞こえるぞ」

ぬっとあらわれた巨大な影が、呆れたように注意すると、ヨンは地面に這いつくばったまま振り返る。

追いかけたいなら足を動かせばいいのに、口ばかりが達者に動いている。

「ジーグ! 遅いんだよ! 荷物運びなんかしてないで、露店の護衛をしてくれ!」

「伝手も得られるかもしれんし、どっちも貴重な収入源だろう」

「そんな悠長なことばっかり言ってないでなぁ!」

「そんなことよりも、珍しい顔だ。特級冒険者のハルカだったか。前回に引き続きうちのが騒がしくて済まない」

「なんも迷惑かけてないんだから謝るな!」

ズボンの腰のあたりを掴んで、荷物のようにぶら下げられたヨンが騒ぐが、ジーグムンドは見向きもせずに軽く頭を下げた。

「いえ、余計なお世話だったようで」

「そんなことはない」

思いもよらぬ知人との邂逅だが、互いに言葉が多い方ではないのですぐに沈黙してしまった。

「えっと、その、すみませんが冒険者ギルドの場所を教えていただけたりしませんか?」

「ああ、そうか。案内してやろう」

話題に迷った末、当初の目的を思い出しハルカが尋ねると、ジーグムンドはあっさり了承して先を歩きだしてくれた。

なんだかんだ自分たちで探すよりも早く、冒険者ギルドにたどり着きそうである。