軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

駐竜許可

「い、いやぁ!?」

裏返った声で何かを否定する男に、更に詰め寄っていくアルベルト。

「だから、何が馬鹿なんだよ」

小さなころのアルベルトならいざしらず、今の背が高くなったアルベルトが一般人にそれをやるのは、構図が非常によろしくなかった。

若干顔をひきつらせたハルカは、すぐに駆け寄って間に入る。

すごまれている方はすでに泣き出しそうな顔になっていた。大人の男性にさせていい顔ではない。

「あ、あの、何かご迷惑おかけしましたか、という質問です。言葉が足りないだけで悪気はありませんので」

「いやいやぁ、なにもぉ、全然何も……」

ここぞとばかりにずりずりと退却していく男。

チラリとアルベルトの様子を見ると、特にハルカの解釈に間違いはないようだった。馬鹿って言ったのはなぜなのか、妥当な理由じゃなかったらぶん殴ってやろうかなくらいの気持ちは感じるが。

何事も伝え方次第である。

そうはいっても男の方はもう恐慌状態で、ぬっとあらわれたダークエルフだって怖いものは怖い。真面目な顔をしているハルカは美人なので、見下ろされるとやっぱり怖い。

しかしのろのろと退却しているうちに、男の周りにはハルカの仲間たちが集まってきてしまった。

逃亡を諦めた男は、その場に座り込んだままそれぞれの顔をみる。そして子供が二人いるのを確認してほんの少しだけ気を緩めた。その片割れはもうすぐ十九歳になるモンタナだが、見た目が子供なので、数の換算をするとそうなってしまう。

よく見れば身なりの良い子供を連れていることで、ハルカ達が特別にやばいわけではないだろうと推測したわけだ。

「ちょ、ちょっと待ってくれ……ください」

腰から外した水筒を口元に運び水を一口飲み、男は口を腕で拭った。顔に土がついたがそれは気にしないようだ。

「その、この辺で遺跡の発掘をしていたんだ……。繊細な作業をしていたから、急に天井が揺れ始めて驚いちまって……。どこのどいつのいたずらだと思って飛び出したらあんたたちがいてだな……。まさか竜が歩いてるとは思わず……」

「あー……、すみません、ご迷惑をおかけしました」

「ああ、それでか。悪かったな、ナギでけぇからなぁ」

この道、重量制限があったらしい。

馬車程度ならばともかく、どう考えても数十トンはあるナギが歩くと地下遺跡が揺れるというわけだ。踏み抜かなかっただけ幸運だったかもしれない。

ハルカに続いて素直に謝罪をしたアルベルトは、振り返ってナギを仰ぎ見る。

何か用事かと思ってぬっと首を寄せてきたナギに、男はまた小さく悲鳴を上げた。

「お前がでかいから歩くと遺跡が揺れるんだってよ」

ナギはアルベルトの話を聞くと、ずいっと頭を地面すれすれまで下げて喉をぐるると鳴らした。

そのゴメンネの意味が込められた音が通じるのはハルカ達だけで、男には捕食者の唸り声にしか聞こえない。

「ごめんなさいって言ってるみたい」

ユーリが通訳をしてやっても黙って頷くことしかできなかった。

しかしそうなるとのんびり行進しているだけであちらこちらに迷惑をかけることになる。なにせ〈アシュドゥル〉へ向かう道から少しそれるとあちこちに旗が立っているのだ。似たようなことは必ず起こるだろう。

「すみませんが〈アシュドゥル〉の街付近で、地盤がしっかりしていて遺跡が近くにない場所に心当たりはないでしょうか……?」

「え、あー……遺跡のない場所なんて…………。遺跡はあるけれど、上に降りて良さそうな場所なら……、いや、でもやっぱり一度ギルドに許可を取った方がいいんじゃないかと思う、ます」

考え込むとそちらにのめり込んでしまうタイプなのか、しばらくの間ハルカ達の前にいることを気にせずにぶつぶつと呟いていた男だったが、顔を上げて現状を思い出すと、取り繕ったように最後に『ます』とくっつけた。

「ありがとうございます。ご迷惑おかけしてすみませんでした。できるだけ静かに立ち去ります」

「あ、あぁ……、頼む、ます」

木に手をつきながらそっと立ち上がった男は、ハルカ達から目を離さないようにじりじりと茂みの中へと消えていった。野生動物ではないのだから、目を離したところで襲ったりしないのに慎重なことだ。

「さて……、街まで先行して許可をもらってきましょうか。あの様子だと、許可をもらうこと自体は難しそうでありませんし」

「俺も行く」

「私も」

立候補はアルベルト。

それを聞いて続くコリン。

「じゃあモンタナも一緒に行ってきなよ。僕とユーリはナギとお留守番かな。冒険者ギルドに行くならその方がいいでしょ。特級冒険者と一級冒険者三人で行って、断られることもないだろうし」

「ですか」

特に声をかけることもなくユーリを抱き上げたイーストンは、喋りながらハルカが障壁で作った階段を昇り、ナギの背中に乗り込んだ。

「さっき降りたとこで待ってるね」

小さな手を振ってユーリがおとなしく運ばれていく。

「ああ、アルたちがはぐれないように気を付けてね」

「わかってるです」

「……ん?」

「今イースさん、達って言った?」

アルベルトは怪訝な表情、コリンは不本意そうだ。

「人が多いからさ」

イーストンがふっと笑ってナギの背中をポンポンと何度か叩くと、ゆっくりとその巨体が浮かび上がって空に昇っていく。

「……えー、寄り道せず皆でちゃんとギルドにたどり着きましょうね」

地図を読めるようになっても、慣れていない街中ではまだまだ迷う可能性の高いコリン。

そもそも適当に進むから手掛かりを見落とすアルベルト。

ふらっといなくなるのを、時折よそ見するハルカ一人で防ぐのは難しいと、イーストンはよくわかっていたようであった。