作品タイトル不明
地元民との交流
遠くからモンタナとユーリを観察していると、ややあってからひょっこりと子供たちが顔を出した。見た目だとユーリと同じくらい、つまりユーリより少し年上の子たちだろう。
わらわらと出てきた男たちは、斧こそ持っているが戦闘の専門家である騎士や冒険者の姿は見えない。見ての通り木こりなのだろう。
話が終わってモンタナが戻ってくると、その後ろにとことこと子供たちがついてくる。大人たちが何かを言ってそれを追いかけ捕まえるが、子供たちはモンタナとユーリ、それからぺったりと地面に顎を付けている竜を指さして足をばたつかせている。
そんな彼らをおいて一足先に戻ってきたモンタナは、振り返って告げる。
「大きいから怖がってるですけど、そもそも竜をよく知らないみたいです」
「そうなんですか? 子供たちまで連れて外へ出て、危険はないのでしょうか?」
「管理された森だって言ってたです。……ヴィスタ近郊に肉食動物がでることなんてめったにないそうです」
「平和、なんですね」
「そですね。冒険者の人気があまりない理由がわかるです」
街の外へ出ても危険がなければ。
人が充実して誰もが手に職を持っていれば。
良く言えば何でも屋で、悪く言えば何をやらせても中途半端で荒くれである冒険者の居場所はどんどん狭くなっていく。
〈ヴィスタ〉の街で冒険者人気が低い理由がよくわかってしまう。
与えられた仕事といえば街の掃除や、一部の力仕事くらいなのだろう。そこに憧れは抱けない。
「竜って車を引くやつ? って聞かれた。でっかくてかっこいいって言ってたよ」
「そうですか……。嬉しいですね」
少し誇らしげに教えてくれるのはユーリ。
それで子供たちがこちらへ寄ってこようとしているのだろう。
ただ冷静な大人からすれば、冒険者というのは定職を持たない怪しい人物だし、竜と言われてもこれほど巨大な生き物は当然恐ろしい。いくら平和な世界に住んでいても、世の中に自分たちを害すものなどいないと思うほどにおめでたい頭はしていないのだ。
それでもユーリに優しい笑顔で接するハルカが遠目からでも見えたからか、木こりたちは子供たちをそれぞれ抱き上げながらそーっと近寄ってくる。そして一定の距離まで近づいたところで、じろりとアルベルトに見られて足を止めた。
アルベルトにしてみれば睨んでいるつもりなんかなかったのだが、巨大な剣を背負った背の高い男性は怖いのだろう。
冒険者の感覚からするとナギに近づく方がよっぽど危険なのだが、彼らの中ではそうでもないのかもしれない。なんにせよ自分が強くないという自覚があるのなら、警戒するのは悪いことではない。
問題があるとすれば、止まったそこがすでにアルベルトにとってもナギにとっても必殺の射程圏内だということくらいだろう。つまり警戒してる意味は全くない。
「ナギが珍しいですか?」
「……うん」
ハルカは歩み寄らずにその場から声をかける。
足をブランとして抱き上げられたまま、子供がこくりと頷いた。
「すみません、どうしても気になるみたいです……」
「いいんですよ。いろんなことに興味を持つのはいいことです」
「姉ちゃんは何?」
「あ、こら!」
抱き上げているせいで両手がふさがっていて口をふさぐこともできない。男は子供を叱責すると、ぐるりと背中を向けて振り返りながら「すみませんね」とぺこぺこ謝る。
「いいんですよ。種族でしたらダークエルフですね、多分」
「多分って何?」「変なのー!」と次々声が上がり大人たちは慌てるが、ハルカは笑うだけでそんなことで怒ったりしない。自分の種族を多分と答える自分が変なことも分かるから、子供は正直だなと思ったぐらいだ。
「ハルカ=ヤマギシと申します。皆さんはナギに興味があるんですか?」
「ナギ?」
「この大きな竜のことです」
「うん! こんなでかいの見たことない!」
「そうですか。……あの、皆さんのお邪魔でなければお子さんたちにナギを見せてやってください。おとなしい子ですから危険はありませんよ」
愛想笑いをして子供たちを放さないのは木こり達だ。
子供たちは足をばたつかせているが、放さない気持ちもわかる。
しかし一部の木こりの目もナギにくぎ付けになっているから、気にはなっているのだろうとわかる。
「ナギも昔はこれくらいの卵だったんですよ。小さなころは私の背中に張り付いていたんです」
「うっそだー」
「本当ですよ。数カ月で私より大きくなってしまいましたけどね」
「何歳なのー?」
「ナギなら二歳とちょっとでしょうか?」
「二歳!?」
子供たちではなく驚いた木こりが声を上げる。その隙に拘束を抜け出した子供が一人ナギの方へ走っていくが、ナギは視線でそれを追いかけるだけで動こうとしない。慌てて追いかけた木こりだったが、追いついたころには子供はナギの顔の前までやってきていた。
「お、うおぉ……」
圧倒され足を震わせながら声を漏らす木こりと、目を輝かせてその鱗を叩く子供。
ハルカは驚かさないようにゆっくりと歩み寄ってナギに声をかける。
「この子がナギのことを気に入ったそうですよ」
低い地面が揺れるような唸り声が聞こえ、木こりが腰を抜かす。ナギのご機嫌なお返事は大人の度肝を抜くには十分すぎるほどの威力がある。
子供はしばらく固まった後「すげえぇえ」と目を輝かせて足をじたばたとさせた。
「迎えが来るまでここにいますので、良かったら皆さんも」
他の木こりと子供たちもじりじりと近づいてきて、やがてナギの顔の目の前までやってくる。
ハルカはそれが嬉しくて、それぞれに無駄にサービスして笑顔を振りまいた。
コーディが護衛を連れてやってきたころには、その場にはすっかり和気あいあいとした空気が流れていた。
ナギをユーリと一緒に撫でている子供がいれば、モンタナやアルベルトと一緒に棒を振り回している子供もいる。
おませな少女たちはイーストンに夢中で、木こり達はおしゃべり上手なコリンとおしゃべりをして、ハルカは穏やかな表情でそれを見守っていた。
「なーにしてるんだろうね、この人たちは」
今日は木こりがこのあたりに居ることを把握していたコーディは、トラブルになっている可能性も考えて割と急いできたのだが、どうやら杞憂だったようである。
近いうちにハルカ達がやってくることは当然のように予測していたのだが、まさかこんな光景になっているとはさすがのコーディも予想しえなかった。