作品タイトル不明
その角度からの話
ハルカ達はサラとその両親を交えて、サラの冒険者活動について相談をした。
乗り気なサラに対して、両親は以前とは違って苦笑するくらいで、強く否定するつもりはなさそうだ。
「まぁ、本人がこれだけ言うのだからもう仕方ないでしょう」
父親であるダスティンの言葉に、ハルカは思わず問い返す。
「……いいんですか?」
〈ヴィスタ〉の街を出る時の騒動からは想像がつかないような物分かりの良さだ。
「この子ももう成人ですし、私達がやってあげられることは全部しました。これからきちんと生きていくことを考えれば、街へ出て冒険者として活動することは、サラにとって必要なことでしょう?」
「それは……、そうですね」
「もともと私たちは、サラが立派に生きていくためにどうするべきか考えてきただけです。突拍子もないことを言い出したんでなければ、素直に送り出してやりますよ。それとも、サラは冒険者となるには実力不足でしょうか……?」
「……いえ」
ハルカは日ごろのサラの様子を思い浮かべながらゆっくりと首を横に振る。
毎日の魔法の訓練。朝には他の冒険者たちについていけないまでも、真面目に体力づくり。食事時には母であるダリアの手伝いをして、魔物が獲れれば間近で解体の観察をする。
寝る前にはモンタナやフロスから植物について話を聞いたり、ノクトやイーストンに冒険や旅の話をねだっている。
その生活すべてが、冒険者として生きていくための糧となるもので、しかもそれは強制されたのではなく、自主的に行われてきたものだ。
サラはその前のめりな性格から危なっかしく見える部分は確かにある。しかし、ハルカの心配性フィルターさえ通さなければ、街で中級冒険者くらいまでの活動をするのには本来何の支障もないはずなのである。
「あの、ハルカさんは、反対でしょうか……?」
実際のところサラが一番気にしている相手というのはハルカだ。サラはハルカが白といえば、黒いものも悩みつつ白かもしれないですといえる程度の謎の従順さを持っている。
「私も【竜の庭】に所属させてもらっている以上、いつまでもおまけのままでは嫌なんです。皆さんみたいにすぐに結果は出せないかもしれませんが、私だって……」
言葉に焦りを感じ取ったハルカは、考えるのをやめてサラと向き合う。
「サラ、焦らず、命を大事に活動してください。無理をし過ぎず、疲れたときは休むことも大切です。どうしてもうまくいかなくなったら、帰ってきてちゃんと相談してください」
「……はい!」
サラは椅子をがたんと後ろに動かして立ち上がって返事をした。そういうところがハルカにとっては少し心配なのだけれど、周りはそうでもないようだ。
つい先日アルベルトの成長を喜んでいたハルカだったが、当時のアルベルトの無鉄砲さと短気さを、すでに忘れてしまっているようだ。横にコリンがいて、ある程度行動をセーブしてくれていたとはいえ、比較してみればサラの方がよほど落ち着いている。
話が終わり会議の場が解散となった時、サラがハルカの近くへ寄って声をかけてきた。
「あの、ハルカさん」
「はい、どうしました?」
「一つ別で相談したいことがあって……。いつでもいいので時間とれないでしょうか?」
「今でも構いませんよ?」
ハルカが話を聞こうと腰を下ろしてみるが、サラはもじもじしているだけで座らない。
「あの、他の人に聞かれない場所が良くて……」
「ええと、わかりました。じゃあ歩きながらにしましょうか」
内緒話に心当たりはないけれど、今から拠点を離れて頑張ってこようという子の話だ。なんでもとりあえず聞いてあげようと、ハルカは立ち上がって歩き出す。拠点と言っても家が集まっている場所はそのうちのごく一部だから、少し歩けば周りにはすぐに誰もいなくなる。
本流から引っ張ってきた小川沿いに歩いて下流側へ向かっていく。しばらく無言で歩いていた二人だが、周りに人の気配がなくなったあたりでようやくサラが口を開いた。
「あの、私、この拠点に来た頃から新しく夢を見るようになったんです」
ハルカたちはすっかり忘れているけれど、サラは未来を映すような夢を見ることがある神子だ。オラクル教の中にいればもっと大切に扱われるべき存在なのだが、この拠点にいると一人の子供として普通にかわいがられているくらいである。
未来を断片的にでも見ることのできる能力を活かそうとするものがまるでいないのは、無欲ともいえるし、宝の持ち腐れともいえるだろう。
「そうですか。未来のことですよね?」
「はい。……私は、一応、その、オラクル教の教徒です。でも、ハルカさんに出会ってから自分でもいろんなことを考えるようになりました。それで、その」
不安げな表情を浮かべているサラを見て、ハルカは歩む速度を緩め足を留めた。小川の流れに目をやると、ちゃっぽんと魚が跳ねる。
「大丈夫ですよ、続けてください」
ハルカが続きを促すと、サラはもう一度ハルカの顔を窺ってから、勇気を振り絞って言葉を続けた。
「あの、ハルカさんが、 破壊者(ルインズ) たちと一緒にいて、そこには多分、私や皆さんも一緒にいました。あれは、リザードマン、なんでしょうか。それに、羽の生えた女性も……」
「あ、あー……」
「変なことを、言っているでしょうか?」
変なことではない。もし今のハルカの立場がばれた場合に、十分に起こりうる未来の話だ。特に人生の殆んどをオラクル教徒として生きてきたサラからしたら、目を疑う光景だっただろう。
救いがあるとするのならば、その場にサラ自身がいたという夢の状況である。
それはつまり、失敗さえしなければサラもあの 破壊者(ルインズ) たちと馴染むことができるということに他ならない。
「何か知っているんですね?」
「ええ、まぁ、そうですね……」
ハルカの反応が良くなかった。あいまいな反応は、何かあると白状しているようなものである。
「教えてください。私、ハルカさんの言うことなら信じます」
「……そうですね。それじゃあ座ってお話ししましょうか」
草の上に腰を下ろすと、サラも真剣な顔をして隣に座る。
ハルカが何から話すべきか考えている間も、サラはその横顔を穴が開くほどに見つめていた。