軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

育成方針

拠点では夜にも大きな焚火がしっかりと焚かれている。

それぞれが部屋でゆっくり休めばいいのに、ハルカたち冒険者組は眠る少し前まで外で何かをしていることが多い。焚火のお陰で暗くなってからも多少の手作業がしやすいとか、外で夜を過ごす感覚を忘れないようにとか、それぞれ理由はあるようだ。

アルベルトとタゴス、それにカオルが加わって、それぞれ武器の手入れをしながら、顔も上げずにあーでもないこーでもないと戦いの手順の話をして楽しそうにしている。冒険者らしい単純な手合いとはアルベルトが一番相性がいい。

ハルカの横にはカーミラ。少し離れてイーストンが座り、これまた剣の手入れをしていた。

少し火から離れると、ユーリの祖父であるナディムが、ノクトと一緒にのんびりと酒を飲んでいる。帝国にいたときは毎日浴びるように飲み、酔っていない時の方が少なかったくらいのナディムだが、今はたしなむ程度に抑えているようだ。

表情も随分と険がとれて、すっかりユーリのいいお爺ちゃんをしている。

そんな中、エリからサラの冒険者活動について相談され、ハルカは悩みこんでいた。

少し前に、コリンとカオル、それからエリと連れ立って〈黄昏の森〉を歩いたサラは、どうしても冒険者としての活動をしてみたくなったらしい。なんでも出てきた魔物を倒した先輩たちの姿がかっこよかったのだそうだ。

サラが一度言い出したらなかなか引かない性格であることは、ハルカもよく知っている。

一人で悩んでいても答えが出ないと、ハルカは顔を上げて近くにいたイーストンへ声をかける。隣にはカーミラがいるが、冒険者ではなく引きこもり体質なので、こちらに相談してもあまり意味がない。

「イースさん、サラが冒険者らしい活動をしたいと言っているんですが、どう思いますか?」

「いいんじゃないかな。確かアルだって冒険者として活動し始めたのって十四歳でしょ。街を離れたのが十五歳。今のサラとそう変わらないじゃない」

「それは、そうなんですけど……」

いつの間にやら両親の説得も済ませていたようで、ハルカが許可さえ出すならばと丸投げされてしまっている。

ハルカだってサラの実力を認めていないわけではないのだけれど、不測の事態というのはいついかなる時に起きるとも限らない。つい数日前にはベテランであるレートンだってトラブルに巻き込まれて瀕死の重傷を負ったのだ。

「過保護だよ。ハルカさんはいつもそうだけど。心配ならこっそり見守ってあげたら?」

「そうですね、私がこっそりついていけば……」

隣に座っていたカーミラが、それって両方過保護なんじゃないかしら、と考えていたところで、酒を片手にノクトがよたよたと歩いてくる。長い尻尾が地面に引きずられ、ざりざりと音を立てた。

「飛んでばかりいると、そのうち歩けなくなるですよ」とモンタナが言い出してからは、ユーリやサラ、それにハルカからも心配されてしまい、最近は仕方なくのろのろと散歩をしている。

「大丈夫ですよぉ」との本人の言葉通り、のろいだけで足取りがおぼつかないというわけではないようだ。

すぐ隣についているナディムが心配そうに見守るくらいには本当にのろいのだが。

見た目はかわいらしい子供なのに、すっかり隠居老人扱いである。

「そういうことしてるとねぇ、嫌がられますよぉ」

ペタンと近くに腰を下ろしたノクトは、笑いながらハルカとイーストンに注意をする。

「そういうこととは?」

「ですからぁ、たまには信用して送り出してあげるのも大事、ってことです。成長するための経験を奪うのは、保護者の務めではありませんよぉ」

「それはそうですが……」

「ハルカさんは、サラさんが死ぬまでずっとここに閉じ込めておくつもりですかぁ?」

「……いえ、まさか」

穏やかなノクトの言葉に、なぜかひやりと背筋と心臓が冷たくなる。

何もしないこと、何も選ばないこと、そして縮こまって何かになることを諦めることの怖さをハルカは知っている。

「だったら〈オランズ〉の冒険者ギルドに行かせてぇ、ちゃんと活動させてあげたらいいじゃないですかぁ」

刀の手入れを終えたのか、耳を傾けていたカオルやアルベルトがやってきて近くへ腰を下ろす。タゴスは満足したのか、武器の刃を炎にかざしてきらりと輝かせ、一人のしのしと自分の小屋へと帰っていった。

「サラ殿は十五でござったな。……アルビナ殿とパーティを組んでみるというのはどうでござろう? 性格はあんなでござるが頼りになる前衛でござるよ?」

「アルビナさん、ですか……。嫌がるんじゃないでしょうか?」

「お互い良い勉強になると思うでござる。もしそうするのなら拙者からもエリ殿からも話をするでござるよ」

「それも、ありですかね……。あ、そういえば街へ行ったときに、イースさんと同じ時期に冒険者登録した子たちと会ったんですよ。中級に足をかけたくらいでしたから、あの子たちにお願いするって手もありますね……」

ノクトの言葉を受けてハルカが前向きに環境を整えることを考え始めたところに、アルベルトが水を差す。

「つーかよ、サラって十級だろ。まず階級あげねぇと話になんねぇだろ」

「あ」

「そうでござった」

「……飛び級でいいじゃないですかねぇ」

最後に贔屓のようなことを言い出したのは、さっきまでハルカをいさめていたノクトだった。自分の教え子という認識があるのか、ノクトだって十分に甘い。しかもこれをギルドに直接伝えたら、本当に飛び級しそうな怖さがある。

「駄目に決まってんだろ。ずるさせてもそいつのためにならねぇよ」

「アル、立派になりましたね……」

下働きがしたいんじゃないと、床を転げながら文句を言っていたアルベルトの姿を思い出して、その成長ぶりにハルカは感動していた。

「冗談ですよぉ、ふへへへ」

「ホントかよ、このじじい」

アルベルトがじろりと睨んでもノクトはほんの少しの動揺を見せることもない。ふへふへと笑って、手に持った酒をちびりと飲んだ。

「結局〈オランズ〉で冒険者活動させるってことでいいのかな」

「そうですね、十級のままじゃ仕方ありませんし……」

「もう一人十級の人がここにいますけどねぇ、それはいいんですかぁ?」

結論が出たところで、ノクトが楽しそうにイーストンのことをからかう。

「いいの、僕は」

八十代の青年は、じろりと三桁歳の少年を睨みつけるのだった。