作品タイトル不明
カーミラの生き方
木漏れ日の中、カーミラがくるくると日傘を回しながら歩く。
たまに引っ掛かりそうになる枝を器用によけるのは、カーミラの元のスペックが高いからだろう。
頻繁に会話が交わされるわけでもないのに、あちこち見まわしているカーミラは少しだけ楽しそうだ。自分が主体で暮らしていると、日中に外を歩き回ることもないから物珍しいのかもしれない。
ハルカは日が暮れる前に魔法で木を切り倒し、数人が休憩をとれる程度の広場を作る。歩いて拠点へやってくる人のために、こういった休憩所をいくつか作りながら街へ向かうつもりだ。
人の行き来が頻繁になれば道の整備をする必要もなくなる。
道を整備することによって、拠点にホイホイめんどくさい人物がやってきても困るという考えもあるのだが、残念なことに面倒な人物というのは道があろうがなかろうが普通にやってくる。
だったら交通の便を良くしておくことにデメリットはほとんどないだろう。
倒した木を細かくして広場の中心にいくつか重ね、魔法による強い火で、無理やり水気を飛ばして焚火を作る。近くに同じように木々を重ねておけば、勝手に乾いて追加の薪として使うことができる。
生乾きでもハルカがさらに火を焚けばいいので気楽なものだ。完全に力技の焚火作りだ。
切り倒した木の一本に腰を下ろしたカーミラが、ブーツを脱いでパタパタと足を動かす。珍しく長いズボンをはいており、その裾はずいぶんと草の汁で汚れてしまっていた。
「疲れましたか?」
「そうでもないわ」
「服が汚れてしまいましたね」
「そうね。……お姉様、私森を歩くのには慣れているのよ? 昼間ではなく夜だけど」
ハルカの質問で、何か誤解があるらしいことに気づいたカーミラが首をかしげる。
完全に箱入りのお嬢様の印象がついてしまっていたハルカには、カーミラが森に慣れている理由がわからない。
「……私、これでも迷いの森の主と呼ばれてたの。屋敷のある場所は深い森の中だったのよ。多分拠点にいる誰より、私の方が森のことに詳しいと思うの」
「……そうでした。なんだかカーミラを見ていると、都会のお嬢様のような気がしてきてしまうんですよね。拠点にいるときはドレスのような服ばかり着ていますし」
「あっちの方が可愛らしいもの。この傘にも本当はひらひらした服の方が似合うのだけれど……、森を歩くのなら仕方ないわね」
拠点にいると気がつかないけれど、こうして外に出てみると意外なほどに生活力に溢れるカーミラである。
どうやら普段は人に甘えているだけであって、能力がないわけではないらしい。
通算数百年、たった一人きりで森の中を生きてきた強者だ。考えてみれば当然のことである。
「色々と詳しいのなら、それらしく振舞ってもいいんですよ?」
能ある鷹は爪を隠すという。もしハルカたちに遠慮してもどかしい思いをしているならと言ってみたが、カーミラから返ってきた答えは気の抜けるものだった。
「……自分でやるより、やってもらってお礼を言う方がみんな喜ぶのよね。だから私、誰かがいるときは自分で働かないことにしてるの」
「まぁ……、そういう需要もありますか……」
それで周りのやる気が出て仕事がはかどるのなら、それも立派な役割だ。
モチベーション維持係。
一見何の効果もなさそうだが、作業効率を見比べたら案外役に立ってそうだ。
そういえば最初に出会った時も、一番高い位置で偉そうに踏ん反り返っていたことをハルカは思い出す。あの時の印象と今を比べると、随分とかわいらしくなったものだが。
「カーミラは、街へ行って何かやりたいことがあったんですか?」
「街へ行ってというより、たまにはお姉様を独占しようと思っただけね。旅に出ちゃうとついていきたくないし、こっちにいる間に構ってもらおうと思ったの」
あまりにも普通の子供みたいな理由で、ハルカは思わず笑ってしまった。今更カーミラが悪さをするかもなんて考えてはいないけれど、何を聞いても想像通りの答えが返ってくるのが面白い。
態度に示しているものが全部だとわかると、付き合うのも気楽になるというものだ。
「それじゃあうろうろしてみましょうね。私は一つ用事があるんですよ」
「何かしら?」
「はい、名刺を作ろうと思っているんです」
前々から考えていたことだった。
特級冒険者として名乗らなければいけない場面が多々あるのだけれど、実際に身分を明かすとなるとひけらかすような気分になってしまい口ごもってしまうことが多い。
その点名刺ならば『私、こういうものです』で済む。気持ちの面でかなりハードルが下がるのだ。
それに真似し難い加工を入れておけば、相手が依頼のために拠点を訪れてくれた時の身分証代わりにもなる。
できれば金属を薄手にしたもので作れたらと考えているところだけれど、その辺は実現できるものなのかがわからない。
「名刺ってなにかしら?」
「身分の証明ですね。私だったら『竜の庭』に所属する特級冒険者の、ハルカ=ヤマギシという情報が書かれるわけです。いちいち言葉にしなくても、こういうものですと言って渡せば通じるので便利なんですよ」
「……普通に言えばいいんじゃないかしら?」
「みんなそう言うんですよね……。でも私には必要なんです」
この世界の人には理解されないけれど、ハルカにとっては本当に名案だったのだ。しばらく旅に出ないタイミングを見計らって作るつもりでいたから、今回のお出かけは渡りに船だった。