軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

支払い方法

モンタナの古い知人らしいベックは、ハルカが傷を治してからはすっかり静かになり、下を向いて歩くようになった。モンタナから近づくこともなかったし、ベックから謝罪の言葉が出ることもなかった。

互いに関係の改善を求めているわけではないようだから、周りも余計なお世話はしない。

ちゃんと支払いをするという約束さえさせてしまえば、あとは街へ戻るのは簡単だった。ハルカがちょっと広い障壁を出して、そこに全員をのっけて飛んでいけば済む話だからだ。

コリンは「楽をさせるとありがたみがなー」とやや渋っていたが、結局二日も三日も時間をかけて帰る方がもったいないと判断して、さっさと街へ戻ることに同意した。

若者たちはどんよりとした雰囲気を見せていたけれど、障壁にのって空を飛ぶと、半分くらいは目を輝かせて少年のような顔つきになっていた。今回は無謀なことをした若者たちであったが、それは裏返せば好奇心が旺盛で、挑戦する気概を持っているということだ。

体験したことのない空の旅には、借金を吹き飛ばすくらいの感動があったようである。

夕暮れにはグリヴォイの付近まで戻ってきたハルカたちは、少し手前で道へ降りると、そのまま歩いて街へと向かう。

泥だらけ血だらけの若者たちを見た門兵たちは、はじめのうち大層驚いていたけれど、誰にも怪我がないことを確認して妙な顔をしていた。

ハルカが治癒魔法を使えることは特別隠していないのだが、わざわざ喧伝するつもりもない。若者にも、べらべらと喋らないように軽くくぎを刺している。

街へ入ると、今回の支払いについて、コリンが決めた額をそれぞれ一人ずつにきちんと伝えて解散させた。すぐでなくてもよいけれど、冒険者ギルドを通して必ず支払うようにきつく言い渡している。

支払期限は二年以内。

彼らが毎日節制しながら地道に働きさえすれば、生活しながら支払うことができる期間だ。もし支払わなければ、しっかりきっかり取り立てに来るつもりである。

「逃げられると思ってるなら好きにしたら」というのが、最後にコリンがかけた脅しだった。

わざわざ書面で家の場所や家族構成まで書き出させているのを見て、ハルカは目を丸くしたけれど、今すぐに借金してでも支払えと言わない分優しいくらいだ。

支部長や街の統治者である伯爵、それに親方衆の協力があるのだから、約束を破って逃げ出そうとすればすぐにわかる。そんな輩がいたら、流石に今度は容赦することはないだろう。

冒険者ギルドの横の連携は案外しっかりとしているから、街から逃げ出したところで指名手配扱いだ。

ハルカたちはグリヴォイの支部長であるパッソアに事情を伝え、大量の魔物の肉を納品する。急な納品にギルドがあわただしく動き出したので、ハルカたちは邪魔にならないように、さっさとその場を後にした。

こちらの支払いもまた後日だ。

ハルカ達は残った魔物の肉を持ったまま街の外へ戻る。

今日もハルカは手土産を山ほど持って兵士たちに差し入れし、それからお留守番していたナギの前に魔物の肉を広げた。

成体の竜は数日間食事をしないくらい何でもないけれど、あればいくらでも食べるのもまた竜である。

久しぶりの用意してもらった食事に、ナギははじめ「いいの?」と言いたげにハルカたちの顔を確認する。

「留守番ばかりですみません。お土産なので食べてくださいね」

そう言ってハルカが口の端を軽くたたいてやると、ナギはぐるると喉を鳴らして魔物の肉に食らいついた。生だろうが多少凍っていようが、そんなことは竜にとって大した問題ではない。

ナギが口を開くたびに肉の山が減っていくのは壮観である。

いつも通り火を起こし、今日は街で買ってきたもので夕食を済ませ、訓練をしてからまた焚火を囲む。

「なんかさー……、いろいろ言っちゃったけど、私たちも昔は危なっかしく見えてたのかなー」

コリンが棒で薪をつつくと、下の方が崩れて軽く火の粉が舞う。

「割と堅実にやってた……、つもりですけど」

「そですね。無茶はしなかったつもりです」

モンタナは焚火の灯りで剣の整備をしながら答える。

「タイラントボアが出たときは驚いたけどねー」

「あー、でかかったもんな。マジでビビった。今じゃ一人でもなんとかできるけどな」

「……そう考えると、ずいぶん成長しましたよね」

「そですね。結構強くなったです」

「でもまだ全然勝てる気がしねぇ奴らもいるんだよなぁ……」

ごろんと仰向けに寝転がりながら、アルベルトがぼやいた。

「のんびりやっていきましょう。まだアルは若いんですから」

「あのなぁ、ハルカも入ってんだからな、勝てる気がしねぇ奴の中に」

「あー……、私はほら、よくわからない枠ですから」

「わかるとかわかんねぇとかじゃねぇんだよ」

口をへの字にしたアルベルトに、ハルカは苦笑するばかりだ。

ハルカの理不尽な力を見せつけられ続けても、そのうち追いつくという気概を失わないのが、アルベルトの美点かもしれない。

アルベルトが頑張れば、モンタナも負けじと頑張るし、コリンだって何とかついていこうと手を緩めない。ハルカだって一緒にいて恥ずかしくないようにと、毎日の訓練をさぼったことはなかった。

思っている以上にアルベルトはチームの軸になっているのだけれど、おそらく本人はその自覚がない。

アルベルトのボヤキを最後に会話が途切れ、全員が荷物を枕にして寝転がる。

ここは街のすぐ近く。

近くではナギも寝ているし、めったなことは起こらないはずだ。

いつもよりほんの少し警戒を緩めて、ハルカたちは目を閉じるのであった。