軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ずんぐりむっくり

ハルカのいる場所から見る限り、動いている小鬼の姿はなさそうだった。もしかしたら死体の中に紛れて息を潜めているものもいるかもしれないけれど、それを確認する気力は残っていない。

一息入れてからでないと、この大量の死体を処理する気は起きなかった。

前を見ても振り返っても小鬼の死体。

血と臓物の臭いがあたりに充満していた。

遠くに洞穴のようなものが見えて、その近くにレジーナとミアーがいるのが見えた。

ハルカは空を飛んでそちらへ合流する。

洞穴の前には、ハルカが仕留めたのではない小鬼の死体がいくつも転がっていた。切断ではなく、殴殺。レジーナの手によるものだろう。

「こん中にいた奴が飛びかかってきたから殺した」

「怪我はありませんか?」

「ねぇよ、こんな雑魚ども相手に」

レジーナの態度はいつもと変わらない。それに僅かな日常を感じたハルカは、肩の力を少しだけ抜いた。

「この洞穴は?」

「ミアー達の家。奥にハニー隠れテるかも」

「全滅って言ってませんでしたか……?」

「勝テないから、そのうち見つかって全滅ッテ思ッタ! 二人強くテ勝ッタから、探しに行く!」

先に洞穴に飛び込もうと空に浮いたミアーの足を、レジーナがつかんだ。

「探しに行くの駄目?」

「お前弱いんだから引っ込んでろ」

「ミアー強い!」

「あ?」

「ミアー弱い……、レジーナトハルカ強い……」

レジーナに凄まれるとミアーはすぐにしゅんとなって地面に降りた。そうして先に洞窟へ入ったレジーナの後ろをとぼとぼとついていく。

レジーナは言葉こそきついが、あれで自分より弱いやつを守ろうって気持ちの表れだ。

チームに入ってからはユーリのことを気にしているし、無自覚なりに成長はしているのだろう。

いいことをしているので、ハルカとしても言葉遣いまで直すようにとは言いづらい。

洞穴はそれほど深くないようだったが、少し中へ入ると広いホールのようになっていた。

僅かに光の差し込む隙間があるようだが、基本的には薄暗いようで、ハルカはレジーナの頭の上あたりに、光の球を浮かせてやった。

ホールの端には煮炊き用の台所らしきものがあったり、どこからか持ってきたかわからない、古びた桶やら道具があちこちに転がっている。

ハーピー達は手先が羽根になっているから、自ら道具を作るのは難しい。きっと空を飛んで、どこかから拾ってきたか盗ってきたかしたのだろう。

奥を見ると藁が山ほど積み重なっているスペースがあって、ミアーがそわそわと体を揺らしながらそちらを見ている。

「あちらに何かあるんですか?」

「なんデわかッタ!?」

「いえ、なんか気にされているので。小鬼の姿も見えませんし、確認に行って構いませんよ。ね、レジーナ」

「いいんじゃねぇの」

許可が出るとミアーは真っ直ぐに藁の山へ飛んでいき、それを足で掴んでは放り投げてを繰り返す。

「ハニー、ミアー帰ってきタよ。小鬼倒しタから、もう大丈夫、いタら返事しテ」

しばらく藁をひっくり返していたミアーを見守っていたハルカとレジーナだったが、やがて視界の端にのそーっと動く影を見つけて、そちらに目をやった。

そこには丸く大きな毛玉、例えるのならば巨大なフクロウのような生き物がいた。

ハルカ達が見ていることに気がつくと、驚いたように動きを止めて、その黄色い嘴を開けた。

「ミアーミアー! 僕はこっち、あと知らない人がいる!」

「ハニー! そこにいたんだ!」

ミアーが飛びつくと、その毛玉はそのまま一緒にゴロゴロと転がっていき、壁にぶつかって動きを止めた。

「生きテタよかッタ、よかッタ!」

「ミアー、それより知らない人!」

「あれはハルカとレジーナ!」

「誰!」

「リザードマンの王様!」

「ひぇ、ごめんなさい! ご飯がなくテ、僕は戦いになんか行かないよう止めタんですぅ」

ハーピー達の仲間にしてはやけに賢そうな言葉を話す毛玉だった。

「そちらが、その、ハニーですか?」

「ミアー達の 番(つがい) のウペロペですぅ」

「無事なのはあなただけ……?」

「いえ、外に出テ行かなかっタ、おとなしい子達はこちらに。出テおいで」

ウペロペが声をかけると、ガラクタの中から3つ、ボサボサ頭の小さな顔が現れた。

「ミアー、帰ッタ?」

「怖かッタ」

「出テいいの?」

それはミアーたちと同じ形をした、ハーピーの子供達だった。

「これデ全部?」

「うん、ごめんね、ミアー。これで全員」

「そっか、いっぱい死んダ。……デも大丈夫! ハニーいれば、まタ増やせばいい!」

「……そうダね」

ミアーが羽根でウペロペの丸い背中を励ますようにパシパシと叩く。

ハルカ達にはハーピーの生態というのはあまりよくわかっていないが、なかなかしぶとく強い心を持っているようだ。

「どちらにせよ、ここで暮らすのは難しいでしょう。一度リザードマンの里まで戻りませんか?」

「そうダ、ハニー、リザードマンのトこ戻る!」

「お、怒ッテなかッタ?」

「怒ッテタ!」

「ひぇええ……」

及び腰のウペロペだったが、ミアーに半ば転がされるように洞穴の外まで連れてこられ、凄惨な光景を見てまた「ひぇッ」と声をあげ、今度は気をうしなった。

どうやら女性が強い社会のようで、その分ウペロペは臆病で弱々しい性格をしているようである。

「ハニー、どうしタ? 静かになッテ怒ッテるのか? ミアーはハニーが生きテテ嬉しいぞ」

気を失ったウペロペをペシペシと優しく叩くミアー。

「ミアーさん、ウペロペさんは飛べるんですか?」

「飛べない。ミアーたちが捕まえてぶら下げてく」

「……その鉤爪でですか?」

「チょットダけ、痛い痛いかもダけド、頑張る」

おそらく痛い痛いなのも頑張るのもウペロペであってミアーではない。

可哀想になったハルカは、障壁をウペロペの下に滑り込ませ、そのまま箱のように四方を囲って運んでやることにした。

「おお、なんダそれ、ヘルカすごい!」

「ハルカですってば」

「ハルカ!」

遠くから遅れてやってきたハーピー達の群れが見える。

「ミアーさん、彼女達を連れてリザードマンのところへ戻りましょう」

「わかッタ、ミアーはハルカの言うこト聞く」

凄惨な光景は後でまた片付けに来ることにしたハルカは、背中にレジーナをおぶって、ひとまずリザードマンの里へ戻ることにしたのだった。