軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

刈る

ハルカの背後ではすでにレジーナが暴れ始めていた。

小鬼はレジーナの腰辺りくらいまでしか無い大きさだが、怯むことなく襲い掛かり、そして近づく端から肉塊に変えられていく。

レジーナからは煽る言葉もなければ、雄たけびもない。

ただ殺すだけの最低限の動作で、レジーナは次々と命を摘み取っていく。

素振りと大して変わらない。

レジーナの受けた印象はそんなものだった。

普通の人であっても大人なら数匹くらいは退治できそうだ。

ただどんなに弱くても普通に暮らしている人間は、数には対抗できない。

それを本能的に知っている小鬼は次々と散っていく仲間たちを見ても、次々とレジーナに迫ってくる。もしかしたら後ろから押されてヤケクソ気味に、というものもいたかもしれないが、結果は同じだった。

一振りで数人、飛んでいった肉塊にぶつかり崖から転がり落ちるものも含めればさらに数人。ほんの数秒で前線にいた小鬼たちはこれはおかしいぞと流石に気が付いた。

そして気づいた端から命を落としていく。

多少間があれば違ったかもしれないけれど、わかる前に殺されるせいで撤退ができない。そんな悪循環が小鬼たちの中では繰り返されていた。

一方その背後ではハルカが声を張り上げていた。

万が一この中に生き残りがいた場合、あるいは話の通じる相手がいた場合の最終通告のつもりだった。

「命が惜しいならばその場に伏せてください!」

無駄だとわかっていた。

目に映る小鬼は一人として伏せたりはしない。

そしておそらくこの声が、生き残りに届くことがないことも分かっていた。

レジーナが背後から襲われないよう、正面側の障壁を残したままハルカは空へ浮き上がる。そして、崖側へ横広に薄く薄く魔法を展開した。

その間にも石が飛び、獣のような叫び声が上がり続けている。

空からもう一度だけ全体を確認したハルカは、崖側から谷側へ向けて、ただまっすぐ巨大な風の刃を通り抜けさせた。

痛みに悲鳴が上がる、それがくぐもり、そしてすぐにその場は静かになった。

ハルカは眉間に皺を寄せながらも、命が一斉に刈り取られる様をしっかりと最後まで見つめていた。

ほんの数人、おそらくたまたましゃがんでいたり、転んでいた小鬼だけが、立ち上がって一変した光景にぽかんと口を開ける。

数百人からいた一応の仲間たちの頭部が、ある者は首から、ある者は半ばを寸断されるように切り落とされて、倒れた拍子にごろりごろりと転がり落ちていく。

次に上がったのは恐怖による悲鳴だった。

ハルカがいる方とは反対側に逃げ出して、そして仲間の死体に躓いて転ぶ。ほとんど四つん這いのような姿勢のまま逃げ出したゴブリンたち。

討ち漏らさないほうがいいだろうと、気が進まないながらもハルカが近寄ろうとすると、上空からミアーが舞い降りてきた。そして、飛ぶ勢いのまま、ばらばらになったゴブリンたちの頭を蹴り飛ばし、その首をへし折っていく。

数が減ってしまえば、もうほとんど一方的な狩りだった。

おそらくゴブリンは群れていなければハーピーの敵ではないのだ。

リザードマン達と戦っていなければ、もしかしたらこのゴブリンたちともいい戦いをしていたのかもしれない。

ハルカが振り返ると、レジーナはずいぶんと先へ進んでいた。真ん中を突き進むというよりは、正面にいるものすべてを轢き殺して進んでいるような状況だ。

放っておいてもなんとかなりそうだが、全てを仕留めるためにはきっとかなりの時間を要するだろう。その間に生き残りの小鬼たちが各自で勝手に逃げてしまえば、山とリザードマンの里の間にバラバラに潜伏することになり、きっと後々面倒になる。

ハルカは命を奪っている感覚にうんざりしながら、それでもなお魔法を使うことを躊躇しなかった。

里へ向かっていく小鬼たちの先頭付近を見定めて、魔法でそこの山肌を爆破する。

崩れ落ちた山から大きな岩が転がり始める。それは小鬼たちを押しつぶしてリザードマンたちの里へ続く隘路を塞いだ。

これで視界に映るすべての小鬼は、元住んでいた場所へ戻るか、ハルカ達と戦うかの選択を迫られることになった。

統率のとれていない小鬼がまごついている間に、ハルカはレジーナの近くまで飛んでいき声をかけた。

「こちらも私がやります。ミアーさんが戦っているので、そちらの援護をお願いします」

「は?」

レジーナは正面にいた小鬼を前面に弾くように殴り飛ばし、距離を取って振り返る。そしてそこにいたはずの小鬼たちがほぼ全滅していることに初めて気が付いた。

「……大丈夫かよ」

ハルカの魔素酔いや、作戦の心配をしたわけではない。

命を奪うことを嫌がっているハルカが、これほどの数の命を一斉に奪ったことを心配していた。

初めて出会った頃のレジーナだったら考えられないことである。

ハルカは苦々しい現状に嫌な気持ちを抱えていたが、レジーナの言葉に成長と気遣いを感じて嬉しくも思っていた。

正面に障壁を張ってから返事をする。

「心配してくださってありがとうございます」

「別に」

「でも、この小鬼たちは、放っておいたらこのままリザードマンの里へ向かいます。そこで戦わなければ犠牲も出るかもしれません。もしそこでも手を貸さずに負けたら、今度は私たちの拠点です。ミアーの援護、それから、生き残りの捜索を。私もこちらを済ませたらすぐ追いつきます」

「嫌ならあたしがやる」

「……やります」

「わかった」

振り返って走り出したレジーナを確認してから、ハルカはもう一度気を引き締めて小鬼たちの群れへ向き合う。

やることは難しくない。

それでもハルカの心境的には辛く嫌な決断だった。