軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ふた月の時間

「今晩でこんな愚痴はやめだ。明日には出発して大丈夫ですから」

しばらくして落ち着いたナディムは、そうハルカたちに告げて体を休めた。

ちょうどそのころには戻ってきたイーストンは、ハルカがモンタナの尻尾を膝の上にのせて梳かしているのを見て、ふっと笑う。

そうして黙ってシャディヤの横へ腰を下ろして、焚火へ薪を差し入れた。

「あの……」

「なに?」

シャディヤが小声でイーストンに話しかける。

若い女性とかかわるとあまりいいことがないので、若干警戒しながら返事をしたイーストンだったが、次の言葉に肩の力を抜いた。

「ハルカさんとモンタナさんは、その、お付き合いされているんでしょうか……!」

「ふっ……、いや、違うんじゃない? 仲良しだけど」

「そうですか……、男女なのになんだかすごく仲良しに見えたので……」

「あれは……、二人ともそういうつもりはないと思うよ」

「そうですか、なんだか素敵に見えたんですが……。真相も分かってすっきりしたので、私も先に休ませてもらいますね」

「うん、おやすみ」

シャディヤを見送って視線を戻すと、今度はハルカが手を止めて、何か言いたげな目でイーストンのことを見ている。

「……なに?」

「いえ、イースさんはもてるなぁと思いまして……」

自分たちの話をされていたとも知らず、見当違いなことを言っているおとぼけダークエルフに、イーストンは何も答えずただ肩をすくめた。

翌日、快晴の空の下、ハルカたちはまっすぐにオランズへと向かっていた。

村長のブロンプトはもうちょっといればいいのにと出発を渋っていたが、ナディム親子の心の整理がついた以上、これ以上とどまる理由はない。

どうせ旅をしていればそのうちまた訪れるので、別れの挨拶も「また来ます」として、ハルカたちは朝早くに村を後にしたのだった。

南方大陸では少しずつ暖かくなってきていた気候も、北方へ来るとやや肌寒いくらいに逆戻りだ。南方大陸で暮らしてきた二人に厚着するよう注意をして、ハルカたちもきちっとマントを羽織った。

一年の農作業が始まる時期だからか、街や村の上を通ると、作業にいそしんでいる人の姿が見える。

拠点に帰ればきっと、フロスが畑の世話をしていることだろう。

大竜峰ではじめて会ったときはノクトの追手。公爵領から飛竜に乗ってきたときは、大問題のきっかけを作ったフロスだったが、もともと穏やかな人柄もあって、ちゃんと拠点になじんでいる。

どうもカーミラに片恋しているようで、ぼーっと見とれていることがあるのだが、与えられた仕事である農作業はしっかりこなしている。

年も若いので、近所の優しいお兄さんというところだろうか。

もう数日で拠点に着くはずだ。

土産話はたくさんある。

ノクトもサラもカーミラも、きっと喜んでくれるはずだ。

ハルカは穏やかな気持ちで眼下の景色をぼんやりと眺めていた。

◇◇◇

「ハルカさんたち、そろそろ帰ってきますかねぇ」

ノクトは障壁に乗ったまま、うつ伏せでサラの、そしてなぜかついでにエリの訓練を見守っている。

いつもふよふよと浮かんで片手間に教えているノクトだが、それでもサラは毎日着実に魔法の腕を上げている。

師も弟子も優秀だからこその順調具合だろう。

「ノクトさんの見立てだともう帰ってくるのかしら?」

「そうですねぇ、ことがことなので、どうなんでしょうねぇ」

「私、ハルカから詳細聞いてないのよね」

「それでよく依頼を受けましたねぇ。期限もよくわからないというのに」

「友達だもの。金払いはいいでしょうし、問題ないわ。それにしてもサラちゃん、ほんとに魔法使うの上手ね。同年代の頃の私、もっとへぼだったわよ」

「えへへ、ありがとうございます、エリさん」

「私、そのうち冒険者の学校作りたいのよね。ノクトさん、一枚噛んでもらえたりしないかしら」

「うーん……まぁ、近々のことじゃないんでしょう? 近くなって気が向いたらですかねぇ」

「即座に断られなかっただけ収穫ね。まずは私がしっかり実績残さないと」

「まじめですねぇ、あなたも」

そんな平和な光景から少し離れた場所では、最近やってきたカーミラのゆかいな仲間たちが、フロスについて畑仕事をしている。

ここひと月でずいぶんと開墾作業が進んだのは彼らのお陰だろう。楽な作業ではないはずだが、カーミラがいる場所を発展させているという意識が、彼らの疲れを吹き飛ばしている。

実に生き生きとした表情で作業をしていた。

一つ妙な光景があるとすれば、その中にゴスロリの服を着た金髪ドリルの女性が紛れ込んでいることだろうか。

ものすごい速度で畝を作り続ける、その人物の名前はヴィーチェ。

最近カーミラの犬に勝手になりかけている一級冒険者だ。

何かしらの思惑があったにしても、今のところカーミラに手を出したり、体に触れたりすることはしていない。

さらに別の場所では、広い敷地がひとまずの柵で仕切られて、その端に家の建築が始まっている。近くでは帽子をかぶった小太りの男性とダスティンが何やら打ち合わせのようなことをしている。

柵の中には中型飛竜が三匹。これらは、拠点に元からいたナギの部下ではなく、ドラグナム商会のスコットが選別してここへ連れてきたものだ。

ほんのふた月、されどふた月。

拠点の様子は刻一刻と変わり続けている。

そんな中、多くの時間を自分の与えられた部屋にこもってるカーミラは、そっと窓から畑の方を覗き呟いた。

「あの方、なんか目がいやらしくて嫌だわ。早くお姉様帰ってこないかしら」

ヴィーチェの方を見て、ふぅ、と物憂げにため息をついたカーミラ。

抑えていても、ヴィーチェの本能はお見通しのようであった。