軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

すれ違いの価値観

イェット一行と別れたハルカたちは、空をひとっ飛びしてカロキアへ戻ってきた。

実際は途中で寄り道をしながら、三日たっぷりかけたのだけど。

ハルカたちは街を囲う壁の遥か上空から侵入し、そのままリヴの屋敷の庭へと着陸する。

勝手知ったる他人の家だ。家主からの許可は取っているから不法侵入ではない。

大騒ぎにならないようにと、夜半の侵入だったが、目撃者がないわけではない。どうせ日が昇った頃にはまた見物客が集まってきていることだろう。

ハルカたちはいつもの野宿とさしてかわらず、食事をして、訓練をして、朝に備えてさっさと休むことにした。

夜中イーストンが一人でぼんやりとしていると、門の外へ誰かがやってきた気配がした。

柵の隙間から中を覗き込んでいるようで、何か用事があるのでなければおそらく不審者だ。退屈していたイーストンは、剣の頭をとんと手のひらで叩いて立ち上がり、そろりと歩き出した。

ハルカたちの帰還を聞いたナーイルは、すぐにソラウへそれを報告して街へ繰り出した。

超重要監視対象となっているハルカたちが、そろそろ街へ戻ってくるのは帝国としてもわかっていたことだ。

そしてその目的もわかっている。

本来先代皇帝の醜聞とも言える側面に詳しいナディム一家を街から出すのはいいことではない。それでも、帝国としては諸々の手続きの邪魔をすることはなかった。

むしろ優先的に手を回したくらいだ。

市民二人逃すだけで平和に事が進むというのならその方がずっといい。

そんなわけで、ほとんどハルカたち担当のように扱われているナーイルは、明日以降の予定伺いと、滞りなく出発できることを伝えるためにやってきたのだが、一歩遅かったというわけだ。

庭がすっかり静まっているのを確認して、明日やってこようかと思ったところで、突然暗闇から声がかかる。

「こんな夜中に随分と怪しい動きだね」

反射的に体が跳ねそうになるのを辛うじて我慢したナーイルは、唾を飲み息を整えてから口を開いた。

「……ハルカさんたちが戻ってきたと聞いたから、現状の報告に来ただけさ。どうやらお休みのようだから、また日が昇ってからきますよ」

「ふーん、そう。怪しい人かと思ったよ」

ナーイルの動揺を悟ったイーストンは暗闇の中でひっそりと微笑む。

薄暗さに輪郭がぼやける中、イーストンの白い肌が映える。顔立ちだけがはっきりと見えると、男とも女ともわからない美しさがあり、ナーイルは思わず見惚れそうになって頭を振った。

「確か、イースさんですよね」

「君とは話していない気がするけど、誰かに聞いたの?」

「聞きましたし、武闘祭で見かけたこともあります」

「記憶力がいいんだね」

「ええ、まぁ」

そう言ってはいるが、イーストンだって話を聞いているので、相手がナーイルだということはもう気づいている。

ただ、話に聞いているからこそ、少し意地悪をしていた。なかなかに無神経なことを平気で言うらしいので、できればハルカにもユーリにも近づけたくないというのが本音だ。

「用件なら僕が聞くよ。話したら帰るといい」

「……明日の朝またきます」

突き放すような言い方に変わったイーストンの言葉に、ナーイルは少し粘る。

ナーイルは今回の件で上手くいかないことばかりだった。報告くらいはまともにこなそうと、意地になっていたのかもしれない。

イーストンはため息をついて、柵の鉄格子に手をかけ、顔を寄せ、ナーイルの顔を覗く。

「僕が、今聞く、と、言っているんだよ。明日、またくる必要は、ない」

聞き分けのない子供に言い聞かすように、あるいは愚か者に脅しをかけるように、ゆっくりと言葉を区切りながら伝える。

そこまでされて初めて、ナーイルはイーストンの目に剣呑なものが宿っていることに気がついた。

親切心から言っているのではないと明確にわかってしまえば、これ以上余計なことはできない。

「……申し訳ありませんが、それではお伝えします」

「うん、そうして」

イーストンは門扉によりかかり、ナーイルと目を合わせずに黙って報告を聞いた。

「……以上です」

「ご苦労様、帰っていいよ。次に用があるときは他の人をよこしたほうがいいね」

「…………はい」

ナーイルは何か言いたげに沈黙を挟んでから、素直にそのまま立ち去った。以前のやりとりで酷く嫌われたことは理解していたし、それをどうにかするだけの言葉を持ち合わせていなかったからだ。

「あーあ、俺が悪いのはわかってんだけどなぁ」

そこから先に続く言葉もなかったが、ナーイルは夜空を見上げながらため息をついた。

ハルカが朝早く目を覚ますと、庭の周囲に見物客が数人立ち止まっている。朝の散歩の時に気がついて、ナギの様子を見ているようだ。

軽い朝食をとっている間に、昨日城から連絡が来ていたことをイーストンから聞いて、みんなで予定を立てる。

ナディムたちはどうやらもう出発できるようだし、準備ができたら声をかけに行こうということになった。

それから町で必要なものを買って、数日中に出発できればいいかなというアバウトな予定が立つ。

この街でやらなければいけないことは、地図埋め依頼の報告ぐらいのものだ。これも買い物ついでに済ませればいい。

留守番にイーストンと、どうせ一緒に行ってもトラブルしか起こさないと悟ったレジーナに、大あくびをして見物客を驚かせているナギ。

ナディムたちのお迎えにハルカとユーリ、何かあった時のためにモンタナ。

冒険者ギルドにコリンとアルベルトの幼なじみコンビ。

編成を決めたハルカたちは、用事を済ませるべく朝から街へと繰り出したのであった。