軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コリンの試み

「さて、情報をもらってばかりですが、ハルカさんたちは何か知りたいことはありませんか?」

「……特にはない、ですよね?」

「ないねー」

ギブアンドテイクが成り立たないとすっきりしないのか、イェットは難しい顔だ。

「あー……、北方は変わりありませんでしたか?」

「そうですね……、変わりないと、思いますけど」

「……あの、そのうち【自由都市同盟】へ行きますので、その時に街の案内でもしていただけませんか?」

「どうやらそれくらいしか、できることはなさそうですね」

苦笑気味のイェットに、何かないものかと考えて、ふと思いついたことを言ってみる。

「あの、マハド王国ってご存じです?」

「ええ、はい、小国群ではそれなりに名のしれた国ですね」

「そちらのお姫様と仲良くなったんですが、ちょっと国元が怪しいみたいなんですよ」

「……軍事力は高い国だと記憶していますが」

「まぁ、色々あるようで。もしカトルというお姫様を見かけることがあって、困っているようだったら話を聞いてあげてください」

「うーん、それハルカさんの名前を出してもいいってことですか?」

「はい、もちろん」

「それって僕らに得しかないような気がするんですけど……」

「そうですか?」

「はい」

互いに律義なせいで、話がなかなかまとまらない。

お互いに首を傾げたり腕を組んだりして、本人たちは真面目に悩んでいるが、周囲にいる仲間たちは穏やかに微笑んでいる。

コリンとソフィリムの目が合った。そろそろ助け舟出してあげようか、というようなやり取りを目配せで行う。

「イェットや、たまには借りを作ってもいいじゃろ? そのうち【自由都市同盟】に来てくれると言っておるしなぁ」

「そそ、その時歓迎してもらえばいいよねー! はい、お話し終わりー」

「ソフィさんがそう言うのなら……」

イェットが引き下がったのを見て、ハルカもほっと息を吐いてコリンに小さな声で礼を言う。

「すみません、特に思いつかず」

そこへぽてぽてとモンタナが歩いてきた。

ソフィリムの全身を、視線だけで上から下まで眺めて首をかしげる。

モンタナにはソフィリムの持っている遺物による効果が、妙な魔素の輪郭となって見えているのかもしれない。

「……闇魔法使い、南方大陸に多いです?」

モンタナは近づいてくるときに話を聞いていたのか、唐突に質問を投げかけた。

それもイェットにではなくソフィリムに向けてだ。

「なんじゃ、藪から棒に」

「組織立って動いてる闇魔法使い、いないですか? 噂とかでもいいですけど」

「そうじゃなぁ……、本当に噂話程度じゃが……。その昔、外法ばかりを研究している国があったそうじゃよ。南西に居を構え、それはもう、ろくでもないことばかりしておったとか」

「例えばどんなです?」

「うわさでしか聞いたことないと言うておろうに。何やら人体実験やら、闇魔法の研究やらしていたとか」

「……ですか。〈岳竜街〉の近くで、怪しい闇魔法使いを見たですから、気を付けたほうがいいです。おそらく、人の意思を捻じ曲げるか、思考を操るか奪うタイプの魔法使うですよ」

「忠告感謝じゃな。……もしかして妾に見とれたから教えてくれたのかのう」

モンタナは黙ってソフィリムを見つめる。

確かにソフィリムはうぬぼれてもおかしくないほどの美しい容姿をしている。

モンタナだって年頃の男性だし、そういうこともあるかなとハルカがそっと横目で見る。

残念ながらハルカにはその表情から何かを推測することはできなかった。ただその瞳に浮かんでいたのが恋慕の情でないことだけはわかる。そしてしばらくすると、こてっと首が傾げられる。

「……そんな反応されたのはじめてじゃ。のうイェット、妾綺麗じゃよな?」

「まぁ、ええ、そうですね、はい」

よそをむきながら肯定するイェットに、ソフィリムがにんまりと笑う。

「……そうじゃろそうじゃよなぁ?」

「やめてください」

抱き寄せてかわいがるソフィリムに、イェットは強く抵抗している様子はなかった。おそらくいつものことなのだろう。

「……そろそろいこっか」

「そうですね」

コリンの一言に同意して、ハルカたちは立ち上がる。

イェットはべったり背中にソフィリムをくっつけたまま、慌てて頭を下げた。

「あの、本当にありがとうございます。【自由都市同盟】にいらっしゃったら歓迎しますので!」

「はいはい、イェット君はお色気お姉さんと仲良くねー」

「あ、ちょ、ソフィさん! 離れてください!」

「いやじゃ」

コリンのからかいに、真面目に引きはがそうとし始めたイェットだったが、ソフィはしっかりと抱き着いて離す様子がない。

ハルカから見ると尻尾がしっかりと体に巻き付いている。引きはがすのは難しいだろう。

「青春、ですね」

「年寄臭いこと言ってー。イースさん、ちょっとハルカに恋ってものを教えてあげてよ、得意でしょ」

「嫌だし得意じゃない。まして友人相手にはね」

イーストンの言葉にちょっと感動したのは、友達いないおじさんことハルカだった。ジーンと胸のあたりに手を当てて感動していると、コリンが驚いた顔をして顔を覗き込む。

「もしかして、ハルカ今のいい感じだった?」

「……はい、私にもちゃんと友人ができたんだなと。いざ言葉にされると嬉しいですね」

「……あ、そー…………。イェット君のいちゃいちゃにあてられて何か面白いこと起こらないかなぁって思ったけどだめそー……」

根本的に恋愛から遠い場所にいるハルカに、何かを期待するというのが間違っている。コリンも本気で言っているわけじゃないが、たまにはドキドキがあってもいいんじゃないかと思っての試みだったが、結果は御覧の通りだ。

楽しそうにはしゃぐ二人組をナギの背から下ろし、イェットたちが去っていくのを見送る。いかつい大男が一番大きく手を振りながら去っていった。ナギの背に乗れたのがとても嬉しかったらしい。

人は見かけによらないものである。