軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

名乗り

戻ってきたモンタナと相談して、ハルカたちはすぐに仲間の下へ戻ることを決めた。これ以上この場にとどまっても得られるものはあまりなさそうだと判断したからだ。

将軍の死を聞いて、カトルが物憂げな表情を浮かべているのも気になるところだった。

ハルカはその場で空高く上昇してから、ちらちらと明かりの見える街へ向かって飛んでいく。

よく考えたら仲間たちに何も言わずに夜まで遊び歩いている形だ。

早く戻らないと心配をしているかもしれないと思い、ハルカはますます移動の速度を上げる。

できるだけ高い高度から街へ入り、リヴ邸の敷地を確認してまっすぐ庭へ降りる。

もう眠っていてもおかしくない時間なのに、珍しく起きているナギが、時折首を持ち上げて辺りを見回している。

「私たちのこと待っているんでしょうか?」

「かわいい」

「そうですねぇ」

ハルカとユーリの気の抜けた会話は傭兵の耳には入らない。

巨大な竜がいる庭へ降りるなんてどうかしているんじゃないかと思っていたが、傭兵たちも自分たちには何一つ決定権がないのを知っているから、できるのは息をのむことばかりだ。

そんな彼らの気持ちを代弁するようにカトルが声を上げる。

「ちょっと! あれ、ちょっと! 大きすぎない!?」

傭兵たちは、いいぞもっと言ってやれと思っていたが、

「ええ、いつの間にかすっかり育ってしまって。最初の頃は背中に張り付いたりするくらいの可愛い大きさだったんですけどね」

「あ、っそー……」

ハルカの穏やかな微笑にカトルが訴えることの無駄を悟って引き下がると、傭兵たちもそれに合わせて諦めて肩を落とした。

ハルカたちの帰宅に最初に気が付いたのは、そわそわしていたナギだった。

ナギが空を見上げて体を起こすと、仲間たちもその視線を追いかける。

コリンが両手を大きく振って出迎えるのを見ながら、ハルカはゆっくりと庭へ降りる。

途中でナギがすぐ近くまで顔を寄せてきたので、ハルカたちは軽く帰宅の挨拶をしたが、初対面の者たちは生きた心地がしなかっただろう。何せナギにとっては人間なんて丸のみサイズだ。

「ハルカー、遅かったじゃん。なんか人いっぱい連れてどうしたの?」

「すみません、連絡もなく。色々ありまして……、あ、えーっと、捕まえている人たちは【砂の蜥蜴】という傭兵団の方で、こちらがカトルさん。【マハド王国】のお姫様です」

コリンは瞬きを何度か繰り返してから、ふっと噴出してハルカの肩をポンポンたたく。

「ハルカ、全然事情わかんない!」

「ハールーカー! お前、また俺のいないところでばっかり楽しそうなことすんなよ!」

「またもめ事?」

悔しそうなアルベルトと、あきれ顔のイーストン。レジーナは少し離れた場所で、後ろの傭兵たちを睨みつけている。警戒心が強いのはいつものことだ。

「ちょっと色々あるからお話しするです」

「中でするか?」

「いや、ナギが起きて待ってたし、外でいいんじゃない? ユーリ、ナギと遊んであげてくれる?」

「わかった」

ととと、とユーリが走っていくと、ナギもそっと伏せてユーリの到着を待つ。はらはらとそれを見守るのはカトル一人だ。

「おーい、レジーナ! なんか話あるみたいだぞ」

アルベルトが声をかけると、レジーナが武器をしまうことなく近寄ってくる。

武器が届く距離までずかずかと歩いてきて、カトルがたじろいで一歩引いたところで、ふんっと鼻を鳴らして後ろの傭兵たちに目を向けた。

じろじろと一通り眺めてから、再びふんっと鼻を鳴らすと、レジーナは武器をしまって腕を組んだ。戦力分析でも済ませたのかもしれない。

座る場所を適当に確保して、さて話し合いでも始めようかというときに、屋敷の扉が開いてリヴが姿を現した。

「なんだ、騒がしくなったと思ったら帰ってきたのか」

「ええ、夜分にうるさくしてすみません」

「別にいい。昼間寝たせいで目が覚めてるからな。……知らないやつらがいるな」

家主に紹介しなければとハルカが口を開くと、リヴがそれを手で制する。

「特級冒険者リヴだ。そっちは?」

「わ、私は……、【マハド王国】のマハド王の娘、カトル=ホーエンです」

「【マハド王国】? ……マハド、マハド、あぁ、【砂煙の】か」

「は、はい! 【砂煙の】マハドです!」

「まぁいいか。おい、ハルカ、今日は酒飲むのか?」

「いえ、今日はちょっと話をしなければいけないので」

「そうか、じゃあ軽く食えるもの持ってきてやるから待ってろ。……俺は話聞かないほうがいいのか?」

「いえ、そんなことはないと思います」

「そうか」

リヴが屋敷へ戻っていくと、カトルはすぐにハルカの袖を引く。

「どうしました?」

「どうしました、じゃないわよ。あの人【人鬼】のリヴでしょ?」

「ええ、ここはリヴさんの別宅ですし……。大丈夫ですよ、優しい人ですから」

二人のかみ合わない会話を聞いて、コリンが間に入る。

「はいはい、また例のごとくハルカもちゃんと名乗ってないのね」

どうせハルカがまた身分を名乗っていないことをコリンは察していた。

相手を委縮させたくないのか、ハルカは自分の階級などをごまかそうとする癖がある。確かにその場限りで済む話ならひけらかす必要もないのだが、仕事の話や深いかかわりを持ってくる相手となるとそういうわけにはいかない。

なんとなく話を進めているうちに、階級を伝えるタイミングを見失ったのであろうことは、想像するに易かった。

「もしかして、ハルカも有名な人ってこと?」

「いえ、有名ってことはないですが……、あー……。すみません、必要であればお伝えするつもりだったんです」

「……所属とか階級とか教えてもらえるかしら?」

ハルカはぽりぽりと尖った耳の先をかいてから、姿勢を正して軽く頭を下げる。

「北方大陸〈オランズ〉の街から来ました。 冒険者宿(クラン) 【 竜の庭(ドラゴニックガーデン) 】の特級冒険者、ハルカ=ヤマギシと申します」

自分で名乗るのは恥ずかしいから、名刺でも作ってみようかなと、そんなことを思いながらハルカはカトルと目を合わせないよう頭を下げ続ける。

「……そういうの、初めから、教えてくれ……ませんか? 安易に依頼を出さなくてよかった……」

やけに丁寧な口調になってしまったカトル。

最後にほっと呟いた独り言は、きっと心の底から漏れ出した本音だった。