軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

蛸足

「ぼうけんきょう……?」

「です。僕たち冒険者とは違う、戦場の武人です」

「確かに冒険者は武器を大切にするからね」

そんな話をしていると、ナギがソローっと顔を上げて海を覗きみている。自分たちの味方に、あの大蛸を倒すことができる人がいる、それが分かっただけで少し気持ちが違うのだろう。

ずるずると引きずる音がして、フォルカーが戻ってくるのが分かった。砂浜から本人の頭よりも先に、巨大な蛸の足が見えてくる。さながら蟻が餌を運んでいる時のような絵面である。

「いや、運ぶのはちょっと骨が折れる」

近くまで来るとフォルカーは腰を叩いて笑った。

磯臭い香りが漂い、巨大な吸盤と茶と紫がまじりあったような色は、不気味で気持ち悪い。

というのが、蛸を食べたこともよく見たこともないコリンたちの感想である。アルベルトもモンタナも、ちょっと気味悪げにその足を見ている。

レジーナはいつも通り腕を組んで眉間にしわを寄せているだけなので、何ともいえないところだが。

一方で味を知っているハルカ、それに島国育ちのイーストン。知識として食べ物だと知っているユーリはちょっと感覚が違う。これほど大きいものは見たことないにしても、食べ物として認識しているので気味悪くは感じていなかった。

「これ、私が料理するの……?」

「まぁ、してくれてもいいが、適当に焼いて食えばいいだろう。外側は固すぎる。中の白い部分を切り出して適当に火であぶって食うだけで十分うまい」

吸盤のコリコリとした感覚も好きだったハルカとしては残念だが、確かに外皮は非常に堅そうだ。できればすべてを無駄にしたくないが、これだけ大きいと加工にも時間がかかるだろうから、やはりここで食べられる分だけ食べることになる。

「ほら、ちょっと皮を剥ぐから剣を貸してくれ」

フォルカーが蛸の足を叩きながらハルカたちに言うが、誰も手を挙げようとしない。特にアルベルトなんかは、とんでもないと言わんばかりに、自分の剣の柄を持って首を振った。

先ほどの一撃を見れば誰も愛剣を貸し出そうとなんてするはずがない。

「私が魔法で切り出しますよ」

「大丈夫かい?」

フォルカーはハルカを特級冒険者と知っていても、どんな力を持っているかまでは詳しく把握していない。ギーツを殴り飛ばした怪力と、いくらか魔法を使うということくらいだ。

「任せてください」

ハルカは一度蛸の足の前まで歩いていって、それから数歩下がった。思った以上に足が大きく、近づきすぎるとかえってよく見えなくなる。

外皮を削いでから輪切りにして、身の白い部分を転がし障壁の上へ乗せる。そうすれば皆が自由に切り取り、あぶって食べられるようになるはずだ。

ハルカは横から覗き込み足の全容を確認し、「よし」と呟いて風の刃を同時に放った。上部と左右、それから続けて輪切りになるようにいくつか。

左右の皮がぐにゃりと地面に崩れたのを確認してから、今度は下部の皮を切り落とす。表皮にかなり身がついており、少しもったいないような気がしたが、あまりかたくて食べられない部分を渋っても仕方ない。少し多めに見積もって切り落としたつもりだ。

正面から見ると四角く見える大蛸の足は、切り出された巨大木材のようにも見えた。ハルカが横にまわってその白い身を押すと、それはブリンと揺れながら反対側の障壁の上に落ちた。予定通りである。

身を運んで焚火まで戻ると、フォルカーは手を叩いて称賛しながら迎えてくれた。

「流石は特級冒険者だ。見事な魔法だな」

「いえ、そんな」

「謙遜することはない」

「お恥ずかしい」

「……どうでもいいけど、これ食えるんだよな?」

大人の褒めと謙遜をどうでもいいと切り捨てたアルベルトが、ナイフを取り出して白い身をつつく。気持ち悪いと言っていたのに、外皮が剥けたとたん食べ物に見えてきたらしい。

「つつくな、邪魔だ」

アルベルトが確認を取っている間に、レジーナは既にナイフで身を切り出しはじめていた。足元には串にするための枝まで削り出してある。

「準備いいな、お前」

アルベルトの言葉に、レジーナはふんと鼻を鳴らすだけで答えた。別に怒っているわけではない、いつものことだ。

「レジーナはもしかして蛸を食べたことがあるんですか?」

「ある。うまい」

切り出した身を串に刺しながら答えたレジーナは、そのままさっさと焚火へ戻っていく。

アルベルトとモンタナがそれに続くのをみて、ハルカもナイフで切り出しにかかるが弾力が強く今一つうまく切り取れない。ユーリがじっと見つめているのが分かっていたハルカは、早々にナイフをしまい込んで、魔法で蛸の身を小さくキューブ状にカットした。

両手に枝を持って待っていたユーリが、両方を差し出してきたので、その先端に一口大の蛸の身をどんどん刺していく。バーベキューによくあるような串の完成だ。具は蛸だけれども。

そんな風にがやがややっていると、料理をしているコリンから声が飛んでくる。

「ちょっと、なんでみんな楽しそうなの! ……私の分も用意してよね」

「気持ち悪いから食わねぇんじゃねぇの?」

「うっさいアル! ご飯抜き!」

「は!? コリンがずっと食わねぇって言ってたんじゃん!」

じゃれ合いを始めた二人を見てハルカは、笑いながら間に割って入る。

「コリンの分は今ユーリがあぶってくれてますよ」

「ありがとユーリ! ハルカも好き! もうご飯できるからね!」

「はーい、待ってます」

しばらくしてみんなで食事を始めたとき、コリンは蛸の足を噛みながら複雑そうな表情をしていた。うまいとかまずいとか、そういう感情ではないように見える。

「……どうしました?」

「いや、これ、あんなに気持ち悪いのにあぶっただけで美味しいから。ずるくない?」

まじめに料理をしているコリンとしては、この蛸の味はある意味許せなかったらしい。

「これから色んな料理にも使えますし、煮込んでもおいしいですよ」

「……ハルカってさー、自分で料理しないの?」

「あまり器用じゃないんですよね、雑になってしまうというか」

「意外」

「それに、作ってもらった方が美味しいですし。いつもありがとうございます。それと、大変でしょうけど、これからもよろしくお願いします」

素直に思っていることを伝えると、コリンは目を丸くした。

「何それハルカ、プロポーズ?」

「はい?」

「まったくー、しょうがないなー!」

コリンが座ったままごつんごつんと腕に頭をぶつけてくるのは機嫌がいい証拠だ。

機嫌がいいならそれでいいか、ハルカはそう思ってコリンの好きなようにさせておくのだった。