軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

似たような

泣き止むまでにしばらく時間がかかった。ユーリがちゃんと泣くのはこれで二度目だ。一度目はイーストンと別れた時だった。

今回の泣き方はその時の比ではなかったが。

数えられるほどしか泣いていないという事実に、ハルカは改めてユーリが普通でないことを思い知っていた。

今の話からして、ユーリは生まれた頃から、自分がどんな状況にいるか理解するだけの知恵を持っていたということがわかる。

わかるのに何もできず、大切な人の命が奪われていく。それも、自分を守るためにとユーリは思っている。それがどんなに辛いことなのか、ハルカには想像することもできなかった。

ユーリが自分が邪魔ではないかと質問してきたことがあった。そんなことはあり得ないと答えたけれど、そのルーツがこれにあるのだとしたら、あまりに悲しく、重たい話だった。

できる限りユーリの体を抱き寄せて、何かの慰めになればいいと思っていたハルカだが、ユーリの泣き声を聞いているうちに、自分まで悲しくなってしまう。

気づけば目尻に涙がたまってきたのがわかり、少し上を向いた。ぎゅっと口を結んだ拍子に、ぽろりと涙がこぼれて、これはいけないと思いながらユーリが落ち着くのをじっと待った。

ずびっと鼻を啜る音が聞こえて、ようやく泣き声が落ち着いてきたところで、イーストンが口を開く。

「ユーリは……、生まれた時からのことを覚えてる?」

「うん。生まれる前のことも覚えてる」

「……生まれる前、ってなんだ?」

アルベルトがよくわからずに首を傾げると、ユーリはまた鼻を啜って続けた。

「僕は前の世界で死んで、気づいたら僕になってた」

すっかり涙腺が崩壊してしまったハルカは、上を向いたまま話を聞いていたが、瞬きをして大粒の涙を一つ落とすと、ユーリのつむじを見る。

おかしな話になってきたことに気がついたのだ。

「みんなにいつか言わないとって思ってたけど言えなくて、ごめんなさい。ずっとずっと、見てもらえるのが嬉しくて、何か変わっちゃうと思って、言えなかった。ごめんなさい……」

「謝るのはやめましょう」

泣き止んだばかりの震えた声で、それでもハルカはユーリの言葉を遮った。左手はお腹に回したまま、右の手でユーリの頭を優しく撫でる。

何を言うべきかまだ定まっていなかったけれど、ユーリにこれ以上謝罪なんかさせたくなかった。

気の利いた言葉が出てこないけれど、頭を撫でる手から、ユーリのことが好きなんだと伝わればいいとハルカは思っていた。

「前とかしらねぇけど、ユーリはユーリなんだろ。別に嘘ついてたわけでも騙してたわけでもねぇし」

「ユーリがずっと色々考えてたのは知ってたです。僕たちのことを好きなのも知ってるですよ」

「うんうん、私たちがユーリのことを好きなのも、ユーリは知ってるでしょ?」

「うん……」

ハルカはほっとしながらユーリを撫で続ける。自分が上手く言葉を紡げなくても、仲間たちはそうではない。それぞれがみんなユーリを仲間で家族だと思っているし、それを上手く伝えることができていた。

「よくわかんねぇ」

和やかな雰囲気ができかけてるところに、首を傾げたレジーナが言葉を割り込ませた。そうして、立ち上がりユーリの前にしゃがんで目を合わせる。

ヤンキー座りだ。ガラが悪い。

「どっちにしても、仲間なんだろ。小せぇし、あたしが守ってやるから心配すんな」

ふんっと鼻を鳴らして立ち上がったレジーナは、金棒を右手に取ってブンブンと振り回しながら離れていく。

本人もわかっていないが、照れ隠しなのかもしれない。そのまま少し離れた場所で素振りを始めてしまった。

拠点ではよくユーリやサラのことを鋭い目つきで睨んでいるが、あれはレジーナなりに子供を守っているつもりなのだ。

ユーリもサラもなんとなくわかっているのか、レジーナを怖がることはなかった。拠点でレジーナを怖がっているのはカーミラとフロスくらいのものである。

「それにしても、ハルカといいユーリといい、変わってるよな」

「……ん?」

ぽろっとこぼしたアルベルトの言葉に、イーストンが反応する。そういえばハルカの出自については、最初の三人は知っているが、イーストンもユーリも知らない。

ずっと一緒にいるのにいつまでも隠していても仕方がないかと思ったハルカは、怪訝な表情をしているイーストンに向けて口を開く。

「実はですね、私も変わった経緯でここにいるんです」

ユーリが首を捻ってハルカの方を見上げる。

「ユーリは前の世界、といいましたね」

「うん」

「私は、そうですね、冒険者になった年の五月。ちょうどユーリが生まれた頃なんでしょうか? オランズ近くの森の中で目を覚ましました。その時にはもうこの姿でしたね」

「この姿、だった?」

「はい。おそらくこことは違う世界で、普通に生きてきたはずなのに、ある日目が覚めたらこうなってたんです」

「……にわかには信じ難いけど、嘘つく理由もないもんね」

「はい、私も信じられません。ちなみに当時の私は平和な世界で、喧嘩の一つもしたことなく生きてきた、ただのおじさんでしたよ」

イーストンが顎に手を当てて考え込んでしまったことに、ハルカは苦笑する。これで気味が悪いと思われても仕方がないと覚悟はしていたが、きっとそうはならないだろうという妙な確信があった。

「ま、私たちとしてはハルカはハルカだし、そんなこと言われてもピンとこないわけ。だからって疑ってるわけじゃないけどね。ユーリ、よかったねー、ハルカママもユーリの仲間だよー。私たちこういうのに慣れてるの」

「ママも、一緒なんだ」

「そうですね、似たようなものです。私も今までユーリにこのことを秘密にしてました。嫌いになりましたか?」

ユーリがブンブンと首を横に振ったのを見て、ハルカはまたその小さな体を抱きしめる。

「私もね、ユーリのことを嫌いになったりしませんよ」

もぞもぞと動くユーリに、お腹の手を外してやる。するとユーリは立ち上がってぎゅっとハルカの首に抱きついて、また小さな声で泣き始めた。

ハルカは笑ってその背中を優しく叩いてやっていると、イーストンが長い沈黙から帰ってくる。

「…………まぁ、いいか。どうせ僕は今のハルカさんのことしか知らないし。ハルカさんも気にしないでいいよ、知ったところで何が変わるわけじゃないから。強い割に抜けてるのにもしっくりきたし。なんだかスッキリしたくらい」

「……ありがとうございます?」

まだ混乱しているのか、イーストンは普段は口に出さないでいるようなことまで口走っている。

ハルカはそんなふうに思われていたことを嘆くべきか迷いながら、やや疑問形で礼を述べた。