軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

威厳

書類をずらして机の上に座ったテトは、細い尻尾を揺らしながら足を組む。それでも後ろできちんと座っているシルキーの方が、どちらかと言えばギルド長らしくあった。

「んで、届けたの?」

「はい。今はエリザヴェータ陛下が各地に号令して、兵を率いてマグナス公爵領へ向かっています。現在地はバルバロ侯爵領の付近ではないかと」

「……ああ、うん。バルバロね、へー」

「ディセント王国の東海岸沿い中部の、神龍国朧と交易をしている侯爵領」

「ん、知ってる知ってる、あそこだろ、うん。んで? 勝ちそう?」

「……王国全土を見ると、エリザヴェータ陛下の味方が多いようです」

「へー、そっかー」

うんうんと頷いているだけで、テトが本当にわかっているのかかなり怪しく見える。反応からみると、おそらくバルバロ侯爵領の位置すら理解していないような雰囲気だ。

「西のサクレ伯爵が妙な動きをしていたはずですが、そちらの対処はどうなのかしら?」

「……対応はしていたようですよ」

西海岸の伯爵の名をサクレということを初めて知ったハルカだったが、おそらくそちらの対応はデルマン侯爵がする予定だったはずだ。問題はない。

「ゲパルト辺境伯領も変な雰囲気らしいけど、大丈夫なのかしら?」

「そちらは私たちで対応しましたけど……、シルキーさん、随分と詳しいですね」

「あら、仕事熱心ね。じゃあゲパルト辺境伯領は何があったか教えてもらえる?」

質問に答えずに更なる質問を繰り出してきたシルキーに、ハルカは口を閉ざして難しい顔をする。ギルド長に対してだからある程度報告するのは仕方のないことだと思っているが、国の内情まで漏らすのは違うような気がした。

「…………お断りします。エリザヴェータ陛下から受けた仕事です」

「あら、そんなこと言わずに」

「シルキー、そんなのどうでもいいだろ別に。ってかお前らまじめで仕事早いよな。めっちゃ偉い」

テトが話を無理やり止めて、にこにこと笑いながら手を叩く。ダルそうな雰囲気はあるが、嘘をついたりおためごかしを言っているようではない。

「俺さー、仕事嫌いなんだよな。だからお前らまじで偉いわ」

「あんた、なんでギルド長やってんだよ」

「なんか偉そうにして寝てるだけでいいって言われたんだよな。なのに思ったより色々仕事があってさー。旨い話には騙されちゃいけないよな」

どう見てもシルキーばかりが仕事をして、テトが仕事をしているようには見えないのだが、それでも今の待遇に不満があるようだ。

毒にも薬にもならなさそうな世間話をしていると、突然大きな音が部屋に響く。

「開けます」

もはやそれしか言わない受付嬢の声が聞こえ、扉が開け放たれる。

先ほど渡した魚を食べながら扉を押さえている受付嬢の横を、物騒な人物が歩いて入ってくる。全身鎧で包まれ、大剣を装備している。

要人に出会う前に武装解除とかいう概念はないのだろうか。

「ギルド長のテト。お前に勝てば特級冒険者として認めてもらえるんだろう。俺と勝負しろ」

ハルカたちがテトがいるはずの場所へ視線を戻すと、いつの間にかその場から姿が消えている。そしてハルカの後ろから声が聞こえてきた。

「望むところだ、この俺がテトだ。正々堂々勝負してやるからギルドの外で待ってろ」

そうしてハルカの手首が掴まれ、拳を前に突き出される。

人を身代わりにする気満々のようだ。

ハルカは腕に力を入れて、無理やり元の位置に戻しながら後ろを向く。

「テトさん、やめてください」

「あ、くそ、なんだお前力強いな」

「なんだお前じゃないです、やめてください」

「馬鹿にしているのか! テトは猫の獣人だと聞いている、舐めた真似をしてると……」

「はぁ、めんどくさ」

男が話している途中に姿勢を低くして走り出したテトは、そのまま大剣の男の下へ駆けていく。獣人独特の、四足歩行にも見紛うような姿勢の低さだ。

男は剣を引き抜き、一閃。

無駄のないその一撃は、テトの体を捉えたかに見えた。

ギルド本部に殴りこんでくるだけあって、相応の実力を持っているようだ。

しかしハルカがそこから見たのは、大剣の上を走るテトの姿だった。

テトの拳がぶれ、いくつも重なったような鈍い音が部屋に響き、テトがバク宙して元居た机の上へ戻ってくる。

フルフェイスの兜、分厚いアーマーのそこかしこが拳の型にへこんでいる。

「ニベラ、それ外に捨てとけ」

ドアを押さえる受付嬢、ニベラに指示を出したテトは、涼しい顔をしている。

ニベラは地響きを立てて倒れた全身鎧の男を見てから、そのままそっと扉を閉じてそのまま去っていった。

ギルド長の言うことをきく気はないようだ。

「なぁんでだよ、捨ててけよ。なんであいついつも俺の言うこと聞かないんだよ」

「さぁ? なんででしょう」

立ち上がったシルキーが、倒れた男を鎧のまま引きずり、そのまま窓から外に投げ捨てる。

それを目で追いかけながら、アルベルトがテトに尋ねる。

「あんたに勝つと特級になれんの?」

「特級の推薦と支部長の推薦があればなれるわけじゃん。俺がその両方を満たしてるから一応許可できるってだけ。めんどくさいから通すなって言ってんのに、ニベラがなんでもかんでも通すんだよな。シルキー、もしかしてあいつ俺のこと嫌い?」

「…………そんなことないわよ」

「っだよなぁ、じゃあなんなんだよ、ったく」

シルキーのやや長い沈黙にハルカたちは真実を悟る。どうやら受付嬢であるニベラはそんなにテトのことが好きじゃないようだ。

「あ、シルキー、報酬払ってやって」

「オランズ支部に送金するので、そちらで貰ってください。その方が便利でしょう?」

「あ、はい、助かります」

「話終わりなら帰っていいぞ」

「えーっと、はい、では失礼します」

流れのまま追い出されるように帰りそうになったが、アルベルトが口を開いたため足を止める。

「なぁ、クダンさんもあんたも、ユエルとかいうやつもめっちゃ強いけど、昔は勝てない相手とかいたの?」

テトは何かを考えるように腕を組んでアルベルトを見つめ返す。

そして重々しく口を開き、こう言った。

「何お前、ユエルにも会ったの? あとなんでクダンにはさんつけるのに、俺のことはあんたなの?」

指さして不満そうにそう言ったテトにはやはり威厳を感じなかった。

どうやら口を開かない方が彼女はそれらしく見えるようだった。