軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

類友

今日もナギは街の外でお留守番。

偉い人に会いたくないカーミラもお留守番。

カーミラと仲良くしている、あるいはカーミラが仲良くしているユーリも一緒にお留守番だ。

この間頭を撫でてから、ユーリとはずいぶん打ち解けたらしい。特に何を話すでもない時も、カーミラはユーリのことを目で追うことが少し増えた。

大人が相手よりはまだ落ち着くのかもしれない。単純に自分を害するだけの力がないと、カーミラのようなタイプは安心する。

今回は初めから報酬が提示されていたので、コリンもお留守番。なにやらカーミラがユエルから貰った宝石をじっと眺めているモンタナもお留守番だ。

一人で行くのは寂しいハルカに付き合ってくれるのは、空気が読めるイーストンと、冒険者ギルドの本部をまた見に行きたいアルベルトだ。イーストンがいるなら、まぁ大丈夫だろうと思ったハルカは、コリンの『相談役』という役割分担を思い出した。

これは安心感が違う。

ナギさえ連れていなければ街に入るのはそれほど時間がかからない。手早く街へ入り、寄り道をせずにギルド本部へ向かう。前に来た時もそうだったが、あまりのんびりしている時間がない。

並ぶ屋台を眺めながらハルカは、たまには旅行をするのもいいかもしれないと考えていた。

なんだかんだとハルカは依頼や緊急の用事以外で街を出たことがない。この世界の文化に疎いのも、そのせいなんじゃないかと首をかしげる。

「ハルカってさー、結構食いしん坊だよな」

「……はい?」

「ずっと屋台見てんじゃん。食いたいなら買えよ」

「いえ、そういう意味で見てたわけじゃないんですが……」

しかしそう言われると、ちょっと買ってみてもいいんじゃないかと思えてくる。串ものだったら到着するまでに食べてしまえばいいし、まだギルド本部までは少し距離がある。

「……ちょっと買ってきます」

さっと離れたハルカの背中にアルベルトが一言。

「やっぱ食いてぇんじゃん」

「ハルカさんってたまに子供みたいになるよね」

ハルカには聞こえていないが、意外と精神年齢が低めにみられているのは、食べ物に関してと、新しいものを見たときの反応のせいかもしれない。

一度買ってからはタガが外れてしまい、あっちも、あれもちょっとと、蛇行するようになり、ギルドにつく頃にはハルカだけでなく、両脇にいる二人にも食べ物を持たせるようになってしまっていた。

途中からストックを消化するために絶えず口を動かしていたのだが、それで消化しきれる量ではない。

通りすがる人々も心なしか笑っているように見える。美女が男を二人荷物持ちにしながらひたすら食べ歩きする姿は、はたから見たらさぞかし滑稽なことだろう。

「お前さぁ……、もうちょっと考えて買えよ」

「…………いえ、なんか珍しかったので」

「普段節約とか言ってるじゃんか」

「一個一個が安かったのでつい。皆にも食べさせたくて」

「帰りに買えよ」

正論で詰められ続けてもう言葉も出てこなかった。

「僕は別にいいけどね」

「別に俺もいいけどな」

そう言ってアルベルトは魚の串焼きを齧り始める。ハルカは食べていたものを飲み込んでからギルド本部に入ったが、アルベルトはお構いなしだ。

閑散とした広い受付には、以前と同じ態度の悪い受付が座っている。

ハルカたちの顔を見る前にアルベルトの手に持っている魚を、それから両手の食べ物に目を向ける。そうして彼女がお腹をさすると、そこからグーっと音が鳴る。そういえばちょうどお昼時だ。

「あー……、買いすぎてしまいまして、良かったらいかがですか?」

包み紙をはがして魚の串を差し出すと、受付の女性はカウンターから出てきて、包み紙ごとそれを受け取った。

「では遠慮なく」

まだ五本残っているそれを持ってカウンターの裏にしまいに行く。一本だけと思っていたのだが、全て持っていかれてしまった。いそいそとカウンターの奥へとつめ、そっと包み紙を被せなおしてから、更に布を乗せ、手前に恐らく仕事で使う書類らしきものを移動させる。

そこまでしなくても誰もとらないと思うのだが、作業を終えた受付嬢は満足げに頷いて戻ってきた。まるで小動物のようである。

「いい人ね。ギルド長とシルキー様にご用事ですよね? どうぞ」

「あ、はい」

話をしながらも、視線が今度はイーストンの持っている食べ物へ向いていたが、ハルカの返事を聞くとちゃんと案内を始めてくれた。案内しながらも曲げた首は執拗にイーストンの手元に向かっていたのだけれど。

相変わらず豪勢な扉の前に来ると、受付嬢は殴りつけるように遠慮なくその扉を叩く。装飾のある凸凹とした扉の一部が欠けているのはきっと彼女のせいだ。

「ギルド長、シルキー様、あけます」

前回来た時よりさらに短い言葉だった。もはや許可を取るのではなく宣言をしているに過ぎない。

勝手に扉を開けた受付嬢は、ハルカたちを顎でくいっと中へ入るように促す。

イーストンは最後尾で部屋に入る前に、ため息をついて受付嬢に食べ物を差し出した。

「よかったらどうぞ」

「では遠慮なく」

「ハルカさん、ごめん、帰りに買うから」

「あー、お気になさらずに」

視線に負けたらしい。

結局無事だったのはアルベルトの持っている食べ物だけだ。

部屋に入ると執務机の前にシルキーが座って作業をしているのが見えた。ギルド長はテトのはずなのに、果たしてこれが正しい姿なのかというと微妙なところだ。

「……あの、テトさんはどちらに?」

ハルカが尋ねると、シルキーは顔を上げて静かに微笑み手招きをする。

ハルカたちがそれにつられて寄っていくと、テトはシルキーの太ももの上にお腹を乗せて、だらりと手足を脱力させていた。

「寝てるの、可愛いでしょ」

「…………そうですね」

辛うじて返事をしたハルカだったが、内心考えていることは違う。

ピクリともしないせいで死んでいるのかと思っていた。特殊な寝相すぎる。

「うるせーな。なんでお前らいつも昼寝してるときに来んの?」

「あら、あなたいつ来ても大体眠ってるでしょ」

「いや、寝てるふりしてるだけの時もあるし」

果たして今がどちらかは不明だが、ずるずると床に落ちたテトは、だるそうに立ち上がって腰に手を当て胸を張った。

「で、なんだよ。…………あ、俺が依頼だしたのか」

途中で思い出したようで、頷くテト。

とても頼りになりそうな素敵なギルド長の姿に、ハルカはほんの少しだけ不安を抱くのだった。