軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

顔合わせ

野営の準備をしている兵士たちは、ハルカたちが来ると道を空けてくれる。正確には先頭を歩く兵士を見ると作業をやめて動きを止めていた。きっとそれなりに身分のある人物なのだ。

見張りの間を数度通り抜け、広い天幕の前で立ち止まった兵士は、外につけられた鈴を鳴らしてからハルカを案内してきたことを告げる。男性の入室許可が出たところで、その兵士が入り口の布を持ち上げて、ハルカたちを中へ招き入れる。

厳めしい顔をした軍人たちが一斉に中へ入ったハルカたちをじろりと見た。睨むつもりがなくても、軍役についている将校たちの視線は鋭く、威圧感がある。

ハルカもやや体を緊張させたが、左側にいるカーミラが体を寄せてきたことに気がつき、顔をしっかりと上げて将校たちを見返した。

落ち着いて観察してみれば、何も緊張しているのはハルカたちだけではない。この場で余裕のある人物は恐らく、エリザヴェータと右にいるモンタナくらいだ。いくら軍人といえども、特級冒険者の前に立つ時は緊張するのだ。

それは主君であるエリザヴェータがいくら安全であると主張したところで大して変わらない。

軍人として取り立てられている人物たちだったから、もちろん観察眼に優れていたり、腕に覚えのあるものばかりだったが、それだけに強さを計りかねるハルカの立ち姿には緊張を覚えていた。

確実に格上であることが分かっている相手の実力を計りかねる、というのはそれだけ彼我に隔絶した差があることを示しているとも言えるのだ。

実際はただハルカが強者らしい雰囲気を纏っていないだけなのかもしれないが、彼らは安直にそうは思えなかった。

中に入ってから一人一人の顔を見て、それからハルカは助け舟を求めてエリザヴェータの方を見る。今まで個室で、他の王国関係者が殆どいない場所で話してばかりいたせいで、どのような態度をとるのが正解かわからない。

無言で主君を見つめるハルカの態度に、その場に居合わせた将校たちはさらに警戒を強める。緊張の糸が張り詰めた天幕の中に、エリザヴェータの「くっくっく」という堪えるような笑い声が漏れ出し、ハルカは眉を顰めた。

「随分と早かったな、ハルカ」

「急いだほうがいいかと思いまして」

「いや、実際助かった。簡易でいいから報告をくれ。緊張しないでいいぞ、ここにいるのは全員私の腹心だ。お前たちも、警戒する必要などないと言っているだろう」

確かにこの狭い空間で武器を携えたままいるのだから腹心には違いないのだろう。しかしハルカとしては友達の友達みたいな間柄の人との距離感がよくわからない。

「手紙は全て届けました。どの方からも肯定的なお返事をいただいています」

とりあえずは言われた通りに、全ての手紙を滞りなく届けたことだけを端的に伝える。エリザヴェータは二度手を打って、機嫌のよさそうな笑みを浮かべた。

「てっきりいくつか断られるかと思ったのだが、ハルカに依頼をして正解だったな。各地の詳しい情報も聞いておこう」

「色々とありましたけれど、いいんですか?」

話をするのには憚られるものもいくつかある。特に隣にいるカーミラのことなどは、大勢いる前で話すようなことではないだろう。

「そうだな……。ではこいつらには外に出てもらうか」

「陛下!」

エリザヴェータのことを心配しているのであろう将校が声を上げる。すると機嫌よく笑っていたエリザヴェータは突然真顔に戻り、じろりと全体を睨みつけた。腰を浮かせかけていた将校たちがその場に固まり、ゆっくりと座りなおす。

「……お前らが疑いを持つから、こうして面を通す機会はやっただろう? 私ははじめから同席しなくていいと言ったはずだ。これ以上私に譲歩させる気じゃあるまいな?」

場がシンと静まり返ると、エリザヴェータは指先でテーブルを二回叩いた。

「出ていけ、二度言わせるな」

それぞれが「はっ」と同意し、すぐさま立ち上がるとそのまま素早く天幕から出ていった。全員が出ていくのを待ってから、エリザヴェータは再び機嫌のよさそうな表情に戻る。

「よし、座れ。あいつらの後で悪いけどな」

促されたハルカが近くにあった椅子に座ろうとすると「違う」と言われ邪魔される。

「私の傍でいいだろう。なぜそんなに距離を取る」

先ほどのエリザヴェータは随分と恐ろしかった。戦う人間というよりも、権力者独特のプレッシャーのある物言いは、中々迫力がある。ほんの少しハルカとしても距離を取りたくなるような雰囲気があった。

それよりなにより、カーミラが視線を彷徨わせてやや挙動不審になっているのを見て、距離を置いておこうと思ったのが、エリザヴェータはそれが気に食わないらしい。

「カーミラ、別に噛みつかれやしません」

「べ、別にわかってるわよ」

「はい、じゃあ行きますよ」

近くに腰を下ろすと、さっそくといった様子でエリザヴェータはカーミラを見つめた。

「カーミラというのか。どこで?」

「ゲパルト辺境伯領です」

「ほう」

「な、なによ」

見つめられて言い返せただけ度胸がある。伊達に千年生きていない。動揺してどもってしまったのはご愛嬌だ。

「もしや、吸血鬼か?」

「な、なな、なにが!?」

「なぜ、吸血鬼がこの場所にいる」

もはや返事にもなっておらずただ動揺しているだけのカーミラを、エリザヴェータは責め続ける。カーミラの目は泳いでいるというレベルではなく左右に素早く動き、やがてそれは助けを求めるようにハルカに向かって固定された。

「リーサ、話を聞くのではないのですか? 弱い者いじめは良くないと思います」

エリザヴェータはちらりとハルカの方を一瞬向いて、そのまますぐにカーミラを見たが、後に続いた言葉を聞いてプッと噴き出して笑った。

そして額に手を当てて、しばらく漏れ出すように笑い続け言った。

「ハルカ、今、弱いものと言ったか? くっく、そうか、わかったわかった、話を聞こう。一から十まで漏れずに別れた後の話を聞かせてくれ」

「よ、弱くないわよ!」

顔をかーっと赤くしたカーミラが立ち上がったが、エリザヴェータはひらひらと手を振って取り合わない。

「わかったわかった。これ以上いじめたりしないからお前は座っていろ。私はハルカの話が聞きたいのだ」

「あ、いえ、弱いとは思っていません、そこは言葉の難しいところでして」

「いや、いい。お前が守ろうとしている相手なら私がこれ以上踏み込むべきことではない。なにせハルカは私の部下ではないからな」

「ああ、いえ、まぁ……。えー、では別れてからの話ですね」

これ以上話を続けても無駄にカーミラの心を傷つけるだけだと思ったハルカは、不器用に話を切り替える。モンタナは余所を向いて笑っていたし、カーミラはぎゅっと口を結んでいたが、今やるべきことをすることにしたのだ。別に問題を後回しにしたわけではない。

ハルカは心の中で自分に言い訳をしながら、デルマン侯爵領からのことを語り始めた。