軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

線引き

エリザヴェータは各領地に呼びかけ、兵士たちが合流するのを待ちながら進軍しているはずだ。だとするのならば、進みはかなりゆっくりとしているはずだ。

それでも別れてからひと月後にマグナス公爵領付近に到着している予定だから、猶予はあと十日程度。

いま改めて地図を見て考えてみると、たったひと月で軍を動かし目的地に到着させるというのは並大抵のことではない。

きっとあらかじめこのような事態を想定して準備を進めてきたのであろうことがわかる。

バルバロたちと別れて二日。そろそろ軍が見えてきてもいいはずだと道の先に目を凝らしていると、やがてずらりと道を埋める人の列が遠くに見えた。

武器や鎧が夕日を跳ね返しているので、武装した集団だというのはすぐにわかった。

そのまま近くまで飛んでいき、また矢を射かけられてはたまらない。ハルカたちは手前で降りて歩いてその列に合流することにした。

適当に広がって歩き、最後尾にナギがついてくる。本当はどこかで待っていてもらったほうがいいのかもしれないが、この後一緒に行動するかもしれないことを思えば、早いうちにナギの姿を味方に見せておくほうがいい。

大型飛竜の登場に混乱するのは敵方だけで十分だ。

しばらく進んでいくと、正面から兵士たちがやってきて、少し遠くで馬から降りる。腰のひけた馬たちをどうにか宥めすかしながら、そのうちの一人が口を開く。

「特級冒険者、ハルカ=ヤマギシ様ですね。陛下よりお迎えするよう仰せつかっておりました! ご案内させていただけますでしょうか!」

落ち着かない馬たちを見ながら、ハルカは自分だけ少し距離を詰めながら答える。

「ええ、お願いいたします。それと、案内はお一人いれば大丈夫です。馬たちが怖がっているようですので、連れて先に戻ってあげてください」

「はっ、ご配慮感謝いたします! 先に戻れ」

あまりにビシッと対応されると、逆にハルカの方も緊張してしまう。

馬を連れて先に戻っていく兵士たちを見送りながら、ハルカは少し考えていた。

王国においては冒険者の立場というのはそれほど強くないはずだ。身近に存在しないものだから、上位の冒険者といえど、どれほど強いものかいまひとつ理解されていない雰囲気を感じていたし、それは王都〈ネアクア〉においてもさほど変わらなかった。

エリザヴェータのことだから、一般的にはそうでも、兵士たちにはある程度言い含めているのかもしれない。ハルカはそんなことを思いつつ、兵士たちが少し離れたのを確認して、再び口を開いた。

「では、ご案内お願いします。それと、私たちは冒険者ですので、それほど固くならなくても結構ですよ」

「いえ、そういうわけには……! 陛下がハルカ様のことは実の妹のように思っていると仰っておりましたので」

ありがたいようで、ありがたくない話だ。関係を大事にしてくれるのは構わないが、そんなことを公言されてしまうと、まるで王国専属の冒険者のように思われかねない。

「それは、普段から……?」

「いえ! いまこちらに赴く指令をいただいた際に、他言無用と言って聞かせてくださいました!」

他言無用と言っても、その場にいたのはこの兵士だけではなかったはずだ。人の口に戸は立てられない。

いずれまことしやかな噂としてこの話は広がっていくことだろう。とはいえ、他国にまで伝わるような話じゃないというのが、要所を押さえているエリザヴェータのいやらしいやり方だ。

実に文句が言いづらい。

兵士一人のあとをゾロゾロとついていきながら、ハルカは横に並んで澄ました顔をしているカーミラをチラリと見る。

本来女王の前に出すべきではないのだろうけれど、どこかで待っていろというのにはちょっと不安もある。

いい犬候補を見つけたとか言い出して、ふらふらと歩き出しかねないんじゃないかと、ハルカはまだ少しだけ疑っていた。

だからといって酷い悪さをするとまでは思っていないのだけれど。

「カーミラ、いまから偉い人に会うので静かにしててくださいね」

「お姉様、私いつも静かにしてるわよ? それに私偉い人とか怖いから、本当は会いたくないのだけれど」

言われてみればどこに行ってもカーミラはハルカの隣でおとなしくしている。時折ぼやくようにツッコミを入れているが、それ以外は顔が整っているだけにまるでお人形さんだ。

偉い人が怖い、という発言を受けてハルカはどこか既視感を覚え、ほんの少ししてから、その正体が以前の自分であることに気がついた。

最近は偉い人と会うのにも、怖い人と会うのにも以前ほど緊張することがなくなっている。果たしてコレが良いことなのか悪いことなのか、そんなことを考えているうちに、野営の準備をしている兵士たちが目視できる場所まで辿り着いていた。

「申し訳ありませんが、飛竜はこの先に進むのが難しいかと」

これ以上進むとテントや人を踏み潰しながら行くことになる。そんな傍若無人な振る舞いができるわけがない。

「ええ、ではこちらで」

「んじゃ俺留守番してるわ」

「うん、私もご飯の準備とかしようかな。多分今夜はもう出かけないでしょ?」

アルベルトとコリンがそう言うと、イーストンも何も言わずにその横に止まる。ここ数日ユーリはイーストンにくっついているので、自動的にユーリもお留守番だ。

「私も残ろうかしら」

「カーミラはいくですよ」

「そうですね」

そろっとそちらへ歩いていこうとしたカーミラを、モンタナが止める。偉い人が怖いという気持ちもわからなくはないから、留守番させてあげたいところだけれど、まだしばらくそこは譲れないところだろう。

これから夜が来る。

カーミラが本気を出して暴れたら、この一帯の兵士はただでは済まないはずだ。

「人の偉いのって変なのばかりで嫌なのよ……」

カーミラのぼやきにハルカは心の中で深くうなずきながらも、モンタナと三人で連れ立って兵士の後に続くのだった。