軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

思っていたのとちょっと違う

ナギに乗って空を飛び、日が暮れ始めた頃に山のなだらかな地形を探して夜営の準備をする。間も無く夜、吸血鬼の時間だ。

イーストンによれば、吸血鬼は毎日食事を取らなくても、活動の限界がすぐに訪れることはないという。

カーミラ本人に尋ねてみても「いらないわよ」と言っていたので、ハルカたちは遠慮なく夕食をとることにした。

食事の準備をする間に、ハルカはそれぞれを捕まえて、今後のカーミラの処遇について自分の思うところを話した。

一番反応が芳しくなかったのはコリンだったが、それでも強い反対ではなかった。

「ちゃんと見ておかないと危ないし、何かしでかす前に手を打ったほうがいいって……本当は思うよ? だけどさー、話聞いちゃったし、レジーナの時だって私反対したけど、結局馴染めたしー。みんなでちゃんと気をつけて見ておけば大丈夫なんじゃないかな」

「すみません、わがままで」

「ううん。私だって、あの子殺しちゃえとはならないよ。かと言って野放しにもできないし」

千歳の吸血鬼をあの子と呼んだコリンは、そう言って夕食の準備に戻った。前のコリンだったらもっと厳しい答えを出したのかもしれないが、彼女もまたハルカに影響を受けて、前より丸くなっている。

そんなわけでハルカは、首だけのカーミラの前に全員を集めて語りかける。

「な、なによ。みんなして集まって、なんなのよ」

何も知らされていないカーミラからすれば、戦力を集められてプレッシャーをかけられているだけだ。視線を動かして各々の様子を探っている。

「カーミラ、体を元に戻したいですよね?」

「何よ、悪いことならしないわよ」

警戒心が高まっているのか、元から臆病な性格なのか、質問に答えずに自分の安全を確保しようとしている。

さすが何百年も一人で森に籠っていただけはある。

「えーっと……、悪いことをしないで、私たちと一緒にいるのなら、体を戻してあげようかなと思っただけなんですが。そのままがよければ、別ですけど」

「いいの!? 私むこう百年くらいはこのままなのかと思っていたわ!」

そんなに長いこと生首のままでいるつもりだったのかと、逆にハルカたちは驚いてしまった。悪さをする気がないというのはどうやら本気らしい。

問題は本人が意図せずに悪いことをしてしまった場合なのだけれど。

「ただし、戻るのであれば約束をしてもらいます」

「わかった、守るわ」

内容も聞かずに返事をしたカーミラに、ハルカは口を閉じる。こういう反応の場合の多くは、そもそも約束を守る気が無いことが多いのだが、カーミラの目は真剣そのものであるように見える。

「約束、守るわよ。悪いこともしない。百年は我慢するつもりだったけど、本当は嫌なの、首だけは。後ろも向けないのって、ものすごくもどかしいのよ」

「えーっと、では。人から勝手に血を吸わない。必ず私と一緒に行動する。何かをする前に私たちの誰かに許可を取る」

「お安い御用だわ」

「破った場合はわかりますね?」

「破らないわよ」

どうにも返事が軽いように聞こえてくるのだが、モンタナが俯いて少し笑っているのが見えて、ハルカは覚悟を決めた。

きっと彼女にしてみれば全部本気なのだ。

「……約束です。障壁を解けば自分で元に戻れますよね?」

「ええ、もちろん」

念のため周囲を大きな障壁で囲ってから、ハルカは体の囲いを解く。

すると即座に溶けるように小さなコウモリへ変化した体と頭が、絡み合って、元のカーミラの姿を形成する。

金色の長い髪。血のような真っ赤な瞳に、強気に吊り上がった目尻。黒いドレスは肩や胸元を大きく露出させて、月明かりに映える真っ白な肌を際立たせていた。

カーミラがにやーっと笑い犬歯を見せると、何かを企んでいるような悪い顔になる。まさかと思いやや身構えたハルカたちに、カーミラはそのまま口を開いた。

「ありがと。すっごくスッキリしたわ。今、この時間なら、あなたたちから逃げ出すこともできそうね」

サラリと崩れるように複数体のコウモリに溶けたカーミラは、そのまま滑るようにハルカの横に移動すると、再び形をなし、その手をとって膝をついた。

昼間の状態からは考えられないような妙な色気を醸しながら、カーミラはそっとハルカの手の甲に唇を寄せた。

「でも、約束したものね。私はカーミラ=ニーペンス=フラド=ノワールよ。これからどうぞよろしくお願いするわ、私たちと同じ真っ赤な瞳と、月光のような美しい御髪を持ったハルカお姉様」

「ハルカ! 大丈夫、魅了とか使われてない!?」

驚いて目をパチパチとさせながら黙り込んでいたハルカに、コリンが疑いをかける。

実際のところ、ハルカは魅了されてなんかいない。

モンタナが動いていないことからわかるように、そもそも魔法なんか使われていない。突然の行動に放心していただけだったが、黙り込んでいると心配させてしまうことに気が付き、ハルカは無理やり言葉を絞り出す。

「…………えーっと、私、あなたより年下です」

「でも私はお姉様とずっと一緒にいて、お姉様の言うことを聞くんでしょう? ならあなたがお姉様よ」

ツカツカと歩いてきたコリンが、カーミラが両手で掴んでいたハルカの手をとって見下ろす。

「何企んでるのよ」

「……何も?」

「嘘です」

後ろから飛んできたモンタナの声に、ハルカはため息をついてしゃがみ、カーミラと目を合わせる。

「嘘つくと、わかりますよ?」

「嘘なんか……。…………いいじゃない! 気に入られようとしただけじゃない! これからずっと長く一緒にいるのよ? 逃げ出してこれから先ずっと怯えて暮らすのも嫌! だったら仲良くした方がいいじゃないの! ……ね、お姉様? 私悪いことしないし、いい子にするわ。可愛がってちょうだい?」

両手を組んで小首を傾げ、精一杯可愛らしい笑顔を向けてくるカーミラに、ハルカは辛うじて反応を返す。

「えーっと……。別に悪いことしなければ怒りませんし、普通に接します。なので、カーミラも普通にしてていいですよ?」

「昔飼ってた女の犬が言ってたわ。気に入られたい相手のことはお姉様と呼ぶようにって! だからお姉様って呼ぶわ」

「あ、はい……」

お手上げだった。

「もうちょっと首だけにしといてよかったんじゃないかなー?」

「そんなひどいこと言わないで!」

コリンの呆れたような言葉に、カーミラは悲鳴をあげてイヤイヤと首を振った。確かに攻撃的なことは何一つしていないし、逃げ出す雰囲気も全くない。

それでも、何か、どこかで選択肢を間違えたんじゃないかという気がしてならないハルカだった。