軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

受け入れ体制

「竜!? 竜がいるわよ! 何のんびりしてるの、戦う準備して! 私首しかないのよ!?」

湖まで戻ってくると、大きな魔物を食べていたナギが、首を上に向けて出迎えてくれた。血まみれの口元と大きな体は、初対面だと確かに凶悪に見えるかもしれないが、慣れたハルカたちは動じない。

「大丈夫ですよ、うちの子ですから。ナギ、いい子にしてましたか?」

地面に降りると、食事を中断してナギが寄ってくる。ハルカの質問にナギは大きな口を開けて返事をした。自分で動くことができないのに、すぐ横に待機させられているカーミラからすればたまったものではない。

「ナギがご飯を食べ終わったら出発しましょうね。山で一泊して、それから確かエレクトラムの上空を飛んでいくという約束でしたっけ?」

ハルカが振り返って仲間たちに確認しているうちに、ナギが鼻先をカーミラに寄せる。見たことの無い顔、しかも頭だけでしゃべっているものだから気になったのだろう。

「きゃああ、ちょっと、ちょっとなんとかしてよ。なによ!」

悲鳴を上げられると流石に無視するわけにはいかず、ハルカは血の付いたナギの鼻先を手のひらでそっと押しやって、カーミラに尋ねる。

「やっぱり大きな竜は怖いですか?」

イーストンの国にも大型飛竜がいると聞いていたし、もしかしたらカーミラにもすぐ受け入れられると期待していたので、ハルカとしてはちょっと残念だ。

本人にそんな意図はなかったにせよ、挑発するような質問に、カーミラはむっとして答える。

「……怖くないわよ!」

「そうですか。良かった」

売り言葉に買い言葉だ。ハルカが緩く笑って間に挟んだ手をどけると、ナギが再び鼻先をカーミラに寄せる。表情を引きつらせたカーミラが黙って我慢していると、血まみれの鼻先がぴとっとカーミラの額にくっつく。

「ちょっと!!」

カーミラが大声を出すと、驚いたナギが慌てて身を引いた。

「あ、すみません、今きれいにします」

ハルカが布を水で濡らし、カーミラの額をぬぐう。

こうして世話をすることを考えると、本当はさっさと体とくっついてほしい気持ちもあった。夜になって障壁さえ解けばくっつけるのだろうけれど、果たして本当にそうしていいのかは疑問が残る。

ナギの食事を待つ間、ハルカたちもそれぞれ休憩をする。

食べ物もそれぞれ携帯食料をつまむくらいで、火を焚くようなことはしなかった。

湖で泳ぐ魚をハルカがぼーっと見ていると、隣にイーストンがやってくる。

「カーミラ、この後どうするの?」

「……どうしましょう」

「行き当たりばったりだなぁ……」

「首と胴体、くっつけてあげようか悩んでいるところです」

「どうかな。本当に敵対の意思がないことをよく確認したほうがいい。昼間にあれだけの能力と生命力を発揮してるからね。彼女がかなり強力な吸血鬼であることは間違いないよ。戦う技術はそんなになさそうだったけど」

「信じていいんですかねぇ」

「どうかな」

湖でパシャリと魚が跳ねる。

しばらくの間ナギがここでうろうろしていたはずだが、その割には魚たちに警戒心がない。糸を垂らしたらよく釣れそうだ。

ハルカはカーミラが聞いた事の顛末を思い浮かべながら対応を検討する。

「イースさんは、どうでしょう。長く人と触れ合って生きてきて、何をしたわけでもないのに突然迫害されます。話す人もおらず、天涯孤独の身。それから二百年、それでもなお何もせずに森に籠っていられますか? 私は多分……、無理かもしれません」

「どうかな。もっと早く仲間を探すかもしれないね」

「行動できる人はそうかもしれませんね。長く一人でいると、どうにかしよう、なんとかしようって気持ちって薄れてきちゃう気がします。そんな時に手を差し伸べられたら、多少の疑念があっても、私はその手を取ってしまうかもしれません」

黙って聞いているイーストンにハルカは続ける。

「今拠点にいるレジーナも、小さなころから一人で生きてきたせいで、色んなことを知りませんでした。でも、今は皆と一緒に生きています。一人でいた期間の差はあれど、人と接した期間も長い彼女は、人の世界の常識さえ理解できていれば、そこに適応できると思うんですよね」

「そうだね、僕もそう思うよ」

「では……」

「でもね、彼女は吸血鬼だ。吸血鬼が人の血を啜るのは、本能みたいなものだ。近くにいたら我慢をするために大変な忍耐力がいる。吸血鬼による吸血行動は、人でいう食欲と性欲を一緒にしたくらいの衝動があるらしいからね。僕たちが考えなければいけないのは、万が一の時のことじゃないかな? 行方知らずになって本気を出されたら、どれだけの被害が出るかわからないよね」

ハルカが否定的なことを長く話すイーストンの顔を窺う。するとその表情は意外なことにひどく穏やかで、何かを心配しているようなものではなかった。

「でも僕は、別にいいんじゃないかと思うよ。多分、カーミラは人のことが好きだ。対等な力を持つものの言葉なら聞き入れるくらいの理性はあるんじゃないかな。駄目だった時のことを考えていると何もできないからね」

いつもの慎重なイーストンらしくない言葉だった。しかし晴れ晴れとした表情を見ると、悪い印象は受けない。

ハルカはしばしその横顔を見ながら考えたが、結局一言イーストンに答える。

「一度、信じてみましょうか」