作品タイトル不明
女王様の交渉術
アルベルトがどこからか武器を集めてきて地面にばら撒く。それをユーリに渡して振らせているが、上から見ているハルカはずっとヒヤヒヤしていた。
せめてユーリの背丈より大きい武器を持たせるのをやめてほしいと思いながら見守っていると、ドアが開けられてエリザヴェータが部屋に入ってきた。
ハルカが振り返り、コリンとモンタナも立ち上がる。
交替するように外に出たリルが、扉をぴっちり閉めるのを待って、エリザヴェータが声を発した。
「じいは連れてきていないのか」
「残念ながら」
「私に何か伝言は?」
「急に来ることになったので特にありません」
「そうか!」
エリザヴェータは不満そうな表情で乱暴にソファへ腰を下ろす。ハルカは、彼女がデレデレでノクトのことを撫でまわす姿を見ていたので、これくらいの反応は予想をしていた。
「元気そうだな、ハルカ。特級冒険者になったと耳にしたが、私に雇われる気はないか? どこよりも良い条件を出すが」
「リーサこそお元気そうで何よりです。ありがたいご提案ですが、拠点も作っておりますので……」
「まぁ、そうだろうな。陛下と言わずリーサと呼んだだけでもよしとしてやろう。先ほどイングラム子爵と会ってきた。今回の報告はその件か?」
「いいえ、今回は冒険者ギルド長より急ぎの手紙を預かってきました」
「ギルド長……、たしかいつも寝こけている猫の獣人か? 自分で書いたのか怪しいところだな。……ところで、モンタナとか言ったか、お前は何をそんなに天井を気にしている?」
手紙に目を通しながら、顔も上げずに問いかけるエリザヴェータ。ハルカが振り返ってみると、確かにモンタナの視線がずっとエリザヴェータの上に向いている。
「敵じゃないなら気にしないです」
「……敵ではない、肩の力を抜け」
「ですか」
何かが天井裏に控えているらしい。ハルカにはまるで察することができなかったが、確かに女王が無防備に単身で冒険者と会うのはおかしい。何かと変わった人物なので、気にしていなかったけれど、護衛はきちんとつけているということなのだろう。
「冒険者三人と会うのにこれしか護衛をつけていないのだ。むしろ信用されていると考えるのだな」
「まぁ、そうですね」
もっとドヤドヤ護衛をつけて然るべきだと思っていたハルカは、反論もなくただ同意する。
「嫌味の一つも飛んでくるかと思ったがな」
「いえ、特には。むしろもっと警戒された方がいいんじゃないかと思うくらいです」
「それは……私が今つけている護衛程度では、ハルカを止めることができないという自信からの言葉か?」
どう曲解したらそう取れるのだろうと、ハルカはしばし返答に悩む。自分の言ったことを振り返りながら、変なことを言っていないと確認して、慎重に口を開いた。
「あの、単純に大事な御身なので、人と会うときは大袈裟なくらいに護衛をつけた方がいいのではないかと思ったのですが……。気に障ったようでしたら申し訳ありません」
「……階級も上がったというのに、本当に冒険者らしくないな。姉弟子として心配になる。もっと舐められないように立ち回るべきだな。この様子ではお前たちも苦労が絶えないんじゃないか?」
話を振られたコリンは。隣のハルカを上目遣いでチラリと見上げて首を振った。
「するかもしれませんけれど、私たちはこんなハルカが好きなので、別に構わないんです。陛下もそう思われませんか?」
「…………ハルカのようなものが相手でなければ、私だって十分な数の護衛を用意している。余計な心配は無用だ。さて、手紙は読んだ」
ハルカはコリンの言葉に情けないような照れくさいような思いを抱えて、エリザヴェータの言葉は聞いていなかった。
そのせいで返事はなかったが、エリザヴェータはそのまま続ける。
「そろそろ、始末するべき時期だとは思っていたのだ。有力貴族の約束は取り付けた。今回の件で大義名分も得ることができたし、【独立商業都市国家プレイヌ】から冒険者を雇う口実もできた。賠償は全てマグナス公爵領から補填すれば良いだろう」
身を乗り出して拳をテーブルに乗せたエリザヴェータは、口角を上げて攻撃的な笑みを浮かべる。
「奴は貯め込んでいるぞ。父上を殺して、私が力を得るまでの間、ひたすらに私腹を肥やしていたからな。私の懐を傷めずとも、十分に各所への支払いができるだろう。奴の側についている貴族の選別もすでに済んでいる……」
エリザヴェータは立ち上がり、窓際まで歩いていくと、訓練場を見下ろす。
「……大型飛竜か。ハルカ、手を貸してくれるな?」
「……はい?」
「ここまで話を聞いたのだ。当然、姉弟子に、手を貸してくれるに、決まっているよな?」
「……リーサ、私は」
「あーあー、いい、皆まで言うな」
手と首を振って大げさにハルカの言葉を遮ったエリザヴェータは、振り返り堂々と胸を張る。
「都度内容については相談する。気に食わなければ断れ。依頼料も払う。私は従えとは言っていない、手を貸してくれと言っているのだ。女王であり姉弟子である私が、頼んでいるのだ。話くらい聞いてくれてもいいだろう」
「また話を聞いたら断れないような依頼なのでは?」
「おや、少し賢くなったか。ではそれもしないと約束しよう。とにかく依頼の話をさせてくれ。頼みたいことに関しては、今回の子爵の件とも関係がある。場所を変えて、イングラム子爵も交えて食事会と洒落込もうではないか。いいだろう?」
ハルカは元々押しの強い人は苦手だ。エリザヴェータのような態度は得意ではないはずなのに、硬軟織り交ぜて口説いてくるやり方に、強い嫌悪感を抱けずにいた。
これが役者の違いとか、カリスマとかいうやつなのかと思う。
断られるとは微塵も思っていなさそうなエリザヴェータの表情を見返して、ハルカは小さくため息をついて頷くのだった。