軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

懐刀

ハルカはこめかみのあたりに指先で触れる。表面を撫でられているような、妙な疼きを感じてのことだったが、すぐにそれはなくなった。門から立派な服を着た兵士が現れて、まっすぐにハルカ達の方へ向かってくる。

胸にいくつかの勲章を付けたその男は、一瞬ナギの大きさに目を奪われたが、すぐに姿勢を正し、ぴたりと足を揃えて止まり通達をした。

「門から入らずに、空から城に向かい、私の指定する場所に降りるように」

「はぁ、わかりました」

すました顔でそれを待っている男に、話しかけるべきかどうか迷いながらも、ハルカは曖昧に返事を返して準備をする。

「なんか偉そうな奴が来たな」

「勲章ついてるし実際に偉いんじゃない?」

アルベルトとコリンがひそひそと話す中、モンタナとハルカは並んで首をかしげた。

イーストンはそっとユーリを引き寄せて抱き上げた。やや緊張した面持ちで、兵士の方をこっそりと窺う。

仲間たちがナギの背に乗り込んだのを見送ってから、ハルカはすました顔をしているその男に声をかけた。

「……リルさんですよね? なんでそんなに他人行儀なんです?」

ほんの一瞬だけ表情が歪み、リルは無言でナギの背に登っていく。ハルカがその後ろから乗り込み、ナギが空へ舞い上がると、ようやく返事が戻ってきた。

「……久しぶりだな、またあんたには通用しなかったか」

リルは手のひらでペロンと顔を撫でる。ハルカからは変わったように見えなかったけれど、他の面々からはそうでなかったらしい。

モンタナは違和感の正体に頷き、コリンとアルベルトは「あっ」と声を上げた。

以前王国に来た時に、女王であるエリザヴェータの姿を模倣し、ハルカ達に偽護衛依頼をしてきた男だ。相手からの認識を歪める闇魔法を得意としており、諜報に長けている。

「何、知り合い?」

「おう。なんか王様の部下? 変装みたいな魔法が得意らしいぜ」

「闇魔法だよ。なんか変な感じがするから気を張っちゃった」

イーストンはユーリを抱き上げたまま、障壁に寄りかかってため息をついた。気を抜いたリルは首を回しながら襟元のボタンを外す。

「いや、軍服っていうのは暑くてよくないな。というか、大型竜って聞いて驚いて来てみりゃ、なんか強そうなのまで増えてるな。まさかこの竜、あの時の小さいやつかよ?」

「ええ、はい。ナギといいます」

「覚悟してきたってのに、あまりにでかくて驚いちまった。たった一年でこんなに成長するんだな。そんでお前ら、今回は何しに来たんだ? イングラム子爵の護衛をしてきたってのは聞いたけどよ、それだけじゃないだろ?」

流石に諜報員をしているだけあって話が早い。リルになら事情を説明してもいいような気がしたが、今回は冒険者ギルド本部からの依頼だ。軽々に内情を漏らすのは控えることにした。

「リーサに直接話します。重要な話なので」

「あのな、我らが女王陛下とそんな気軽に面会できると思わないでくれよな。……いや、するんだろうけどよ」

女王信奉者であるリルは忠告を発してから、独り言のように呟いて首を振った。それから障壁の端まで恐る恐る歩いていき、下の景色を覗き込む。

「こりゃ怖いな。しかし速い。……あー、城の訓練場わかるか?」

「リーサに初めて会った部屋から見えましたね」

「そう、そこだ。そこに降りてくれ。間違っても城にぶつかって壊したりしないでくれよな」

場所を確認したハルカは、ナギに声をかけながら降りる場所を調整する。見えるところまできて、場所を示してやれば、勝手に降りてくれるから楽なものだ。

「その、ナギはここで大人しくしてられるのか? 離れたら暴れるようなことは?」

「ない……、はずですよ」

「断言してくれよ、怖いだろ」

ハルカの曖昧な返答にリルが額を押さえる。

「僕がここで待ってるよ。別にそんなに大勢で謁見しに行く必要もないでしょ」

「ああ、そりゃ助かる。別に何かを疑ってるわけじゃないが、必要最低限の人数の方がいいな」

「じゃあ俺とユーリも留守番だな」

ユーリは目を大きく見開いたが、すぐにちょっとだけ肩を落としてアルベルトの横に並ぶ。アルベルトは笑ってユーリを抱き上げた。

「いいじゃねぇか、王様なんか会ったって多分面白くねぇぞ。ここで適当な武器でも探して一緒に訓練しようぜ」

「ん、する」

アルベルトの無礼な発言を聞き流したリルは、ハルカ達に確認する。

「んじゃ、行くのは三人だな」

首をぐるりと回し襟元のボタンを留め、リルが小さな声で何かを唱える。するとハルカのこめかみにまたむず痒さのようなものが一瞬走った。

「顏、変わったです」

「ホント不思議だよね」

ハルカの目にはそのままのリルが映っているが、先ほどとは違うきりっとした表情と軍服を見ると、それなりの軍人のようにも見える。わざわざ魔法で顔を変えてくる必要もない気がしたが、これも諜報員として必要なことなのかもしれない。

素顔が割れないように暮らしているのだとすれば、ハルカたちにそれを見せているのは、女王サイドの信用とも取れるだろう。もちろん、ばれてしまったから仕方がないという側面もあるのだろうけれど。

城の裏口から中へ入り、以前案内された応接室に通される。

モンタナが床に、コリンがソファに座る。

ハルカが窓から外を見ると、訓練場でナギが辺りを見まわしているのが見えた。

「しばらくしたら陛下がいらっしゃる。失礼のないようにしてくれよな」

「はい、気を付けます。そういえば、今日は陛下のお部屋じゃなくこちらなんですね」

リルはハルカの言葉に「おいおい」といって頭をかいた。

「男で軍人姿をしている俺が、陛下の私室に入ったら大問題になるだろうが。大丈夫かよ、ホントに」

「あ」

ハルカは小さな声を上げると、気まずい雰囲気のまま、訓練場へまた目を落とした。