軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

もう一回

しばらくして、ハルカは仲間たちに断りを入れて席を立ち、サラの部屋へと向かう。この問題を解決するために最も重要なのは、本人の意志だ。わかっていても、訪ねずにはいられなかった。

扉の前に立ってノックする姿勢を取り、ゆっくりと深呼吸をする。

ハルカ自身、かなり心をかき乱されていて、果たして自分が冷静であるのかわからなくなっていた。それでも部屋までやってきたのは、子供の頃に抱いたどうにもならない閉塞感を思い出したからだ。

何とかしたい。それなのに進む道全てが行き止まりになっているような、そんな感覚。目をつぶり、耳を塞いで元の場所で座り込むしかない。

先ほどのコーディの話を飲み込むくらいの時間は必要かもしれないけれど、それ以上は一人でいても辛くなるだけだろう。

ハルカはドアを叩いて声をかけた。

「サラさん、入ってもいいですか?」

「……どうぞ」

扉を開けると、サラは椅子の前に立ってハルカのことを待っていた。

「座って話しましょうか」

サラは部屋に椅子が一つしかないことを確認して、ベッドに腰を下ろした。代わりにハルカが空いた椅子に座る。

何から切り出すべきか考えていると、サラの方から先に声をかけられる。

「ハルカさんは、ご両親と仲が良かったですか?」

「……悪くはなかったと思います。私も悪さをするタイプの子供ではありませんでしたし、豊かに生きていくだけの環境も与えられていました」

「ではどうして冒険者になったんでしょう?」

「…………私が冒険者になったのは、両親が亡くなってからですね」

「それは、ごめんなさい。エルフは長命だと聞いていたので、てっきりご存命だと……」

「いえ、随分前のことですから」

考えてみるとこの世界に来たことが、もうずいぶん前のことのように思える。丸々二年と少しいただけなのに、元の世界の生活とは密度が違いすぎた。元の世界の年齢を考えると、そろそろアラフィフだ。

「……私、やっぱりハルカさん達に連れていってもらったほうがいいんじゃないかなって。そうしたら、コーディさんの役には立てるじゃないですか。コリンさんも、私がいたら助かるって言ってくれたし、夢で見た光景の時、そこに居ることもできます」

サラの両親は四十にもなっていないように見えた。いくつになったから間違えないというわけではないが、まだまだ学ぶことの多い年齢であるようにも思う。誰も不幸にならない方法はないのだろうか。

少なくともサラを黙って連れ去ることは、その方法ではないように思えた。

「サラさん。私はあなたを連れていくことに反対はしません。でももう一度考えてみましょう。ご両親に気持ちを分かってもらえないまま、未練なく冒険者になれますか? 今黙って家を出たら、すぐには顔を出せませんよ」

「それは、頑張ります。迷惑はかけません」

「……例え話をしましょう。あなたが立派な冒険者になって、ほとぼりも冷めただろうと両親の顔を見に行きます。少し年を取って、今なら勇気を出して話し合い、理解し合えるかもしれないと思えたとします。その時、あなたの両親がご健在かはわかりませんよ」

「え……」

「二度とご両親と言葉を交わせなくなるかもしれません。今のまま私達と一緒に来て、あなたは後悔しませんか?」

返事はすぐに戻ってこなかったけれど、段々と悪くなっていく顔色をみて、ハルカは言っていることが伝わったのだと判断した。

ぽろりとサラの目から涙がこぼれ、ハルカの心が痛む。

十代前半の女の子を泣かす犯罪者めと、自分の中の良心に責め立てられる。

それでもハルカは感情を表に出さず、じっとサラの答えを待った。自分が申し訳なさそうにしたり、発言を翻してしまうのは違う。間違ったことを伝えたわけではないのだ。

自分の考えを正直に伝えるのは辛いことだ。そのこともハルカは今思い出していた。

心の痛む空間にしばらく耐えていると、小さな声が発せられる。

「やっぱり、もう一度話をします。もう一度、一緒に来てもらえませんか?」

「……はい、構いませんよ。有能な新人候補ですからね、手を貸すくらい訳ないでしょう」

鼻をすすりなら目を擦るサラに、ハルカは立ち上がってハンカチを差し出した。

なかなか泣き止まないので、慰めるつもりで頭を撫でてやると、そのまま腰に抱き着かれる。

元の世界だったら捕まっているかもしれないけれど、今は女性だから許される。ハルカは久しぶりに自分に言い訳をしながら、サラが泣き止むまで優しく頭を撫でてやるのだった。

「で、晩御飯を作って待つって提案は良かったわ。でもサラ、あなた料理できなかったのね」

「ごめんなさいごめんなさい! 小さなときにちょっとだけ手伝ったんですけど、最近は料理することもなくてっ」

場所は変わってサラの家。

コリンの呆れたような言葉に、サラがぺこぺこと頭を下げる。

料理をできなかった理由も察しているコリンは、気まずそうに顔を逸らした。

「う、ま、まぁ、ご両親忙しかったものね。じゃあ、その野菜だけ切っておいて。ハルカはお鍋たまにかき回してね」

「わかりました」

「俺は?」

やる気はあるようで、アルベルトは自分のことを指さす。モンタナは自分の仕事ではないとばかりに、ぼーっとしているので、やる気があるだけ偉いと言えるかもしれない。

「モン君とアルは……、なんか、えーっと、その辺で遊んでたら?」

「……そうかよ、どうせ俺は料理できねぇよ。モンタナ、外出かけようぜ」

「早起きしたので寝てるです」

「んだよ。一人でどっか見てくるか」

「あ、喧嘩とかしちゃだめだからねー」

「わーかってるっての!」

乱暴にドアを開けて出ていったアルベルトを、ハルカは振り返って見送る。イライラしていたし、すぐにどこかで喧嘩になるんじゃないか心配だった。

アルベルトとすれ違うようにして、買い出しに行っていたイースが戻ってきた。

「なんか、頼んでないものまであるんだけどー?」

「うん。なんか店のおばさんがおまけでくれたんだよね。なんでだろう」

「……あ、そっかー、顔かー」

コリンが小さな声で呟いて、それにハルカは同意して頷いた。

「そんなことより、アルが機嫌悪そうに出ていったけど?」

「やることないから遊んでたらって追い出したの。うろうろされて邪魔だったから」

「あ、そう。じゃ、僕もそっちに行くね。放っておくと喧嘩しそうだったから」

「すみません、よろしくお願いします」

「うん、いいよ。料理は僕もあまり役に立たないから」

アルベルトとは対照的に、静かにドアを開けて出ていくイーストンは、まるでパーティの保護者だ。半分人ではないはずのイーストンが一番常識的というのは、随分とおかしな話だった。