軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それぞれの立場

ハルカがサラの姿に気を取られている間、残りの四人は、門柱に寄りかかる一人の男に意識を割いていた。

本人の名乗りを信じるのならば、帝国将校のムバラクという男だ。威圧感のある大男で、人相も良くはない。門をくぐる人たちが避けて通るので、悪目立ちしていた。

こんな男が狭い場所に立っていれば誰だって警戒する。たまにその使い込まれたサーベルに視線を向けるものがいると、じろりと威嚇していた。風紀を著しく乱しているので、警備員辺りが現れそうなものだが、今のところ誰何する様子はない。

すぐそばに数人の警備員がいるのを見ると、あるいは既にそれが終わった後なのかもしれなかった。

「どうするですかね」

「そうですねぇ、どうしましょう」

モンタナとハルカは互いに別の問題で悩んでいたのだけれど、出てきた言葉は一緒だった。

門に向かって流れていく人たちの中で立ち止まっていてはどうにも目立つ。サラとムバラクがハルカ達に気がついたのはほぼ同時だった。

人混みを縫うように駆け寄ってくるサラと、人の波を割きながら歩いてくるムバラク。距離は後者の方が遠かったが、ハルカ達の下にたどり着いたのはほぼ同時だった。

「ハルカさん! 待ってました、準備は万端です、さぁ、連れていってください!」

ムバラクが不敵に笑って口を開こうとした瞬間、大きなリュックサックが目の前に割り込んできて、ハルカの手を取ってぶんぶんと振り回した。

「あ、ええ、はい、その、サラさんは変わらずお元気そうで何よりですが」

「はい! 元気です!! いっぱい勉強して頑張って、学園に入りました! 障壁関係の書籍は多分ぜぇんぶ読んだので、今すぐにでも行けます。連れていってくださいお願いします」

「いやあの、ちょっと冷静になって……」

「なんだこの子供は」

ムバラクが、丈夫そうなリュックを掴んで、サラを片手で持ち上げる。

「何をするんですか! おじさん、放してください!」

サラが怖がらずに手足をばたつかせているおかげで、警備員も割って入っていいのかが分からないようで、複雑な顔をしている。

おじさんと呼ばれたムバラクが、笑顔を引き攣らせながら、サラを横に避けてそっと地面に下ろす。

「お兄さんは、こいつらに大事な話があるんだ、ちょっとどいててくれ」

「嫌です! 私も大事な話があるんです。この日のために一生懸命頑張ってきたんですから、おじさんこそどいてください!」

こんなやんちゃな子だっただろうかと、ハルカは首を傾げる。もっと大人しくて、委員長タイプのいい子だったような気がしていた。確かに共に旅へ出ることに強い執着心を持ってはいたが、聞き分けのいい子だったはずだ。

「子供だからって許されることとそうじゃないことがある。どけ」

「私は今朝からずっと準備していたんです。いえ、一年前のあの日から、ずーっと準備してきたんです。だから譲れません」

「あのさ」

おたおたしているハルカに代わり、イーストンが仲裁に入る。

「他の場所に移ろうよ。僕、あまり目立つの好きじゃないんだよね」

「……ちっ。勝手に場を仕切るのはやめろ。仕方がない、場所を移してやる」

「勝手に待ってたくせに偉そうにしてんじゃねぇよ」

誰かが止める隙もなく、我慢できなくなったアルベルトが、ムバラクを睨みつけた。たとえ間に合ったとしても、止めようとするのはハルカぐらいだっただろうけれど。

「……冒険者ごときが、口の利き方を知らないようだな」

「軍人ごときが余所にきて偉そうにしてんじゃねぇぞ。威張りたいならさっさと国に帰れ」

無言でサーベルの柄に手をかけたムバラクに合わせて、アルベルトも剣に手をかけた。

「アル。やめましょう」

「ハルカ、舐められてるぞ。冒険者は舐められたらいけねぇだろ」

「どうしても我慢できないのならば、せめて場所を移しましょうって話ですよ」

「仕方ねぇなぁ」

「そちらが納得しても、こちらはそうはいかん。これだけの人がいる場所で侮辱をされて、黙ってそうですかということが聞けると思うか?」

アルベルトが噛みつこうとしたところを、腕を引いて宥める。どうも血の気が多すぎる。

「先に冒険者ごとき、って言ったのはそっちです」

抑揚のない声が隣から聞こえてくる。モンタナだった。

アルベルト程ではないにしても、実はモンタナも結構頑固な性格をしているのを忘れていた。ムバラクの態度に腹を据えかねていたのかもしれない。

コリンもそれを忘れていたらしく、額を押さえて「あー」と声を出していた。イーストンはもう諦め顔だ。

いよいよ一触即発の雰囲気になったところで、緊張していた警備員がほっとしたように声を上げた。

「学園長!」

振り返ると校舎の方から白髭を長く長くのばした、いかにも魔法使いらしい老人が歩いてくる。眉もすっかり伸び、皮膚がたるみ、表情もよく見えないようなその老人は、顎髭をしごきながら近づいてくる。

「……争い事かね?」

ハルカ達は面識がなかったが、ムバラクは違うらしい。苦々しい顔をして学園長を見上げた。

そう、この老人、異様に背が高いのだ。百九十センチ近くあるムバラクが見上げるほどの老人は、右眉だけを上げて当事者たちを順番に見回した。

「中々、面白そうな面々じゃが、こんなところで争い事はいかんな。ついてきなさい」

場の雰囲気を一瞬にしてかっさらったこの老人は、誰の返事も聞かずに振り返って歩き出した。大柄なせいで歩幅が非常に広く、ゆっくり動いているように見えるのに、やたらと歩くのが速い。

サラとモンタナなんかは、ほぼ小走りみたいな状態だ。

ムバラクは忌々し気にアルベルト達を睨みつけていたが、移動中に手を出す気はなさそうだった。

一先ずの戦闘回避にハルカはほっとした。

人生経験豊かそうな老人のことだからきっとこの場を丸く収めてくれるだろうという期待があった。