軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変化のあるなし

「……いや、は? お前女になったの?」

アルベルトが首を大きく傾げて尋ねると、テオが馬鹿にしたように笑う。

「男が女になるわけねーじゃん。俺は元から女だよ、ばーか」

おじさんが美女になることもあるんだよ、とハルカは心の中で思っていたが、話は勝手に進んでいく。

「とにかく、レオなら後で来るから馬鹿みたいな顔してないでちゃんとついてこいって」

テオは振り返りズンズン先に進んでいくので、アルベルトもポカンとしたままそれに続く。他の面々も驚いてはいたが、アルベルトの反応があまりに顕著だったのでやや冷静だ。

テオの身長はほんの少し伸びていたが、前回出会った時とさほど変わっていない。代わりに体全体の角が取れて、確かに少し女性らしい体つきになっていた。

空いたテーブルに着くと、テオは椅子の背もたれに腕を引っ掛けて、斜めに座り、ハルカたちが座るのを待つ。態度が悪いが、テオらしいといえばらしい。

全員が座ったのを確認して、テオは口を開いた。

「んで、知らない奴いるけど、そいつ誰だよ」

「イースだよ。ハルカさん達の友人だね」

「ふーん、俺はテオドラ。お前も冒険者なの?」

「僕は旅人かな。冒険者の登録はしてないよ」

「変なやつ。旅するのに身分がないと不便だろ」

テオ、改めテオドラはつい一年前とはすっかり様変わりして、知らない人とも積極的に話すようになっている。

やはり子供の成長というのは著しいものだ。

「テオドラって言うのが本名なんですねぇ」

「そう。それで僕がレオンね」

ハルカがボソリと呟くと、後ろから返事が戻ってくる。振り返ると、随分と背の伸びたレオが、ニコニコしながら立っていた。

「久しぶりです、ハルカさん、モンタナ。それとおまけのお二人さん」

「あんた、嫌味に磨きがかかってない?」

「冗談です。アルにコリン、二人もお元気そうですね」

「レオ、もしかしてお前も女?」

挨拶を無視して尋ねるアルベルトに、レオンは目元を引き攣らせながら笑顔で応える。

「この人全然成長してないんですけど。僕が女の子に見えますか? そんなに可愛いですか?」

「いや、ズボン履いてるし男だな」

「お前ほんと馬鹿だな! 服装でしか男か女かわかんねーのかよ!」

ケラケラと笑うテオドラと、呆れるレオンは対照的だ。以前から、どちらかといえばテオドラはアルベルトと、レオンはハルカと相性が良かった。それは変わっていないらしい。

レオンが椅子を引きながら、話を受け継ぐ。

「今朝みなさんが来るって聞いて驚きました。冒険者なんていつ出会えるかわかりませんし。わざわざ僕達に会いに来てくれた、わけじゃないですよね?」

「こっちに来る用事があったですから」

「そうですか」

「でもせっかく来たから会いたいとは思ってたですよ」

「……モンタナは僕達を喜ばすのがうまいよね」

「嘘はついてないです」

「わかってるよ」

柔らかく微笑んだレオンに対して、テオドラは楽しそうにモンタナの頭に手を伸ばす。モンタナは素早く体を傾けてそれを避けたが、それでもテオドラは楽しそうだ。

「モンタナは前とあんま変わんねーな。俺より小さいままで安心した。アルはにょきにょきデカくなっててキモいんだよな」

「……そろそろテオも、もうちょっと気を使うってこと覚えた方がいいよ。それじゃそこのにょきにょきデカくなってる人と変わんないよ」

「げ、まじ?」

「……おい。なんか今俺のこと馬鹿にしただろ」

「おう」

「してないよ」

「どっちだよ!」

双子から出てくる答えは反対だったが、タイミングは一緒だった。ひとしきり笑った後、レオンが真面目な顔をして尋ねる。

「それで、なんで会いにきてくれたの? 本当は何か用事があったりしない? 何かあるなら協力するけど」

「別に無いわよ?」

「……え、本当に?」

「ええ、せっかく来たので友人の顔を見てから帰ろうかと思いまして」

レオンは目を瞬かせて「あ、そう」と言って目を逸らした。わずかに耳が赤くなっているのを見て、テオドラが揶揄うように続ける。

「だーから言ったじゃねーか。こいつら強いんだから、俺達に頼むようなことねーよ。ただ会いに来ただけだろって。レオは自意識過剰なんだよ」

「テオうるっさい」

「しょっちゅう話してるもんなレオ。ハルカとかモンタナが」

「テオ、怒るよ」

「へいへい。そんなことより話聞かせてくれよ。あのあとも冒険したんだろ。どこ行ってきたんだ?」

すっかり臍を曲げてしまったレオンは、まだまだ子供なのかもしれない。それでも耳をそば立てているのはわかるから、ハルカは笑ってテオドラの質問に答える。

「北方大陸中を巡ってきましたよ。アルはドットハルト公国の武闘祭にもでました」

「まじ? どうだった、勝った?」

「今でたら勝つ」

「へー、負けたのか、へー」

「今でたら勝つって言ってんだろ!」

「まぁまぁ、他にもあるので、話せることから順々に話していきましょうか」

ムキになっているアルベルトを宥めて、ハルカはこれまであったことを順に語っていく。これまでもいろんな人に話してきたから、最初の頃より語り口も少しこなれてきた。

テオドラが目を輝かせて聞いてくれるのが嬉しく、途中からはレオンも興味津々で話に耳を傾けていた。

午後の講義を全てサボった二人に、冒険の話を散々語って聞かせているうちに、すっかり日が暮れ始めていた。

「……そろそろお暇しないといけませんね」

「お、そうか。俺達は学園の寮に戻るから送ってはいけねーや。……またそのうち来てくれんの?」

「そうですね、この街に来た時には寄ることにしましょうか」

「そうか、そんでさー……、あー、ま、いっか」

「なんでしょう?」

「いいや、またそのうちで。今言うことじゃねーし」

「聞きますよ?」

「あー、もういいから、ほら帰れ帰れ。アル、せいぜいくたばるなよ!」

「誰がくたばるか」

「ハルカさんとモンタナも、体に気をつけて。イースさん、この人たちちょっと間抜けなので、ちゃんと見ておいてあげてくださいね」

「なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないのよ!」

コリンが言い返してもレオンはそっぽを向いて知らんぷりだ。イーストンは、困ったように微笑む。

「あぁ、うん、まぁね。気をつけておくね」

「イースさんまで! そんなふうに思ってたの!?」

「いや、うん、ちょっとだけね。ちょっとだけ」

いつも迷惑をかけているハルカとしては、反論はできなかった。ただ身を小さくして耳のカフスを弄るばかりである。

子供っぽいハルカ達一行を見送って、双子は並んで言葉を交わす。

「テオ、冒険者の仲間に入れてって言わなくて良かったの?」

「まだ実力不足っぽい気がした。こっちで学べることもっとちゃんと学んでからいく。レオこそ、あんなにハルカハルカ言ってたのに、本人前にしたら澄ました顔して」

「…………テオこそ、ハルカさんのおかげで、男のふりするのやめたって言ってないじゃん」

「うるせー、恥ずかしいんだよ」

「じゃあ僕も恥ずかしいから言わないで」

「わかったよ。あーあ、俺あの人無理だと思うけどなー。だってモテそうなのに全然意識してねーじゃん」

「なんでそんなのわかるの」

「女の勘」

「そんな一年ぽっちの女の勘なんて当てにならないね」

立ち去るレオンの後ろ姿に、テオドラは呟く。

「これは当たってっと思うんだけどなー。……そういやあいつら、今頃サラに会ってっかな?」

学園から出る門の脇。

いつか見たことのあるカタツムリシルエットを見つけて、ハルカは頭を抱えた。

少し伸びた髪と身長。大きな大きなリュックサック。

サラが鼻息荒くして門を通る人に目を光らせているのを見つけてしまった。