軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

底知れぬ

「あいつと一緒にいたなら障壁魔法とかは得意なのか?」

「はい、使えます」

「ふーん、じゃあ使ってみろよ。それ攻撃してみるから。絶対に破られないつもりで作れ」

一番装飾のない剣を抜いて、それで肩を叩きながらクダンが提案してくる。いきなり戦闘するぞ、とならなかったことにハルカはほっとしていた。

「何枚重ねてもいいんですか?」

「重ねてもいいし、分厚いのを作ってもいい。俺の剣の一振りで耐えられそうなのを作ればな」

ハルカは薄く硬い障壁をいくつも作り、それを目の前に並べていく。それがほぼ立方体になるまで重ねた。真竜の攻撃だって耐えうるだろう数の障壁だと思う。流石に重ねすぎただろうか。

ハルカが考えていると声をかけられる。

「それでいいのかよ?」

「ええ、これでいいです」

「展開速度は速かったな。それにこれだけ重ねられるだけでも十分か。魔法使いとしちゃ、これだけでも十分及第点かもな。ノクトみたいに自由に動かせるんだろ?」

「ええ、できます」

「じゃあ、動かして俺に斬られないようにしろ。魔法を使って邪魔してもいいぞ。少し待ってやる。それの位置を変えるなり、魔法の準備をするなり好きにしていいぞ」

別の魔法を並行して発動することを前提とした提案だったが、対魔法使いへの提案としてかなり配慮された内容だった。並行発動できないのであれば、障壁を逃がすことだけに集中してもいい。直接魔法使いへの攻撃をしてこないあたり、冒険者の中ではやはり常識的と言えるだろう。

「逃がす範囲は訓練所内だけにしろよ。攻撃の威力も、外に被害が出ない程度に抑えろ。迷惑だからな。高さは……、囲んでる壁を越えない程度にしろ。瞬間的に逃がすのは構わねぇけど、ずっと届かないところに置かれても面白くない」

ハルカが次々と魔法を空に浮かべるのを見ながら、クダンはルールを追加していく。訓練所内に所狭しと魔法を浮かべ、あちこちに障壁を張る。これだけやったらどんな人でもたどり着かないんじゃないかと思う。十分すぎるくらいに備えたつもりだ。

「時間制限を設けるか。始めてから六十秒、コリン、数えておけ」

「はーい」

「準備が良ければやるぞ。威力は抑えてもいいが、俺のことは戦闘不能にするくらいの気持ちで来い。そっちの攻撃からスタートしていいぞ」

ハルカは杖を片手に、一応戦う構えを取った。近くに来た時に攻撃をすることもあるかもしれないと思ったのだ。

「行きます」

クダンはふっと笑う。

「勝手に始めていいって言ってんだろ」

ハルカは挙動なしでクダンの背後に配置していた炎の矢を一斉に放った。それと同時に、クダンの頭付近に水球を生み出した。

一瞬チラリとファイアアローの位置を確認して視線を戻したとき、既にそこにクダンの姿はなかった。走り出したクダンは、進行の邪魔になる魔法に剣を振るって、それを真っ二つに切り裂いた。

クダンに斬られた魔法は不思議なことにその場でかき消える。

配置された障壁が冗談のように次々と消されていき、ほんの少しの時間も稼げていない。慌てて爆発する炎の球をクダンの近くに配置するも、それが爆発をする挙動を見せた瞬間、クダンの腕がぶれ、消えて無くなる。

ハルカには、クダンが振り切った剣の位置しか確認することができない。

方針転換をして、クダンの進む先で爆発を起こし、土煙を巻き上げた。

視界を塞いでまずは最初に作った障壁を逃がす必要がある。このままだとあと数秒でたどり着かれてしまいそうだった。あれだけ重ねていれば破れないんじゃないかと思っていた障壁の束が、今では随分頼りなく思えた。

耳にコリンが数字を数える声が聞こえる。

「しーち、はーち……」

あと五十秒。

絶望的に長い時間に思えた。

質量のあるものではどうかと思い、障壁を移動させるのと同時に、鉄の塊をいくつも地面に落とし壁を作る。土煙で視界を妨げられて、壁で周りも見えない。流石に時間が稼げるだろうと思いつつも、壁の中にいくつかの炎の球を生み出し、すぐに爆発させる。

大きな音がして、上空へ向けて風と熱が漏れる。

クダンの身の安全が不安になるくらいの威力だった。ハルカの身体が一瞬強張った直後、土埃の舞う鉄の塊の上からクダンが飛び出す。

鉄に足跡を残したその跳躍で、クダンの身はそのまま障壁へと迫る。

ハルカは慌ててその間にいくつかの魔法や障壁を配置したが、それは全て空中にいるクダンに容易く斬り伏せられた。安定せず足場もない状態でそれだけ動いても、クダンの体幹はほんの少しもぶれない。

悪あがきに障壁を移動させたハルカだったが、着地したクダンが剣を一振り。

触れてすらいないはずのその一振りは、障壁をばっさりと綺麗に二つに切り裂いた。今までの魔法と違って消えるまでのタイムラグがほんの少し。

クダンは小さく舌打ちをして顔を顰め、それから剣をゆっくりとしまった。

「えっと、十四秒!」

コリンが告げる。別に負けたことが悔しいわけではないが、この結果が良いのか悪いのかが分からない。

ハルカは微妙な表情のままクダンの言葉を待った。

首をぐるりと回しながら戻ってきたクダンは、ハルカに向けて軽く笑う。

「結構かかったな。ま、十分特級冒険者クラスだ。戦い慣れてねぇけど素質だけなら見たことないレベルだな」

「あ、ありがとうございます」

「そんじゃあ残りのガキ共の実力も見てやるか。とりあえずお前ら二人で立ち合いしろ。その方が癖が出て悪いところもわかりやすいからな」

アルベルトとモンタナを順番に指さしてから、クダンは腕を組んで二人の立ち合いが始まるのを待った。