軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

安全な獣

「それでだ。この人がお前の推薦をしてくれると言っている。受ければこの場で特級冒険者になれる。正式には、俺の方から書類を作って受理されてからだけどな。ただしこれはお勧めしない。無理やり力試しに付き合わされることになる」

「語弊のある言い方すんじゃねぇ。推薦はしてやる。あと実力を見てみてぇって言ってんだよ。別の話だ」

「失礼。推薦を受けようが受けまいが、付き合わされるらしい。精々がんばってくれ。俺は書類を作るから、あとは好きにしろ。クダンさんももう出て行っていいですよ、どうぞお帰りください」

「言われなくても出てくぜ、この引きこもりが。おい、行くぞ」

すたすたと歩いてクダンはドアを開ける。後ろで座ったまま固まっているハルカ達に振り返り、怪訝な表情を浮かべた。

「何してんだよ、訓練場行くぞ」

「特級冒険者の特権とかは、あとで書面で渡す」

「あ、はい。……え?」

話を飲み込めていないハルカは、イーサンとクダンを交互に見てよろよろと立ち上がる。

「……なぁ、なぁなぁなぁなぁ、クダンさん、俺も訓練してもらえねぇかな!」

その横で目を輝かせていたアルベルトが勢い良く立ち上がり、クダンの方へ走っていく。

「暇だからいいぜ。お前闘技大会出てたやつだろ。随分鍛えたな」

アルベルトはぐっと拳を握って体を震わせた。憧れの物語のヒーローにそんなことを言われて歓喜しない少年はいない。

一方でハルカは不安で仕方がなかった。

【首狩り狼】

話してみればそれほど恐ろしくない相手のようにも思えるが、この二つ名を知っているとどうしても不安になる。癖のある特級冒険者の中で、一般人が名前を知っているような超大物だ。

仲間たちはどうなのだろうと見てみると、レジーナが珍しく体を強張らせていることが分かった。そう言えばここに来てからずっと静かで大人しい。ただその視線は、瞬きすら忘れたようにずっとクダンの背中に釘付けになっていた。自分よりもよほど緊張しているように見える。

ハルカは肩の力を抜いて、レジーナの隣に並んだ。

「大丈夫ですか?」

「……うるせぇ」

絞り出した声は僅かに掠れていた。そういえばレジーナは闘技大会で一度クダンに完敗している。観客席から飛び降りてきて、剣すら抜いていなかったクダンにだ。

「……普通に話していれば、怖い人ではないですよ」

ハルカがそう言うと、レジーナは立ち位置を変えて、ハルカの後ろに並んだ。彼女は特に何も言わなかったが、完全に盾にされている。

元々成人男性は苦手なようだし仕方がないとも思うが、クダンが本気で動き出したらきっとハルカ一人いたところで、避けてからやられるのが落ちだとも思う。本人がそれで安心するのなら別に構わないのだが。

自分より怖がっている人がいると、というやつでハルカの気持ちにはだいぶ余裕が出てきた。訓練場に向かいながらクダンに話しかける。

「突然なぜこんなことを?」

「突然じゃねぇよ。最初に見たときから変な奴だと思ってたから、試してみたくなった」

「その、どうやって見せたらいいんです?」

「好きに攻撃してこいよ、どんなもんか見てみたい」

ぐるぐると腕を回すクダンは楽しそうだ。微笑む顔自体は肉食獣のように凶悪だったが、そこには無邪気な子供のような気持ちが混ざっているように見えた。ワクワクしている時のアルベルトに少し似ている気がする。

「そういえば、ノクトのやつは無事届けたかよ」

「ええ、ちゃんと国元まで送りました」

「書類が山のように溜まってただろ。どうせまたサボって逃げてくるんだろうな」

「書類仕事でしたら、私たちが滞在してる間に概ね終わらせてましたよ。確かにしばらくしたらこちらに来るとは言っていましたが」

「へぇ……、あいつが? なんだ、変わったな。師匠になってちょっとは成長したのか?」

ノクトと対等の目線で話す人が珍しくて、なんだか面白い。長年の友人というのはこういうものなのかもしれない。

「そういえば、クダンさんはなぜこの街に?」

「……勘だな。そろそろ東の方でトラブルが起きるんじゃねぇかなぁと。そしたら案の定騒ぎになってた。ま、お前らがなんとかするって言ってたから、俺はここでくつろいでたんだけどな」

「助けに来てくれても良かったのに」

コリンがふざけて言うと、クダンは鼻を鳴らして笑う。

「質問娘……、コリンだったか。手柄を横取りする趣味はねぇよ。なんとかなると思って臨んだんだろ?」

「それはそうですけどー」

「結果が出てよかったじゃねぇか」

「……僕も、訓練してほしいです」

今まで静かに経過を見守っていたモンタナが、声を発すると、クダンが頭をかいた。

「俺が言うのもなんだが、お前ら勇気があるよな。俺のこと知ってて訓練つけろなんて言うやつ殆どいねぇぞ。……それくらいの方が伸びしろはあるけどな」

そうこう話をしているうちに訓練場の入口にたどり着く。珍しく今日は冒険者たちの声も、武器をぶつかり合わせる声も聞こえてこない。訓練場に入ってみると、中は無人だった。

「貸し切っといた。実力のある魔法使いの攻撃は派手だからな」

話がどう転んでもきっとハルカの実力を見るつもりだったのだろう。クダンのにやりと笑う顔が、段々とまた凶悪なものに見えてきたハルカだった。