軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

一城の主

ハルカは気持ちを切り替えて、兵士たちについていく。実は立ち直るまでに少し時間がかかったため、もう城の目の前まできていた。隣ではアルベルトが不機嫌そうに干し肉を噛みちぎっている。

デルマン侯爵の住まいは、今まで見てきたような屋敷とは違って、水を通した堀と、はね橋がついており、高い塀に囲まれていた。背面は切り立った崖になっており、そちらから大人数を送り込むのは難しそうだ。

あちこちに塔が立っており、そこに兵士が数人ずついるのがわかる。

戦争をしているわけでもないというのに、しっかり士気を保っているのが不思議だった。誰もサボっているような様子がない。

門をくぐり、長い敷地を歩いて、ようやく屋根の下へはいる。そしてそこからまた赤絨毯がしかれた長い廊下を、兵士に続いて歩いていく。

「まるで王城だね」

イーストンが一番後ろで呟くと、ノクトがそれに答える。

「実際この辺りの地域では、侯爵家が王様みたいなものですからねぇ」

「王国の貴族というのは、結構独立心が強いんですか?」

ハルカが尋ねると、ノクトは指をフリフリ考えながら答えてくれる。

「そうですねぇ、北東の辺境伯領、ここエレクトラム、それに南東の公爵領あたりは多分そんな雰囲気あるんじゃないでしょうか?北西から中央にかけては女王派が多いと思いますよぉ」

「なるほど、そうするとやっぱり王都の方に行くまでは、あまり気が抜けない旅になるんですね」

「そういうことですねぇ」

後方でお勉強会をしていると、大きな扉の前で兵士が足を止めた。ちなみに、アルベルトは相変わらず不機嫌に干し肉をかじっている。態度が悪いことを誰も注意しないのは、何かを言うと、それこそ自分に噛みついてきそうな顔をしているからだろう。

兵士が扉を開けると、天井の高い広間が現れる。

絨毯の左右に兵が並び、その奥の一段高い場所には豪奢な椅子が置かれ、でっぷりとした壮年の男性が、もたれるように腰かけていた。

そのすぐ横には、オールバックの白髪を後ろで一つ結びにした初老の男性が立っている。左目にモノクルをひっかけており、その双眸には深い知性が感じられた。

扉を開けた兵士に、進むように促されて、兵士の間を歩いていく。囲まれる形になるのが、なんだか気色悪かったが、相手が身分のある立場だと思えば仕方がない。武器を取り上げられなかっただけでも、十分に配慮されているような気はする。

前から三人目の兵士が、長い槍をハルカ達の行く先で交差させた。ここで止まれということだろう。

アルベルトも流石に干し肉をかじるのはやめていたが、左右にいる兵士を値踏みするように睨みつけているので、態度が悪いことには変わりなかった。モンタナやコリン、それにイーストンも、あからさまではないにしても兵士たちの様子は観察している。

こういうところが、自分と他のみんなの違いなのだろうと思いながら、ハルカも視線だけ動かして、周りにいる兵士たちの様子を見た。

練度は高そうだ。引き締まった体をしている。

だからと言って、威圧感を覚えるほどかと言うと、そうでもない。

人数がいるので、嫌な圧迫感はあるが、気圧されるというほどでもなかった。

ただ正直に言ってしまえば、ハルカにはやっぱりどれくらい強いのか、なんていうのは理解できなかった。

おそらく、多分、一人一人を見れば仲間たちの方が強い。

では集団になったらどうか。そうなるともうさっぱりだった。

椅子に座った男、おそらくデルマン侯爵が、横にいる男に尋ねる。

「ジル、どうだ?」

「無理です」

「無理か」

「絶対無理です。なんとかしろと言うのなら、今すぐ辞めます」

「では諦める」

何の話かは分からないが、ツンとした態度を崩さないジルという男性は、雇用関係にはあれど、侯爵直属の部下ではないようだった。短い言葉でのやり取りの後、デルマン侯爵は気だるそうにハルカたちに向けて口を開いた。

「私がデルマンだ。ここエレクトラムの領主をしている。貴様ら、先日は人の街で随分暴れてくれたな。ただし結果的にこちらの手間が省けたので、罪については不問とする。これは確認だが、一番後ろにいるのは、特級冒険者、ノクト=メイトランド殿で相違ないな?」

「間違いありませんよぉ」

「如何なる目的で我が領へ立ち入った」

「ただの旅の途中ですが?」

「本当にそれだけか?」

「少なくともこの場で、この人数がいる中で話せることはそれだけですねぇ」

デルマンはピクリと口の端を痙攣させて、兵士たちに追い払うように手を振った。

「出ろ。扉には誰も近づけるな」

「よろしいのでしょうか?」

「どうせお前らがいたところで、ジル一人の実力にも及ばん。私が出ろと言ったらさっさと失せろ」

「はっ、失礼いたしました!」

駆け足で兵士が消えていくと、広間ががらんとする。

「これで満足か、血塗れの」

「僕は人払いしてほしいなんて言ってませんよ?」

「お前みたいな悪名高い冒険者が、目的もなく街に現れるものか」

「王国の為に少なからず助力してきたつもりですけどねぇ」

「散々混乱させた挙句、気に入った王と王女に肩入れしただけだろうが」

「おやぁ、ところで横に立っているのはぁ、僕に対するけん制のつもりですかぁ? 今回僕は一人ではないんですよねぇ」

「ノクト殿、私は戦いになったら撤退させていただくことを約束します」

「おい、高い金を払っているんだ、はじまる前に降参するのはやめろ」

「命あっての物種です。一対一ならともかく、他にも数えても良いレベルの手練れがいるというのは、契約違反です」

大人三人の繰り広げる会話に、ハルカ達は何一つついていけていなかった。

兵士が撤退したあたりからずっと置いてけぼりだ。

てっきり、今回の件について何か話があるのだとばかり思っていたら、そうではなさそうに聞こえる。

ハルカが首をかしげて悩んでいる中、アルベルトは自分が蚊帳の外にいることだけはわかったようで、干し肉を取り出してまた噛み始めていた。