軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

楽しみ……

「たっだいまー、いやー楽しかったぁ」

ご機嫌なコリンが帰ってきたが、手には何も持っていない。アルベルトも特に何か買ったわけでもなさそうだ。

「買い物はしなかったんですか?」

「見て回るだけで面白かったよ。それに荷物増やしても仕方ないし、無くて困るものもないから。ハルカとモン君は欲しいものとかないの?」

「私は……、特にないですね。旅で困ることもありませんでしたし」

「僕もないです」

「それじゃあいっか、節約節約。あ、あとご飯の美味しそうな店も探してきたの! 明日皆で行きましょ。なんかねー、薄い生地をいっぱい重ねたパリッパリでバターの香りたっぷりなパンと、お酒で煮込んだシチューが美味しいんだって!」

薄い生地、ぱりぱり、バターと想像をして、ハルカは元の世界にあるパンの一つを思い浮かべた。クロワッサンだ、ぜひ食べてみたい。

「ぜひぜひ行きましょう。焼きたての時間とかわかりますか?」

身を乗り出して喜ぶハルカに、コリンは笑った。

「わかるわかる、店が開く頃に行けばちょうどいいから、一緒に行こうねー」

ハルカが一番乗り気で動くのが、美味しい食べ物の話をしたときだ。こんな風に話に乗ってもらえると、コリンも調べてきたかいがあったというものだ。子供っぽく目を輝かせるハルカを、コリンはかわいいと思っていた。

「ぱりぱりのパンかぁ……。あ、アルは何も買わなかったんです?」

「武器屋一通り見た後は、じじい達と一緒にずっと日陰で休んでた。こいつ買い物長いんだよ、買わないくせに」

「一応便利なものがあれば買う気でいるの! ピンと来るものがなかっただけで。ユーリだってお買い物楽しかったよねー?」

「たのしかった」

そう言ったユーリの手には、ぎゅっとリボンが一本握られていた。ハルカと目が合ったユーリは、その深い青色のリボンを、腕を目いっぱい伸ばして差し出した。

「ママ、あげる」

「私にですか……?」

「うん」

ハルカの長い髪は腰より下まで伸びている。動いてもすぐに元に戻ってくれるので、あまり気にしたことはなかったが、確かにどこかで結ってみてもいいのかもしれない。

「ありがとうございます。えーっと……、私自分じゃできないんですが、コリン、結んでもらえますか?」

「いいよー、ユーリが選んだからねぇ、きっと似合うよ」

コリンが後ろに回って、髪をまとめると、根元できゅっと蝶々結びする。髪の毛が少し引っ張られるような気がするが、きゅっと気持ちが引き締まるような気もする。そして、ユーリにプレゼントしてもらえたものを身に着けていると思うと、心がじんわりと暖かくなった。

ユーリから見えるように横を向いて、笑って流し目を送る。

「似合いますか?」

「かわいい」

「そうですか、ありがとうございます」

かわいいと言ってもらえるのも、ユーリが相手なら、まぁ悪くはない。自分の髪を撫でながら、ハルカは優しく笑った。

翌日の朝、朝食をひかえたハルカは張り切っていた。

朝一番と言うのには少し遅い時間だったが、美味しいパンが食べられるというのだから、空腹を我慢する価値はある。お腹を減らして美味しいものを食べるのは、最高の贅沢なのだ。

「なぁ、俺腹減ったんだけど」

「まぁまぁ。今から行けばちょうど開店と一緒に中に入れますからね。もうちょっとの辛抱ですよ」

「ハルカさんって、こんなに張り切ることあるんですねぇ」

アルベルトが情けない顔でお腹を撫でて、ノクトが面白がって笑う。

ご機嫌なハルカはそんなことを気にせず、コリンを促して宿の外へ出た。

「さ、コリン、案内してください。イースさんも今日は一緒に行きましょう。ご飯を食べる間くらい、宿を留守にしても大丈夫ですよ」

そう言って出発しようとしたとき、後ろから声がかかった。

「先日の【獅子噛み】討伐に関与している冒険者というのは、あなた方でしょうか? その件でデルマン侯爵閣下がお呼びです。我々と共に屋敷へお越しください」

ハルカが動きをかちっととめ、振り返って悲しい顔をした。

「あのー……、食事の後ではいけませんか?」

「侯爵閣下は、あなた方の為に時間を空けております」

「……はい」

ハルカが覇気なく頷くと、横からアルベルトが肩をつつく。

「おい、ハルカ、俺腹減ったんだけど」

「ごめんなさい、非常食齧ってください……」

「まじかよ……、こいつらタイミング悪すぎだろ」

兵士たちは、油断ならない集団だと聞いて迎えに来たのに、様子が変だったので気が抜けてしまった。

お腹を撫でながらしょげているのが二人に、それを慰める残りのメンバー。ニコニコ笑っている獣人に、後ろで余所を見ながらついてきている青年。

警戒しなければいけなさそうのは後ろにいる二人くらいだ。

「あの……、侯爵閣下との面会って、会食しながらだったりしませんか?」

「……おそらく、そういったものではないかとおもいます」

またしゅんとしょげてしまった、褐色の美女を見て、兵士は心が痛くなった。とても兵長の一人が、決して油断をするなと、何度も言ってくるような相手には思えなかった。