軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

後始末

アルベルトは相手が地面に倒れてからも、しばらくの間警戒して剣を構えていたが、床に血だまりが大きく広がっていくのを見て、ようやく身体から力を抜いた。大きく息を吐いて、脱力したまま倒れた相手をじっと見つめる。

「強かったな」

「勝ったですけどね」

モンタナが、ひょいひょいと荒れた床や、倒れたエドガーを飛び越えてアルベルトの横に並ぶ。

「でも多分俺一人だったら負けてたぜ」

「真正面から殴り合うからです」

「……真正面から勝ちたかったんだよ」

拗ねたように言うアルベルトに、モンタナは振り返って笑った。まるで聞き分けのない弟に言い聞かすように、言う。

「勝気なのはいいですけど、あまり心配させないでほしいです」

「……もっと鍛える」

モンタナに続いて、アルベルトもハルカ達の方へ歩いてくる。

ハルカは倒れ伏した男にチラリと目を向ける。強かった。おそらく乱暴で、自分勝手な男だった。死んでいいほどの悪いやつだったかと言うと、それはやっぱりわからない。これから先どんな悪人が目の前で死ぬことがあっても、きっと自分はそう思うのだろうとわかった。

でもそれよりも、仲間たちが生きていてよかったというのが、ハルカの中に湧いた、一番大きな気持ちだった。

以前までのハルカだったら、仲間の無事を喜ぶよりも先に、人を死なせてしまったことに罪悪感を覚えたはずだ。今はそうではなくて、味方の心配を第一にできていることが嬉しかった。

元の世界であれば、誰かを死に追いやったことを悔やむべきだったかもしれないが、この世界の冒険者はそうではない。大切なものを守れたこと、自分の意志を貫き通したことを喜ぶべきなのだ。

それは地球にいた頃の考え方より原始的で、野蛮とも言えるものかもしれなかったが、今のハルカにとってはむしろ馴染みやすく、しっくりくる生き方だった。

ハルカは空中に水球を浮かせて、布を湿らせた。

アルベルトの怪我はもう塞がっているはずだが、流れた血が痛々しい。それを布で優しくふき取ってやろうとすると、アルベルトは黙ってされるがままになっていた。

アルベルトが吹き飛ばされたときは肝が冷えた。モンタナの言うことももっともだと思っていたハルカは、同じようにアルベルトへ苦言を呈す。

「アル、戦う時はもっと慎重にしてほしいですね。見ていて怖かったです」

「次はもっと気を付けるって。でもちょっと無理するぐらいじゃないと、勝負勘って育たねぇんだよ。どうしても危なくなったらハルカが助けてくれよな。それで邪魔されたなんて言わねぇから」

「わかりました、間に合うかわからないから、アルの方でも気を付けてください」

「心配しすぎなんだよ。大丈夫だって」

アルベルトが頭をがりがりとかいていると、外から言い争うような声が聞こえてきた。

モンタナが素早く走って、窓から外を覗いた。

「兵隊っぽい人がたくさん入ってきてるです。門で少し諍いがあったみたいですけど、すぐに中に入ってくるですよ」

門でのと言うのは、恐らくウェストたちが侵入を止めようとしてくれたのだろうと推測できる。

コリンがモンタナに声を投げかけた。

「こいつらの仲間!?」

「この街の正規兵と思うです」

「じゃあ敵じゃねーのか?」

「どうでしょう? 少なくともこの場に乗り込まれたら、色々と言い訳できる状況ではありませんが」

「じゃあ逃げるか?」

「どこからです?」

「……よし、戦うか!」

「そういうわけにもいかないでしょう。大人しく待って説明するしかないのでは? 依頼に成功すれば、罪に問われないようなんとかしてくれるという話ですし」

アルベルトは剣についた血をぬぐって、それを鞘にしまう。

何がそんなに気に食わないのか、やや不満そうな表情を浮かべて、屋敷の門の方を睨みつけた。

「なんかタイミングが計ったようでむかつくんだよなぁ」

ドアが開く音のあとに、どたどたとたくさんの人の足音が聞こえる。あわただしく階段を上る音がして、兵たちが姿を現す。

兵たちは、階段を上がってすぐのところに待機していたノクトたち四人を一瞥して、二人の兵だけをそこに残した。四人が黙ってもろ手を挙げたからだ。残りの兵たちはそのまま真っすぐに、廊下を進み近づいてくる。

兵たちは皆剣を抜いていたので、アルベルトとモンタナもいつでも動けるよう、剣を抜き身にする。

それを見た兵士たちも色めきだって、ハルカたちから少し離れた場所で足を止めた。広い家とはいえ、廊下で並んで戦えるのは精々二人だ。

向かい合って戦った場合、結局矢面に立つのは二人ずつだ。物を言うのは練度だろう。正規兵が相手とは言え、この布陣を容易に抜けるはずがない。

その上背後にはノクトとイーストンが待機している。人数を頼りにどかどかと入ってきたが、それが愚行であったことにようやく気付いたようだった。

「何者だ、やる気か!?」

「名乗りもせずにずかずか入ってきて言うことがそれか?」

先頭に立った男が口をへの字に曲げて、一瞬押し黙る。

ややあってから、鼻にしわを寄せて、これ見よがしに大声を出した。

「我々はここエレクトラムの守備隊である。街の治安を乱す者を捕らえるよう命じられて、ここに乗り込んだのだ。もし貴様らがこの家に住まう者の一味でないとするのであれば、早急に武器を収めよ」

「信用できないから嫌だ。でもあんたらが怖がらないように、壁の端に寄ってやるよ。それでいいだろ」

アルベルトの無礼な物言いに、兵士は今にも喚き散らしそうなほど顔を真っ赤にした。しかし、理性が残っていたのか、アルベルトたちが壁の方まで下がっていくのを、黙ってみていた。

ある程度の距離が空くのを見て、兵士は歩みを進め、そこで床に伏している男を足で乱暴にひっくり返した。アルベルトはその仕草をやはり気に食わなさそうに睨みつけていたが、お互いさまというものである。

兵士は、一枚の紙とその顔を見比べて鼻を鳴らして宣言した。

「【獅子噛み】エドガーで間違いない。後始末に移れ!」