軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

想定外(*流血描写あります)

エドガーの大剣はごてごてした装飾が一切なく、分厚く無骨だ。

壁を砕いても天井を裂いても、武器としての機能を一切損なうことなく鈍く輝いていた。

一足一刀の間合いで対峙する三人だったが、先に動いたのはエドガーだった。

豪快な横薙ぎが二人をまとめて薙ぎ払おうと、アルベルトの腰のあたりに迫る。こん棒を振るうような風切り音が耳に重く響く。

避けては間に合わないと判断したアルベルトは、自身の剣をその間に潜り込ませた。足にしっかり身体強化をいきわたらせ、その場で耐えきるつもりだった。

エドガーはそれを見て軌道をやや上方へ修正する。

剣がぶつかり合うと、火花と共に空間を裂くような金属音が鳴り、アルベルトの足が床から浮き上がった。

床に叩きつけられながら、転がったアルベルトの身体が、廊下に飾ってあった壺と台座に突っ込んで止まった。

それを見送ってにやにやしたエドガーの足元に、影が走る。

「身体強化を過信しすぎですっ」

いつもより素早く大きな声を上げたモンタナが、エドガーの足首の辺りを斬りつけた。直前までモンタナがいた場所に大剣が降ってきて、床を破壊する。

「くっそ、いてぇ」

エドガーの足首までを覆った靴は、モンタナの剣によって切り裂かれていたが、そこからの出血は見えない。それでも足は痛むのか、やや斬りつけられた方をかばいながらエドガーは壁を背にして、ハルカたちとモンタナの両方を視界に入れた。

「後ろに回られるとは、厄介な方が残ったな」

「……残った、ですか? あなたもアルのことを舐めすぎです」

モンタナが手元から手早く小さなナイフを投げる。意識していないところからの攻撃だったが、敏感にそれを察知したエドガーは、首をわずかに逸らしてそれを避けた。しかし、別方向から飛んできた何かが、エドガーの鼻先に掠り、一筋の血を流させた。

カチャンと音がして、飛来物が壁に当たり割れる。

その反対でも同じ音がして、頭から血を流したアルベルトが立ち上がっていた。

「目を狙ったのに外した、すまん」

袖でグイっと血をぬぐったアルベルトが、歩み寄りながらモンタナに謝る。

ハルカの前を通るときに、アルベルトは相手を見つめながら話しかける。

「治してもらえるか」

ハルカは黙って頭の傷を治す。

アルベルトは笑っていた。エドガーが最初にその顔に浮かべていたものと大差ない、獰猛な笑いだった。

「よっしゃ、やる。勝つぞ、見てろよ。近づくまで援護くれ」

ひょうっ、と音がして矢が放たれる。

ハルカもそれに続いて、次々とファイアアローを放つ。狙いは首より上、目くらましが目的だった。

その全てを大剣の平で叩き落としながら、エドガーは油断なく左右の剣士を睨みつけた。

単純に手数が足りない。空間が狭い。

見た目で油断したことをエドガーは後悔していた。

圧倒的な力で一人をねじ伏せれば、あとのやつはおびえてしり込みをすると思っていた。

魔法の弾幕に紛れるように、獣人の方の剣士が床をすべるように音もなく移動してきた。それと同時に、さっき一振りで飛ばしてやった剣士が、頭から血を流しながら大きな足音を立てながら走ってくる。

獣人の方の剣士は、足元を狙っているのが見え見えだった。

一度軽くそちらをけん制し、そちらの剣は身体強化して体で受ける。本命は背の高いほうの剣士だ。そちらを全力で斬り飛ばし、今度こそ息の根を止める。

まずは前衛の一人を落とさないことには、勝ち筋が薄すぎる。

大剣を床に這う獣人に向けて切り上げるように振る。

「この、ネズミが!!!」

手を抜いていることはばれないように、大きく声も上げた。

必ず避けてから攻撃してくるだろうと踏んで放った一撃であったが、驚いたことに獣人の剣士はその剣を上からたたいて迎え撃とうとしていた。先ほどより力がありそうなもう一人を吹き飛ばしてやったばかりだったのに、ふざけた対応だった。

それならばと、エドガーはそのまま思いきり剣を振り上げた。いくら身体強化が間に合わないとはいえ、こんな小さな体の剣士、持ち前の膂力だけで十分なはずだった。

獣人の少年の感情の見えない瞳と目が合った時、エドガーは妙な胸騒ぎを覚えた。

そんな単純なミスを、この剣士がするのだろうか。

小さな体を見て、自分はどこかこの剣士のことを見くびっていないか。

今までかすりもしなかった攻撃を、いきなり正面から受け止めようとする理由はなんだ。

それらすべてを、無理やりに抑え込むように、エドガーは叫んで、腕にさらなる力を込めた。

「おおおおぉおおぉおおお」

またも金属のぶつかり合う音がして、そして、エドガーは目を見開いた。

信じられないことに、全力を込めたはずの一撃は、獣人の剣士の短剣と交差し、そこで静止していた。

「身体強化していないのなら、僕でも止められるですよ」

その光景に頭を混乱させながらも、エドガーは腕に身体強化を巡らせ、無理やり剣を振り上げて、振り向きざまにもう一人の剣士に斬りつけようとした。

振り上げた拍子に手の中から大剣が抜けた。長年共にした相棒が宙を舞って、天井に当たったところで、胸に猛烈な熱さと痛みを感じた。

それが広がり、どくりどくりと、熱い部分のすべてが心臓になったような感触がして、そして、ぷつりと何も見えなくなった。

天地もわからなくなって、ただ遠くで相棒が廊下か、天井に落ちる音がして、そうして、そうして、ほんのわずかに声が聞こえた。

それは目が覚める直前に、遠くから聞こえてくる音のようだった。

「おせぇよ」

立たなければ、戦わなければ、まず最初にあいつを、いや、こいつを、誰を殺せば、どうしたら勝てる?

意識が混濁して訳が分からなくなる。

とにかく立たねば、戦わねば。

どくどくと何かが流れる音がする。エドガーの意識は暗くぬめりとした場所へと沈んでいき、二度と戻ることはなかった。