軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

まだわからない企み

デルマン侯爵領のエレクトラムは、幾重もの高い壁に囲まれている。

そうはいっても中で区域が分けられているわけではなくて、単純に街が拡張されていくにつれて、壁を増やしていったというだけの話だ。

都市計画がずさんだったとも言えるが、何度も壁を増やさなければいけないほどに街が発展し続けてきたともいえる。そう考えると歴代侯爵の優秀さがうかがえるというものだ。

少しの間列に並ぶと、簡単な審査だけで街の中に入れる。

街の中はとても賑やかで、プレイヌの街々の雰囲気に近いものを感じた。

「この街はいつの時代に来てもにぎやかですねぇ」

「何度か来たことがあるんですか?」

「ええ、知り合いもいるはずです。生きていればですが」

ノクトのセリフは一見物騒に聞こえるが、実際は寿命で死んでいなければという意味でしかない。長命のものならではの言い方だった。ハルカはふと、いつか自分もそんな風に言うことがあるんだろうかと思う。しかし、あまり面白い想像ができそうになかったので、すぐにそれをやめた。

年少の三人は街と人の多さに目をとられ、あちこちを眺めており、今にもふらふらとどこかへ行ってしまいそうだ。ハルカもおいしそうな匂いが漂ってきて、ふとそちらに目をやりそうになり、我慢する。

ユーリはどうだろうと見てみると、他の三人と同じようにベッドの中で立ち上がって街行く人々を眺めていた。夢中になってあちこちを見るユーリの横では、イーストンが微笑みながらそれを眺めている。

自分達よりよっぽどしっかり護衛をしてくれていて、ハルカは少し申し訳ない気持ちになった。

「ほら、皆さん、まずは宿を取りましょう。師匠、どこかよさそうな所はありますか?」

「どうでしょうねぇ、なにせここに来たのは、もう何十年か前ですから……」

首を捻って何かを思い出そうとしてるノクトを見て、イーストンが怪訝な顔をしてハルカによってきてそっと尋ねる。

「ノクトさんっていったい何歳なの?」

「正しくは知りませんが、百数十歳だそうですよ」

「……そんなに長生きする種族だったかな」

話をしていると、間に割り込むようにユーリが体を乗り出してきたので、慌ててハルカが抱き上げる。

「ユーリ、危ないですよ」

「ごめんなさい」

優しく注意すると、ユーリがギュッと抱き着いて素直に謝る。

仲間に入れてほしかったのかなと思ったハルカは、ユーリを抱っこしたまま、先を進むノクトの後に続いた。

「確かこっちに沢山宿屋があったようなぁ……?」

曖昧な記憶でしばらく歩きまわってみるが、いくら進んでも宿屋は見つからずに、半時ほどが経過してしまった。

おかげで町の雰囲気はなんとなくつかめてきたが、このまま見つからないでは困ってしまう。そろそろ街の人にでも聞いてみるかとハルカが思い始めた頃に、ノクトが「あ」と間抜けな声を出して振り返った。

「あのぉ、もしかしたら、もういっこ先の門をくぐったところかもぉ……です。壁が一つ増えてたみたいで、ふへへ」

誤魔化すように笑ったノクトは、今度こそと意気込んで街の案内を始める。

「じじいだからしょうがねーな」

アルベルトがここぞとばかりに後ろから放った心ない言葉に、ノクトは角を撫でさすりながら笑った。

壁を一つ通り抜けてみても、それほど代わり映えのない景色が続く。

それからさらに数分歩いて、ノクトがようやく足を止めた。

「この辺には見覚えがありますねぇ。酒場も多いですが、宿もたくさんありますよぉ。食事をする所も多いですしぃ、数日滞在するのにはいいんじゃないかなぁと」

「あそこなんていいんじゃない? 小奇麗だし、変な酔っ払いとかも来なさそう!」

「では、あそこにしましょうか」

コリンの指さした宿を見ると、年配の女性が入り口を掃いているのが見える。建物は少し年季を感じたが、汚れているようには見えないのが好印象だ。

先ほどコリンが変な酔っ払いと言っていたが、確かにこの街には昼間から路地裏に寝転がる酔っ払いが多い。強い酒が名産であることは前から聞いていたが、だからと言ってあんなふうに飲んだくれているのも考え物だ。

その点この宿の周りは、比較的上品な人たちが多く、地元の飲んだくれの姿は見当たらない。ノクトに任せて正解だったと言えるだろう。

宿へ入り、各々荷物を部屋においてロビーへ集まる。

男女で二部屋、ユーリは女性側に、イーストンは一人部屋を取った。

この宿では朝の軽食しか提供していないらしく、夕食は外でとることになった。

旅の客向けのこの辺りの店でも、夕食時には強い酒を勧められる。地元の名産だとは言われたが、あいにくハルカ達には禁酒令が出ている。もし飲めたとしても、ノクトとユーリの護衛があるから、気を抜いて酔っ払ってばかりいるわけにはいかない。

酒はともかく料理は美味しい。

芋類をホワイトソースで絡めた物や、肉汁たっぷりの腸詰肉を食べていると、少し元の世界のことを思い出した。いつか本場のヴルストを食べてみたいと思っていたが、もしかしたらそれはこんな味だったのかもしれない。

「ちょっといいですかぁ?」

ハルカが、今となってはもう確認できないその味に思いをはせていると、ノクトが全員に声をかける。

「えーっとですね、急ぐ旅ではないので、僕はこの街で古い知り合いに会いたいと思っているんです。用事もありますし、数日のんびりしてから出発することにしませんか?」

「俺は良いぜ、いろんな売り物が集まっててみてるだけでも面白いしな」

「私も色々見て回りたい!」

「僕も賛成です。タイミング見て出発すれば、ついてきてる人撒けるかもしれないですし」

ハルカとしても、初めて訪れた街をうろついて食べ歩いてみたいという気持ちがあった。ユーリにいろんな場所を見せてやるのも情操教育にいいだろう。情操教育というものが実際のところ何だかよくわかっていないながらも、そんなことを思う。一つ気になることがあればイーストンのことだ。

「イースさんはどうですか? 共に旅をしていますし、そちらの都合も聞かせてください」

「僕は……、別に君たちの予定に合わせるよ」

イーストンは一瞬チラリとノクトの方を見て考えて、そう答える。

イーストンにとってもハルカたちの旅は楽しいものだったし、街でのんびりするというのであれば、全体を見て回りたい気持ちもあった。

ただ、やっぱり少しノクトのことが気になる。何か企んでるのは間違いないのだが、イーストンにはその何かが分からなかった。

ハルカが師匠と呼んでいるから、そうなのだろうけど、護衛対象でもあるという。冒険者のルールにもそれほど詳しくないイーストンは、結局何も口出しせずに、チームの予定に同調した。