軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

順調

イーストンは少し離れた所で身体を横にして休んでいる。

ハルカは近くで休んでも別に構わないと思っていたが、本人がそうしたいならあえて止める必要もない。眠っているのか起きているのかわからないが、警戒するべき相手ではないので、そちらを気にするのはやめた。

今日のモンタナは珍しくぼーっと空を見上げている。表情は分かりにくいが、何かを悩んでいるわけではなさそうだ。偶にはそんな日もあるのだろう。

ハルカはそーっとユーリの顔を覗き込む。てっきり眠っているのかと思っていたのに目が合って驚いた。

ユーリはハルカの顔を見ると、段々と泣きそうな顔になってぎゅっと口を強くつぐんだ。年齢を考えれば、よく見るはずの表情であったが、ユーリにしては珍しい。どうしたのだろうとハルカが心配していると、ユーリの方から両手を伸ばされる。

夕方あまりかまってやれなかったから、寂しかったのだろうか。

ハルカはそんなことを思いながら、ユーリのことを抱き上げる。

その小さな手でハルカの服をぎゅっとつかみ、ユーリがしっかりと抱き着いてきた。

「寂しかったんですか?」

ハルカが尋ねると、服を掴む手の力が強くなる。ハルカは小さく笑って、ぽんぽんとユーリの背中を叩いてやる。

「大丈夫ですよ。今日は忙しかっただけで、皆ユーリのことが大好きです」

ユーリをあやしながら、ハルカもモンタナに倣って空を見上げる。

月が一つ、星がたくさん。大きさや配置は全然違うけれど、この空も随分と見慣れてきた。

子供の体温の温かさを感じながら、ハルカはほうっと息を吐いた。

翌日からのユーリは、自分の傍にいる人に抱っこを求めることが増えた。

しばらく抱き上げてもらって、ベッドに戻る。また時間が経って誰かが顔をのぞかせると両手を伸ばしてみる。

今まで小さな子供らしい仕草があまりなかったユーリだったからか、余計に可愛らしく見える。皆が順番に顔をのぞかせてはユーリのことをかまってやった。

そうしてハルカの順番が回ってきたとき、ユーリが空を指した。

皆が一斉にそちらを見上げると、竜が頭上を通り過ぎていく。自分たちが来た方から、進む方向へ。

この辺には飛竜が生息していないので、竜便だろう。

ここよりさらに東へ進むと、大竜峰という険しい山脈があるのだが、その辺りにはよく飛竜が飛び回っている。

ハルカは本で読んだ知識を思い出しながら、いずれ通るであろう大竜峰に思いをはせた。竜といういかにもファンタジーな存在がハルカは好きだった。見えなくなるまで足を止めて見送る。ユーリも首をぐるりと回しながらその後姿を見送っていた。

「ハルカもユーリも竜が好きね。ぼーっと見てると置いてかれちゃうよ?」

少し先で足を止めたコリンが二人に声をかける。

「あ、すみません」

足早に歩いて一行に追いつく。ユーリはずっと空を見上げている。ハルカもまた竜が通らないかと、時々空を気にしながら歩いていた。

数日が過ぎ、いくつかの領地を通り抜けるが、男爵領以降、領主の歓迎を受けるようなことはなかった。

男爵の件を受けて、小領主では手に負えないと判断されたのだろう。街に立ち寄ると監視されているような視線を向けられることはあるが、手は出されない。

ノクトも思ったよりも襲撃が少ないので拍子抜けしているようだ。

「これじゃあ訓練になりませんねぇ」

と呟いているのを聞いて、ハルカは苦笑した。

一方で追跡者に関しても、あれ以降近づいてくることが無くなった。

正確にはモンタナが感知するより外から、こちらの様子を観察しているらしい。こうなると最初の数回の試みで捕まえられなかったことが悔やまれる。

いつまでもついてこられるのも面倒だから、いつか決着をつけたいところである。

イーストンが合流してから既に一週間が経過しようとしているが、一行の雰囲気が大きく変わることはなかった。

アルベルトとモンタナは手合わせの相手が増えてうれしそうだ。

最初のうち、イーストンはユーリの傍に近づいてこなかったが、ある日ユーリを抱き上げているハルカに声をかけたことがあった。

「この子は泣かないんだね」

「賢い子なんです。こちらの言っていることもわかっているみたいですよ」

イーストンはじーっとユーリに見つめられて少したじろいだ。黒と赤の視線が交差して、しばし見つめ合う。

「僕は……、子供とどう接していいかあまりわからなくてね。この子は僕と仲良くしてくれるかな」

イーストンがおそるおそる手を差し出すと、ユーリもそーっと手を伸ばしてその指の一本を掴んだ。イーストンの表情がぱっと明るくなった。

「……これはきっと、仲良くしてくれるってことかな」

そう呟いたイーストンは、それ以降たまにユーリの様子を見に来て、指と手で握手をしている。きっと名前を呼ばれる日も近いだろう。

右手にずっと見えていた山の端が遠目にようやく見えてくる。

あの切れ目の麓に、以前ノクトから話を聞いていたエレクトラムという街がある。デルマン侯爵領は広く、エレクトラムに至るまでもいくつかの街がある。侯爵領に入ってからは人通りも増え、領内の治安が保たれていることが理解できた。

「買い物が楽しみね」

「そうですね、美味しいものがありそうです」

「お前ら呑気だよな」

話しているとアルベルトに突っ込まれたが、そういう自分も武器屋を見に行くつもりで張り切っていたのを二人は知っていた。

一行はユーリも含めてみんな浮かれていた。

皆がエレクトラムの話に花を咲かしている間に、ノクトが何かを思いついたようにふへへと笑う。少し離れていたイーストンがそれを見ていたことに気付くと、ノクトは口元に指を当ててウィンクを送る。

数日の付き合いで、ノクトの人柄がなんとなくわかってきていたイーストンは、肯定も否定もせず、黙って目をそらすのだった。