軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

69話

事情聴取も終わり、誰もいなくなった教室で帰り支度を始める。

壁にかけられた時計を確認すると、時刻は十四時を回っていた。どうやら一時間くらい拘束されていたようだ。

変に話が盛り上がりすぎて、かなり時間がかかっちゃったな……まさか美波ちゃんと、メッセージアプリのIDを交換するほど盛り上がるなんて思ってもみなかった。

イジメ疑惑の払拭を頑張ってたら、なぜか担任と連絡先を交換してたでござる……なんで俺は、同級生とは友達にはなれないのに、妙齢の女性とはすぐに打ち解けられるんだろ。

軍にいた頃は、誰とでも仲良くなれたんだけどなぁ……ああいう異常な環境下じゃないと、俺の仲良しスキルは発動しないのかね? クソスキルっすわ。

ってか美波ちゃんも美波ちゃんで、あんなに綺麗なのに婚活頑張ってるとか意味わからん。

男に困りそうな見た目じゃないのに、意味不明すぎて笑える。

やっぱり、垣間見えるクズっぽいところが彼女の魅力を台無しにしてるのかな? あの人、保身に走る時は全力で走ってるし。

俺はああいうクズっぽいところ好きなんだけどなぁ……小市民同士、同じ匂いがするっていうか。

帰り支度を終え、カバンを肩にかける。

教室を出てポケットからスマホを取り出す。

取り敢えずファミレスで待っている友人に、『今終わったから、これから向かうね』とメッセージを送った。

大きく背伸びしながら正面玄関を出ると、ナタリーとシェリーの姿が校門の辺りに見えた。

手持ち無沙汰な感じで、ボンヤリと空を眺めている。

もしかして待っててくれたのかな? 遅くなるから、先に文香達と合流してって言ったのに。

なんだかんだ言って、ああいう律儀なところがあるから困る。変に気を遣うっていうか。

慌てて二人の元へ駆け寄った。

「ごめんごめん、お待たせ………って、なんでポートマンもいるんだよ」

校門の影に隠れるように、ポートマンが立っていた。

いつもの見慣れたTシャツ軍パン姿ではない、スーツ姿の出で立ち。大きなジュラルミンケースが足元に二つ置いてある。

なんだこれ?

「あ…………タカシ君、おつかれ様」

「おつかれ。お前、こんなところで何やってんの? 引っ越しはもう終わったのか?」

「とっくに終わってるよ。今日はちょっと、タカシ君の学校へ挨拶しようと思ってね」

「挨拶?」

思わず首を傾げてしまう。

「挨拶って、なんの挨拶をするんだよ」

「そんなの、君達を宜しくお願いしますって、校長先生を買収する為の挨拶さ。カーソン 姉妹(シスターズ) もALT講師として働くから、それも合わせてね」

「……………………はい?」

唐突な発言に眉をひそめる。

反射的に、足元のジュラルミンケースに視線を落とした。

「買収って…………もしかしてこの中身、金?」

「そうだよ。取り敢えず二億円ほど用意した。足りなかったらまだまだ用意するつもりだけど」

「こ、この金を使って、校長を買収すんの?」

「カーソン 姉妹(シスターズ) が、夏休み明けからこの学校で働くからね。問題が起こった後じゃ遅いから、今のうちに揉み消せるだけの金は渡しておきたいんだよ」

「揉み消せるだけの金って……」

いかん……ポートマンの言ってることが意味不明すぎて、全く頭に入らん。

カーソン姉妹が講師になる? この学校で? 音沙汰ないと思ってたら、何やってんだよアイツら。

それに買収ってなんやねん。ポートマンもポートマンで、時たまワケの分からない行動をするから困る。

どこからツッコめばいいか悩んでいると、ポートマンに話題を変えられた。

「っていうか、今はそんな話じゃないだろ」

「え?」

整った眉を寄せ、険しい表情を見せるポートマン。

まるで糾弾するように、俺に詰め寄ってきた。

「ナタリーとシェリーから聞いたよ。クラスメイトから濡れ衣をかけられたんだってね?」

「濡れ衣…………………………あっ! お前らポートマンに告げ口しやがったな! やめろよ! コイツにバレたら面倒くさくなるだろーが!」

「真っ先に出るお言葉がそれですの?」

「タカスィが心配することはそこなのかよぉ……」

ナタリーとシェリーが、まるで残念な物体を見るかのように顔を歪ませる。

なんだよその顔は。俺がまた、変なことを言ったみたいじゃないか。

「タカシ君には悪いが、これはもう戦争だ。タカシ君を侮辱するヤツと徹底抗戦を始める。こんなこと僕は絶対に許さない」

「落ち着きなさいよ……俺が頑張って、こっから友達になってみせるから……」

「もうそんなこと言ってる場合じゃないだろぉ〜。編入して一ヶ月以上経ってるんだぞぉ〜? 修復出来ない関係になってることに気付こうよぉ〜」

「そうやって甘い対応を取っておりますから、無駄に寝首をかかれてしまうのですわ。いい加減、現実を受け止めて下さいまし」

誤魔化そうとしたら、ナタリーとシェリーに諭された。

二人とも機嫌がかなり悪い。めっちゃ顔に出てる。

「まぁまぁ。俺なら大丈夫だから、もう少しだけ見守ってくれよ。実はさっき、結構いい作戦を思いついたし」

「作戦〜? この期に及んで、どんな作戦を思いついたんだよぉ〜」

「ふっふっふっ……実はクラスメイトを買収して、友達になってもらおうと────」

「タカシはアホじゃないのかなぁ!!」

「人に無駄遣いするなって言っておいて、ご自身は何をやってますのよ!! アンポンタンですか貴方は!!」

食い気味にナタリーとシェリーにツッコまれた。

なんだよ……いい作戦じゃんか……。

アホだのアンポンタンだの言われ、ちょっと不貞腐れていると、ポートマンに大きな溜息を吐かれた。

「あのね……君は大丈夫って言うけど、僕達はそう思っていないんだよ……」

「いや、大丈夫だろ。だって俺だぜ? こんなの、なんとでもなるから」

「仮に、百歩譲って君は大丈夫だとしても、僕達が許せないんだよ……タカシ君を侮辱するヤツが存在するなんて……皆殺しにしてやりたいよ……」

「そういうこと言うから、お前には知られたくなかったんだよ」

過保護すぎんだろコイツ。

お前は俺のなんなんだよ。お兄ちゃんか。

みんなの怒りを払拭するように、努めて明るく笑った。

「心配すんなって! この程度のことで、俺がどうこうなるワケねぇから────」

「ちょっと宜しいですか?」

シェリーの凛とした声が響く。普段、 滲(にじ) み出る残念臭を消して、真っ直ぐと俺を見据える。

「 大事(おおごと) にしたくないという、タカシ君のお気持ちも分かりますわ。この平凡な日常を、誰よりも望んでいたのはタカシ君ですからね」

「え? うん」

「 蛮(ばん) 君と交わした約束も、勿論覚えておりますわ。友達を百人作って、最強の青春を送るという、あの約束も」

「あー……うん」

「ただ、そういったことを踏まえましても、今日の出来事は見過ごせないものがありましたのよ。仮にワタクシが、同じことをされたらどう思いますの?」

「そんなの…………」

主犯を全員、たかいたかいする。

俺の大切な友人を、そんな目に合わせるヤツは、例え同級生だろうが地獄を見せる。徹底的に俺は修羅になる。

「ワタクシが今、そんな気分なのですわ」

シェリーが、俺の思考を読み取ったかのように呟いた。

そこでようやく、アホな俺も気付く。

あー……そういうことか……。

そりゃあ怒るわな……そんなクソみたいな状況を見せつけられたら……。

罪悪感に襲われ 俯(うつむ) いていると、シェリーがポツポツと独白するように語り始めた。

「タカシ君には言っておりませんでしたが、実はワタクシ、家族に捨てられておりますの」

「え?」

「優秀だった妹の出兵を止めるために、父と母が、ワタクシを妹の身代わりにしましたの。だから出兵直後は、かなり心が腐っておりまして…………ちょうどタカシ君と殺し合いの喧嘩を行ってた頃が、一番自暴自棄になってましたわ」

「……………………」

「でも今は、タカシ君のおかげで真っ当な精神が戻っておりますの……タカシ君がワタクシに寄り添ってくれたから、人としての精神が保っていますの……」

「シェリー…………」

「タカシ君……ワタクシ辛いです……これ以上……最愛の人が 貶(けな) される姿なんて見たくありません……」

悲しそうな表情で、俺を見つめるシェリー。

涙を堪らえるその姿は、初めて出会った頃の、深い闇が見え隠れしていた。

「タカシ」

「ナタリー……」

いつもの緩さが消え、どこか寂しそうな笑顔を向けるナタリー。

彼女にもまた、初めて出会った頃の仄暗い表情が浮かんでいる。

なんでこんな顔にさせているのだろう。

俺はこんな表情にさせたくて、二人を高校生活に誘ったワケじゃない。

ただ笑ってほしかった。

たったそれだけなのに、なんで俺は、ナタリーとシェリーをこんな顔にさせているのだろう。

「タカシは幸せ? タカシが幸せなら、アタシは我慢するよ」

「………………」

「タカシが望んだ日常だからね。この日常を望んでいたと言うのなら、アタシはもう何も言えない。これからも、歯を食いしばって我慢する」

「………………」

「だからもう一度聞くね…………タカシは今、幸せ?」

「んなワケねぇだろ」

俺の望んだ日常に、こんな顔をするナタリーとシェリーは存在してはならない。

こんなことになるくらいなら、もう友達なんていらない。必要ない。

俺は俺の大切な友人達と、最強の青春を築く。友達百人計画は、違う形でなんとかする。

二人の肩に手を置き、強く抱き寄せる。

ナタリーとシェリーの温もりが伝わってきた。俺を何度も救ってくれた、戦友の温もり。

身を委ねる二人を抱き締めていると、ポートマンの 飄々(ひょうひょう) とした声が響いた。

「もう僕が動く必要は無さそうだね」

みんな、俺の性格をよく分かっている。

ポートマンの言葉を裏付けるように、俺はもう一度、強く戦友を抱き締めた。

もう二度と甘い対応を取らないと、心に誓いながら。