軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11話

「 花梨(かりん) 。座りなさい」

大神君の一件から一週間後。お母さんに呼び止められて、私は居間に腰掛けた。

随分神妙な面持ちだ。

タッ君が帰ってきてからこんな顔した事ないのに、どうしたんだろう。

「急にどうしたの? 深刻な話?」

「深刻な話よ」

ま、まさか……タッ君の身に、また何かあったんじゃ…………。

息を呑む私の前で、お母さんが口を開く。

「今日、あなたの部屋からこんな物が出てきました」

そう言って、テーブルの上にある物を置くお母さん。

見慣れた寒色系の布。

私が盗んだ、タッ君のパンツだ。

「な、な、な、なにかの間違い! 間違いじゃないきゃなぁ!」

不意打ちだよこんなの! 動揺しすぎて呂律が回らなくなったじゃん!

情けない私の弁明に、お母さんは目頭を押さえ深い溜息を吐いた。

「タカシの徴兵を止められず、花梨には悲しい思いをさせたと思い何も言わずにいたけど、さすがにこれは不味いんじゃないの?」

「だ、だから! 間違って洗濯物が混じってただけでしょ!? 変な疑いかけないでよぉ〜……もぉ〜……やだなぁ〜……」

勢い。こういう時は勢いが大切。大きな声を上げて、堂々としてればごまかせる!

お母さんは私の反論に、へぇ……と一言呟くと淡々と言葉を続けた。

「これは何かの間違いで、花梨の部屋に紛れ込んだ……そう言いたいの?」

「そうだよぉ! そうに決まってるじゃん!」

「実は一枚だけじゃないの」

「………………………」

さらに二枚、三枚とテーブルに置かれるタッ君のパンツ。隠し場所は変えてた筈なのに、全部お母さんにバレてたらしい。

「なにか言うことはあるかしら?」

「汚いよ……こんなやり方で嵌めてくるなんて……」

「汚いのはあなたの性癖でしょ? 血の繋がった弟に何をしてるか分かってるの?」

「別に普通だよ……こんなの……みんなやってるし……」

テーブルに置かれたタッ君のパンツを取り返そうと手を伸ばすと、お母さんに手を叩かれた。

「ちょっ! 返してよぉ〜! お母さんが呼び止めた所為で、今日はタッ君とナタリーちゃんの後をついて行けなかったんだからぁ〜。その上パンツまで取られたら、たまったもんじゃないんだけどぉ!」

編入試験に合格したタッ君とナタリーちゃんは、商店街へ制服の仕立てに出かけている。

いつものように、二人について行って邪魔しようと思ってたのに、お母さんのせいで留守番するハメになった。お母さんのせいで! お母さんのせいで!

「いい加減にしなさい! 自分の弟に発情して恥ずかしくないの!?」

「恥ずかしいワケないじゃん! タッ君だって私のこと愛してるって言ったんだし!」

「家族としてって意味くらい分かるでしょ! あの子は花梨を異性として見てないから!」

「あーっ! あーっ! あーっ! 聞ーこーえーなーいーっ!」

耳を塞いで聞こえないフリ。ホントうるさい。

お母さんは何も分かってない。私の純粋な想いが汚らわしいだなんて、ふざけてるにも程がある。

「タカシ以外の男を選びなさい。花梨の容姿なら引く手 数多(あまた) でしょうに」

「お母さんさぁ〜……」

わざとらしく首を振り、失望するように肩を落とす。

「お母さん、私の体質忘れたの? 男の子にイジメられやすい体質。意地悪しない男の子なんてタッ君しか居ないのに、他に誰を選べばいいのよ?」

「タカシ以外にも一人くらい居るでしょ? そういう人を──────」

「居ないから! 今まで誰も居なかったから! お母さん、小学生の頃、スカート履いてないの私だけだったの知ってるでしょ?」

履けば捲られて下着まで下ろされる始末。そんな野獣共の中で、一体誰を選べばいいのよ。

私にはタッ君しかいない。血のつながりなんて、この際どうでもいい問題だ。

「花梨には倫理や道徳は無いの? タカシが嫌がってたらどうするの?」

「じゃあ逆に聞きますけど、タッ君が嫌がってなかったら私達の関係を認めてくれるワケ? それならタッ君に直接聞くけど!」

「……………ダメに決まってるじゃない。あの子、何も考えないで答えそうだし……」

「チッ」

タッ君なら、姉さんがいいなら別にいいんじゃない? って答えるだろう。

冷静なお母さんは、ちゃんとそこまで見据えていた。

さすが母親。タッ君の性格をよく理解してる。

その後も私達が、やいのやいの言い争いをしていると、ピンポンとインターフォンの鳴る音が響く。

「ちゃんと待ってなさいよ! 話し合いは終わったワケじゃないんだから!」

「はいはい! 分かりましたよ! お母さんは早くお客さんの相手をしてよね!」

席を立つお母さんに、シッシと手を振る。

ムッカちゅくなぁ……なんで外野に、タッ君との関係を引き裂かれなきゃならないのよ……。

お母さんが戻ってきた時に向けて反論材料を整理していると、思いのほか早く声をかけられた。

「花梨。あなたにお客さん」

「私に?」

珍しい。同級生は大神君の件でウチに近づかなかったはずなのに……誰だろ。

玄関へ向かうと一人の女の子が立っていた。

七三分けの真面目そうな女の子。

タッ君の幼馴染み、 文香(ふみか) ちゃんだ。

「あ! 久しぶり! 今日はどうしたの?」

私が笑顔で迎えると、彼女はあからさまに動揺した。

なんで?

「ひ、久しぶりです……花梨お姉ちゃん……元気そうですね」

困惑しながら挨拶をする文香ちゃん。想像と違うんですけど……みたいな顔をしている。

「元気だよ。最近は食欲も戻ってきてるからね」

ギュッと拳を握って、元気アピール。

「げ、元気そうなら良いんです……それより花梨お姉ちゃんは大神が引っ越したの知ってますか? もうこの街に居ないようですよ!」

大人しい文香ちゃんにしては、珍しく興奮するように喋った。

「だから、また一緒に学校に行ければいいなぁって思って……みんな花梨お姉ちゃんの事を待ってますから」

大神君の事をわざわざ知らせに来てくれたんだ……優しい子だなぁ……。

「そうみたいだね。ちゃんと引っ越したみたいだし、また一緒に学校へ行こっか」

本当に翌日引っ越してたもんなぁ。タッ君の事が相当怖かったみたい。

「ちゃんと……? 花梨お姉ちゃんは知ってたんですか?」

不思議そうに首を傾げる文香ちゃんを見て、迂闊な発言をした事に気付く。

タッ君が脅して引っ越しさせたなんて、口が裂けても言えない。変な噂になったら困るし、これから普通の生活を始めようとするタッ君の足枷になってしまう。

っていうか、そもそも文香ちゃんにタッ君が帰ってきた事を伝えてなかった。

文香ちゃんもタッ君が徴兵された時、私と同じように泣き叫んでいたから、絶対喜───────。

「花梨!! これはなんなの!!」

タッ君の話をしようと口を開きかけたら、お母さんが顔を真っ赤にして詰め寄ってきた。

手には大量の本。

それは私が持ってる、姉と弟が濃厚に絡み合うエッチな本だった。

「ち、ちょ、ちょっとぉぉぉ!? な、なに勝手に持ち出してるのよぉぉぉ!!」

「アンタ、虐められるのが嫌だって言っときながら、これ全部弟から攻められる内容ばかりじゃない! 穢(けが) らわしい! どれも展開が生々しいのよ!」

「内容言わないでよぉぉぉ!! お客さんの前でしょぉぉぉ!!」

奇声をあげる私に、ドン引きする文香ちゃん。

ま、また来ますね……と苦笑いをしながら頭を下げて、そそくさと帰ってしまった。

「あぁ! ち、ちょっと待って文香ちゃん! 伝えたい事が……!」

「登場する弟もタダシ、タケシ、タイシ……バカじゃないのアンタは!」

「だから内容言わないでよぉ〜……もぉ〜……」

タッ君の事になると、過剰に過保護になるお母さん。気持ちは分かるけど、さすがに今は勘弁してほしい。

結局、文香ちゃんに伝える事が出来なかったじゃん。

タッ君が帰ってきた事を。