作品タイトル不明
5 ナイスなアイデア
◆
それから私は自室の隣にある研究室兼製作室で、試作品を作ることになった。
時間がないので今回はブレスレットとイヤリング、ペンダントのフリーサイズで対応できるものだけにする。
とりあえずの案は、親指幅くらいの魔力石をビーズ状に加工して、魔力が伝わりやすい素材のチェーンで繋ぐ感じかな?
そこに、術式を彫った金属パーツを組み合わせれば、アクセサリーとしても成立するだろう。
ただ、問題はその術式を彫った金属パーツの扱いだった。
魔力伝導のいい金属に術式を彫ること自体は難しくない。
だが、それをアクセサリーとして自然な形に落とし込むのが難しい。
それに魔力石まで組み合わせると、どうしても無骨になってしまう。
いっそ、魔力石に直接術式を彫るか?
宝石彫刻というのもあるし、魔力石にもある程度強度があるので、不可能ではない。
だが、それだと魔力石を交換するたびに術式も作り直すことになる。
あと、落としたら彫刻部分からヒビが入って、確実に割れる。彫刻には耐えられるけど、衝撃に弱くなるのだ。
お守りに使うような魔力石は、消耗品だ。交換を前提に考えると、直接彫るのは効率が悪い。
それなら、金属の台座と魔力石の間に術式を書いた紙でも挟む形にする?
いや、せっかくのアクセサリー風にするのに、紙を使うのは味気ない。
……なら、台座そのものに術式を彫ればいいのでは?
そう思い立ち、早速作ってみることにした。
当初の案とは違うが、まあ、一度形にしてみようということだ。
使ったのは、手元にあった既製品のペンダント用の台座だ。
上部に丸カンが付いた、ごく普通のデザインだ。
そこへ専用器具を使い、魔除けの術式を彫っていく。
術式には、メインとなる魔除けの他に、魔力石と接続するための補助術式なども組み込まれている。
タリスマン型は、一般的に流通している魔動具とほぼ同じ仕組みだ。
基本的に、身につけている間は効果が持続する。
一方、アミュレット型は、特定の条件下で自動発動する術式を組み込むことで、必要な時だけ効果が発動する様になっている。
──なんとか彫り終えたので、それに合う大きさの魔力石を探し、専用の接着剤で固定する。
この接着剤は、専用の剥離剤を使えば綺麗に外せるため、魔力石交換時にも対応できるのだ。
……うん。悪くはない。
ただ、少し大きい。
女性向けではあるけれど、どちらかというとマダム向けなデザインだ。若い女性には、好まれない気がする。
原因は、魔力石を固定している台座部分のせいだな。これに合わせて魔力石が大きくなってしまうから。
となると、台座そのものからデザインし直す必要がある。
でもそれだと時間がかかる。金型から作らないといけないからね。
探せば良い感じの既製品の台座があるのかもしれないが、一から探すのと、今から金型作るのどっちが早い?
……どちらにせよ、一カ月弱では無理か。
うーむ、もっと手軽で、見栄えのいいデザインにするには……。
その時、研究室のドアがノックされた。
「はい」
「お嬢様、そろそろ休憩にしましょう」
「あら、もうそんな時間?」
「はい。お部屋の方におやつも準備しておりますので」
「分かった、すぐ行くわ」
今日のおやつは、果物のゼリーだ。
透明なゼリーの中に細かく切った果物のコンポートが入っている。
「最近、暑くなってきましたからね」
「あ〜、疲れた体と頭に染みるわ〜。これ、入っているのは、オレンジに桃にりんご?」
「はい。そのまま使うと、果物の成分によっては固まらないこともあるので、果物にはあらかじめ火を通すんだとか」
「なるほどね〜」
魔力石に直接術式彫った金属パーツを入れられれば、もっと簡単にアミュレットが作れるな〜。
形の幅も、もっと広がる──。
ん? 待てよ?
魔力石の中に、本当に入れちゃえばいいんじゃない?
……どうやって?
うん、エリアに相談してみよう!
◇
「何? 俺、結構忙しいよ?」
とか言いつつ、エリアの口元はにやけている。
「婚約者が会いたいって言ってるんだから、嬉しいでしょ?」
エリアに魔術手紙を送ると、転移魔法ですぐに来てくれた。
「それは、まあ、はい……」
「魔力石を液体みたいにして、型に流し込んで固めることってできないかしら?」
「は? いきなり何?」
「だから、術式彫った金属──でもなんでもいいけど、それを魔力石の中に閉じ込めつつ、型も可愛く作りたいの!」
「……お守りなら、そんなに純度の高い魔力石はいらない、よな?」
「まあ、タリスマンもアミュレットも、ある意味消耗品ね。魔力石が消耗したら取り替えるし、紙のやつは一回限りの使い捨てだし。もちろん、魔力石を交換して使い続けることもできるけど」
「なら、魔力石を加工した際に出来る破片を利用するとか?」
「それを液体に?」
「いや、魔力石を液体にするのはかなり難しいから、粉状にして液体に混ぜる。
そして、その液体が固まるようにできれば、イケるのでは?」
「な〜るほど、エリア頭いい〜!」
「問題は、その液体だな。一度固まれば二度と液体に戻らないものがいい。ついでに固める過程が簡単で、加工もし易く、人体に影響がないものがいいな」
「そうね〜」
そんな物質あるかな?
その時、ふと亡き母が好きだった石を思い出した。
あの、透明感と深みのある黄褐色の──。
「……あのね、エリア」
「ん?」
「琥珀って知ってる?」
「もちろん知っているさ。樹脂が長い年月をかけて、固まった貴石の一種だよな? 中に古代の虫とかが封じられてることもあるやつ」
「それ、使えない?」
「琥珀……いや、 樹(・) 脂(・) か! そういえば、日光に当たると結晶化する樹脂を分泌する樹木があったな……。
たしか、 光晶(こうしょう) 樹だったか」
「それ! そういうの! なんとか使えないかしら!?」
「たしかに、一部地域ではそれを使ってアクセサリーや工芸品を作っていた。この国では、珍しい木でもないし」
「なら!」
「やってみるか!」
◆
後日、エリアが、光晶樹の樹脂と専用のライトを持ってきた。
ついでに光晶樹の樹脂を使った、工芸品のペンダントも。
仕事が早くて助かるぅ。
「へえ、樹脂自体は黒い瓶に入っているのね」
「弱い太陽の光でも、時間が経つと固まるらしいからな。使うときは遮光カーテンが必要だな。魔動灯では固まらないから、灯りはつけていて大丈夫だ」
「出してみるわね」
「一応手袋しておけ」
「うん」
樹脂自体は、少しとろみのある透明な液体だった。
「色は付けられないの?」
「色付きのも貰ってきた。透明のやつと不透明のやつがあるらしい。木の種類とか肥料によって変わるらしいよ。絵の具でも色はつけられるが、不透明になる」
「へえ、すごいわねえ。じゃあ試しに作ってみるわ」
「あ、これ粉末にした魔法石な」
「ありがとう」
まずは透明の樹脂を小皿に注ぎ、そこへ魔力石を加えて混ぜる。
それを台座に少し流し入れ、その上に術式を彫った金属片を入れ、それを覆うようにその上から残りの樹脂を流し込む。
「あとは固めるだけね」
私は専用のライトを手に取る。
ライトは左右に足があり、下向きに照射するような作りになっている。
動力は魔力だ。太陽と同じ光を作り出せるらしい。
「このライトが発する光は目に悪いから直接は見ないように。できればサングラスをかけた方がいいそうだ」
「分かったわ」
エリアが二人分のサングラスを用意していたので、遠慮なく使わせてもらう。
台座をライトの下にセットして、スイッチを押すと光が灯る。
十分ほどすると、光が自然に消えた。タイマー付きだ。
「どうだ?」
「確かに固まっているわね」
固まった樹脂は琥珀みたいに硬い。
表面はツルツルで中に混ざっている魔力石がラメのように、きらめいている。
術式の彫られた金属片もいいアクセントになっているが……。
「気泡がすごいわね」
「確かに」
「工芸品の方は、気泡がまったく無いわ」
見本としてエリアが持ってきたペンダントはクリアカラーの空色で、途中から木材のパーツに変わっているデザインだ。気泡も無く、とても美しい。
それにガラスや宝石と違って軽い。
「確か、気泡を抜く専用の器具があるらしい。少量の場合は軽く温風を当てるといいとか。それがないなら地道に手で潰すか」
「温風なんて、魔法でも使えない限り無理じゃない? 私は生活魔法がギリギリ使えるレベルなのに」
「だったら、できる奴に任せればいいんじゃないか? マリアーナは 金属片(パーツ) に術式だけ刻めばいいし」
「あ! それだ!! 工芸品を作ってる工房に行きましょう!!」
「待て待て。場所がどこか分かってる?」
「そういえば知らないわ。どこなの?」
「ヴァルヌス領。国王直轄領だよ」
「なんですって?」
それって、国王陛下が治めている領地ってこと!?
「正確には国が管理している土地だね。過去に色々あって治める者がいなくなってしまった土地。元からいる領民は今も住んでいるけど」
「行っても大丈夫かしら?」
「国が直接管理しているから、治安自体はいいよ。光晶樹の樹脂を使った工芸品を作って、細々と暮らしてる」
「なら、これが特産品になる可能性があるわね!」
「え? そ、そうだな……」
「じゃあ、私はできるだけ沢山、術式彫った金属片のパーツ作るから、エリアはアポ取っておいて!」
「分かった。いつぐらいがいい?」
「そうね、五日──いえ、三日後でどう?」
「なんとか、してみるよ」
うおおおお! 燃えてきた!!