軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

変わった新人~ルソアside~

「ルソア。クレヴァーナはこれまでどういう暮らしをしてきたんだろうな?」

新しく図書館に所蔵される本に魔法による処理を施す作業を行う中で、コルドが私、ルソアに向かってそう言った。

最近、此処で働くようになった新人――クレヴァーナ。

彼女は不思議な子で、話を聞いている限り散々な目に遭ってきている。でも……その理不尽な状況を当たり前だと思っていたようだった。ゼッピアが初めての友達だと笑い、家族からの扱いも悪く、結婚も上手くいかない。二十四歳という若さでどれだけ苦労しているのだろうかと聞いているこちらが憤りを感じてしまう。

「本当に大変な暮らしはしていたようには思えるわ。……彼女の場合はそういう扱いを当たり前のように受け入れているのが一番の問題だと思うわ。本来なら怒るべきことを、怒らないというか……」

「友達が出来たのも初めてだって言ってたんだろ? ほとんど誰とも関わらずに、自分を否定する存在とだけ関わってきていた感じか?」

「そうだと思うわ。それにしては卑屈ではないのは……本を読んで世界を知っていたからみたいな感じかしらね」

「それであれだけ社交性があるのも、様々な言語を操れるのもおかしいけどな。それにあいつ、多分、いい所の出だろう」

コルドはそう言って何とも言えない表情である。

そう、クレヴァーナは接していれば分かるが所作が綺麗なのだ。平民の服装でも、気品があふれ出ている。

……学園に通ったことも、家庭教師もついたことがない。ということはおそらくああいう所作も全て独学で学んだのだと思う。

「そうね。この前酒場で飲んだ時に、あの子は父親のことを“お父様”と口にしていたわ。だから良い所の出であることは間違いないと思うわ」

お父様という呼び名をするのは、裕福な家系だけだ。家族として認められるための重要なものが足りなかったとクレヴァーナは口にしていた。たった一つの何かが足りないからと言って、家族として認めないという意味が私には分からない。

「あとは……クレヴァーナの家族も、嫁ぎ先も彼女の有能さを理解してなかったのではないかと思うわ」

「あれだけ出来る女なのに?」

「それだけ彼女の能力が高いからだと思うわ。周りが違和感がないように馴染むだけの能力があったのだと思うのよ。少しでも違和感を相手に感じさせるだけの隙を見せていれば違ったと思うけれど……。私達だって本人から話を聞かないと彼女が異常な環境下で育っていたことが分からなかったでしょう?」

クレヴァーナは本人が語らなければそんなおかしな環境で育ってきたとは分からない。

それだけ彼女は環境への適応力があるのだと思う。どこかで特別に学んだわけではなく、ただ独学で学び続けた。それでこれだけ適応できるというのはある意味才能だと思う。

「そうだな……。俺も実際に話してみないとそういう暮らしをしていたことが分からなかった。それにしてもあっけらかんとした態度でいうからなぁ……。そういう状況が当たり前だったのって中々大変な状況だが」

「そうよね……。子供とも離れ離れになってしまっていると聞いたし、これから幸せになって欲しいと思うわ」

クレヴァーナが子供の話をする時は、何処か愛情が見え隠れする。あまり周りに執着をしていないように見え、何もかも与えられるものを受け入れているように感じる。

だけれどもやっぱり自分の産んだ子供というのは特別なのだろうと思う。

本当は子供を連れてきたかったのだろうなと思う。だけれども色んな事情から子供と離れ離れにならなければならなかった。

……私は子供を産んだことはないけれど、想像すると悲しいことだと思う。

離縁して、実家のことも頼れずにたった一人で隣国にやってくる。それは大きな決意である。

私だったらそういうことは出来なかったと思う。

……クレヴァーナは周りから蔑ろにされていることがおそらく当たり前の環境で、あまり周りと関わってこずに生きてきたのだと思う。そういう生き方をしてきたからこそ、どういうときでも冷静というか、落ち着いているのかもしれない。

それは怒ることが分からないと言っていたことからも分かるように、彼女にとって感情を大きく露わにすることが当たり前じゃないからだ。

「もっと感情を露わにして大丈夫だって、彼女自身が思えるようになればいいとも思うわ。理不尽な真似を受けたら、怒って、泣いて、全力でぶつかる方がいいもの」

理不尽な真似を受けたら、そうやってちゃんと抗った方がいいと私は思っている。

だからあの子がそういう風になれたらいいのになとも思う。

「……なんかそういう対応をされてきたのならば、もしかしたらクレヴァーナの実家や元夫がやってくる可能性もあるよな。その時は俺達も対応しよう」

「ええ。そうしましょう」

もし彼女に何らかの接触をしてくる人がいるならば、同僚として私たちは彼女のことを守っていきたいなとは思った。