軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

実家と夫の話をすると怒ればよかったのにと言われる。

「どうしてクレヴァーナのような子が離縁されるようになったの?」

「色んな理由はあると思いますけれど、私が上手く出来なかったからですかね。私が夫やその周りの信頼を勝ち取ることが出来なかったというそれだけの話です」

ある日、ルソアさんから飲みに誘われた。

私は夜にどこかに行くなんてしたことがなかったので、一度は断った。でも一度も夜にこうして出かけたことがないと私が言うと、「私が夜遊びの楽しさを教えてあげるわ」などと言われて、そのまま頷いてしまった。

「クレヴァーナの良さが分からないなんてどうせつまらない男だったのよ!」

お酒を飲んでいるルソアさんは、少しだけ口が悪くなっていた。

「一般的に見て良い男ではあったと思います」

「……その言い方、クレヴァーナはその元夫のことを好いていたわけではなかったの?」

「そうですね。親の決めた相手に嫁いだ形でした。元夫も私にそういう感情を抱いていたわけではありません」

私も夫も自分の意思をもってして結婚したわけではない。元夫に関しては政略的な結婚でなければ私なんて娶りたくなかっただろう。

「親が決めたものだったとしてもクレヴァーナを折角娶ったのにもったいないことをしたわよねぇ。それに離縁されたばかりのあなたがこうして隣国に来たのにはそれ相応の理由があるでしょう」

そういうルソアさんの顔は赤い。かなりの量のお酒を飲んでいることが分かる。

「……故郷での私の評判は酷かったですから」

そんなことをこぼしてしまったのは、私もお酒を飲んでいたからだ。ぽろりとこぼしてしまった言葉にルソアさんが続けて問いかける。

「どうして? クレヴァーナはそんな酷い評判を受けるような子じゃないわ」

「私の意思は関係なく、家族の醜声は私が受けるものとされてましたから」

「どうして……? 家族なのに酷いわ」

そう口にするルソアさんは、家族仲がきっと良いのだろうなと思った。

「私の家族にとっては家族として認めるための重要なものが一つありました。私はそれを持ち合わせていなかった。だから……お父様達にとっては私は家族として認められていませんでした」

魔術が使えるか、使えないか。

家族に取ってそれが全てだった。

まだ魔力量が少なくても魔術が使えれば……出来損ない扱いはされたかもしれないけれど、家族とは認めてもらえたかもしれない。

「……それって家族として認めてくれない人たちの命令で嫁いで、嫁ぎ先でも家族が原因で広まった酷い噂があって上手くいかなかったってこと?」

「そうですね」

軽く答えるとルソアさんの目がくわっと開かれる。

「そんなに平然としないで、怒っていいのよ! 寧ろ聞いている私の方が腹が立っているわ!」

「怒るですか?」

「そうよ。そんな扱いをされたなら怒ればよかったのよ。子供までこさえておいて、真偽がつかない噂を真に受けてあなたを蔑ろにしていたわけでしょう? そんなクズ男、別れて正解よ」

私は元夫をクズなどと言われて驚いてしまう。今まで夫のことを肯定している人ばかりだった。

「クレヴァーナ、どうして笑っているの?」

「今まで夫をクズ男なんて言う人いなかったから……。それに、私は怒るという選択肢を考えたことなかったわ」

実家の両親や兄妹たちは私に時折怒りをぶつけた。私みたいに魔術を使えない存在と血が繋がっているのが恥ずかしいと、そう言っていた。

嫁ぎ先では夫の部下たちは私をよく睨んでいた。私のことを認めないとそんな風に言動で示していた。

――私は自分が怒るというのを考えたことがなかった。そんなことをしても届かないと、そう思っていたからかもしれない。

「ルソアさん、私……誰かに怒ろうと思ったことなかったです」

「そうなの? 問題のある家族やクソ男に関わることがあるなら思いっきり怒るといいのではないかと思うわ。理不尽な真似をされたら誰でも怒る権利があるのだから」

ルソアさんはそう言いながら笑っている。

……理不尽な真似をされたら怒る権利があるか。

魔術が使えない家族として認められない私。外に出すことが恥ずかしい私。

私はずっとそう言われ続けていた。

「そうですね……。私、誰かに怒るというのをしたことがないので、出来たらやってみようと思います」

「あら、怒るというのはやろうと思ってするものではないわよ?」

私の決意の言葉を聞いて、ルソアさんはくすくすと笑っている。

やろうと思って怒るものではない。そう言われたけれど、怒るとはどういう感じなのだろうか。

小説を読んだ時、登場人物たちは何かしらの問題が起きた時に声をあげて怒っていた。大きな声で泣いて、感情を露わにしていた。

……私は家庭教師がついたことがなかったから、“公爵令嬢”としての私は家族や本で知った知識を真似ていた。

本の中に“公爵令嬢”や“公爵夫人”は感情を露わにするべきではないと書かれていた。だからそれを真似た。小説の中の貴族たちは感情豊かだったけれど、基本はそうだと描かれていた。それに感情的になっても誰も聞いてくれないことは分かっていたからというのもあるけれど。

ルソアさんと話して怒るというのを改めてやってみようと思った。