軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

姉だった人のことと、後悔 ⑤

「……あの人を慕う者達が我が国に関わろうとしない?」

それの何が問題なのか、私には分からなかった。

あの人やそれを慕う者たちが何をしようとも、あくまで隣国の話なのだ。それで何が変わるか分からない私に向かって、執事の一人が言いにくそうに言う。

「私も情報を集めていて驚いたのですが、あの方もそれを慕う『花びら』と呼ばれる者達も積極的に外交を行っています。国難を解決することも珍しくなく、それだけの影響力を広げているそうです。……しかしその『花びら』達はこの国に関わってこないのです」

「それで……どういった問題が? あの人が花にたとえられ、それを慕う者達が『花びら』と言われていることは分かったが……ロージュン国は、周辺諸国からも一目置かれているだろう。それならそんな……一時的に有名になっているだけの存在が関わらなくてもいいのでは?」

正直言って、私はそう思ってしまった。

クレヴァーナ・シンフォイガがどれだけ多くの活躍をしようと、所詮たった一人。一国でただ有名になっているというだけなのであれば……ただ今だけ騒がれているだけではないのかとも思った。

そんな風に思ってしまうのは、私があの人を魔術の使えない出来損ないだとそう思ってしまっているからかもしれない。……どうしてもこの屋敷に居た頃のあの人と、噂の『知識の花』が一致しない。

女性の身で、魔術も使えないのにそれだけの活躍をしているのがまず誰かの意図が働いているのではないかなどとさえも思う。

「そうも言っていられません。『王弟の愛する知識の花』は、その影響力を徐々に増していています。それこそ『知識の花』と『花びら』と縁を結ぶことを各国が望んでいる状況です。あの方は自らの過去を隠しもしていないようです。魔術の使えない出来損ない扱いされていたことも、公爵夫人に相応しくないと離縁されたことも――」

「……影響力が増している存在が我が国での出来事をよく言わなければ、それだけこの国にとっては悪影響に繋がると言えるか。それは時が解決するものではないのか?」

些細な影響しか与えない存在だったならば、時間が解決するものだ。その『知識の花』の活躍が徐々に無くなっていくのならばそれで収まるはずの騒動でしかない。

――だから、この程度のことだと放置していても問題がないはずのこと。けれどもこれだけ騒ぎになって、状況が悪化しているのは、あの二番目の姉が驚くべき程に隣国で活躍しているからだろう。

「解決はしないでしょう。……『知識の花』の活躍は留まることを知らないだろうと、隣国では言われているとのことです。少なくともロージュン国内とは違って、向こうではそれはもう慕われていると聞きます。だからこそロージュン国に対する悪感情も大きいようです。特にシンフォイガ公爵家とウェグセンダ公爵家に関してよく思っていない者がそれはもう多いとのことです」

シンフォイガ公爵家と、ウェグセンダ公爵家。それはあの人が唯一、国内で関わっていた家と言えるだろう。

魔術の使えないあの人を、シンフォイガ公爵家は外に出さないようにしていた。そしてウェグセンダ公爵家でも、悪い噂が出回っているあの人を自由にすることなどなかった。だから、二番目の姉の世界は、限られていたはずなのだ。ロージュン国では咲かなかった『知識の花』が、スラファー国では咲き誇ったなどとも言われているらしい。

そのせいで厳しい目をスラファー国で暮らす者達からは向けられているらしい。それに加えて他の国も、そういう目をロージュン国に向けるかもしれない……。

私はシンフォイガ公爵家を継ぐ前で、外交などというものを実際に日常業務でこなしているわけではない。しかし……そういう目で見られてしまうことは問題だろう。

「……そうか」

「はい。陛下は『知識の花』とスラファー国の王弟をこの国に呼ぶ予定のようです。『花びら』達がロージュン国に関わろうとしないことに陛下は頭を悩ませているようです。だからこそ……シンフォイガ公爵家の行動で益々『知識の花』と『花びら』がロージュン国を忌避することを懸念しているのでしょう」

「……だからこその、待機か。あの人は怒っているのだろうか」

私が同じ立場だったら……どうだろうかと考えてみる。

私は魔術が使えた。だから二番目の姉と同じ立場にはなり得なかった。魔術が使えず、見た目以外に秀でたところなどないとあの人はそう両親に判断されていた。

あの人は血は繋がっていても家族ではないと、そういう扱いを受けてきた。嫁いだ先でも噂のことがあるから、良い環境ではなかっただろう。……何をされてもされるがままだったあの人が、聞いている限りは生き生きとしているらしい。

自分の意思なんて全くなかったであろう、そんな人がこんな風に活発的に動いているだんだなんて信じられないが、事実だろう。

――なら、二番目の姉は我が国に怒っているのではないかと思った。

自分を蔑ろにした国や家に……復讐をしようとしているのではないかなんてそんなことを思ってしまう。

……本当にそれだけの影響力があるのならば、この国のことを滅茶苦茶にすることだって出来るかもしれない。

「……それは分かりません」

執事は何とも言えない表情でそう言った。

二番目の姉――クレヴァーナ・シンフォイガが何を考えているのか、私にはさっぱり分からない。

父上や母上は絶対にあの人に頭を下げたりはしないだろうけれど――この国と領地のためにあの人に会いに行くのもありかもしれない。

――そうは思ったものの、当然その許可は出なかった。

そうしているうちにあの人がロージュン国を訪れ、陛下との話し合いをしたと聞いた。そして娘を連れ帰り、ウェグセンダ公爵家と和解したとも。

そして『花びら』達が、ロージュン国にも訪れるようになったとも。