軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第25話 かわいい彼女がいる日々

冷房の効いた店内から、窓の外を眺める。

抜けるように青い空と、ゆらゆらと立ち上る陽炎。

まさに真夏な光景に、改めて今が夏休みの真っ只中であることを実感する。

「ちょっと兼助。なに呆けているのよ」

正面でペンを置いた眞白が、ジト目で俺を見た。

「いや、なんか夏だなーと」

「……は? 私に課題を手伝わせている分際で何を呑気に季節を感じているの? そんなに季節を感じたいのなら外に出れば? 直射日光八時間」

「日本の夏を舐めるなよ死ぬぞ」

でも、眞白の言う通りボーっとしている場合ではなかった。

眞白と昼下がりからやってきたのは、近所のファミレス。

夏休みの前半に課題を終わらせると言っていた眞白だが、どうやらそれは俺もらしく。

全く手を付けていなかった俺はブチギレられ、今は眞白の厳しい管理下で課題をこなしていた。

「とにかく、さっさと課題を終わらせるわよ」

「なんで俺まで前半で終わらせなきゃいけないんだよ」

「私が終わらせたからよ」

「眞白が終わらせたことと、俺の課題は関係なくないか?」

「はぁ? 全く……これだから兼助は。私以外の女の子だったらこの時点でフってるわよ」

「えぇ⁉ ま、マジか……よかった、眞白と付き合ってて」

「っ! ……そ、そうよ。もっと感謝してほしいわ」

眞白がんんっと咳ばらいをし、続けた。

「……なんだか、気持ちが悪いでしょ?」

「え、俺が? いきなり? いくら言われ慣れてても傷つくんだけど……」

「違うわよ! 私が終わってるのに兼助が終わってなかったら気持ち悪いでしょって話。だって……」

眞白が拳をぎゅっと握ると、視線を斜め下に落として言った。

「夏休みはずっと一緒にいるんだし……私たちはもう“ふたり”、なのだから……」

「っ!!!」

あの日、夏休みの初日に話したこと。

「だから、兼助の分も終わらせるわよ」

「……そうだな」

こうして眞白も手伝ってくれている訳だし、ボーっとしている場合じゃない。

「……ってか眞白、夏休みはずっと一緒にいる予定なんだな」

「っ!! …………わ、悪い?」

「いや、最高です」

「……フンっ」

彼女がいる、幸せな夏休み。

前半も終わろうとしている中、すでに何回も眞白と会い、デートを重ねていた。

それでも、まだ足りないと思ってしまう。そして好都合にも、夏休みはまだまだ続く。

「お待たせしました、レインボーストロベリーサマースプラッシュファンタジートロピカルパレードです」

「なんて?」

テーブルに運ばれてくる、とにかくバカでかいパフェ。

眞白はスンとした表情で自分の前に持ってくると、黙々と食べ始めた。ただ、わずかに頬が緩んでいる。

「ま、眞白……」

「……甘いものが必要なのよ。頭使うから」

そりゃそうだろうけど……。

ってか、よく店員さんも噛まずに言えたし、そもそも持ってきたよな……と店員さんを見ていると、眞白がカチャリとスプーンを置いた。

「ちょっと」

「なんだ? あ、気にせず食べていいぞ。俺は課題進めておくから……」

「今、どうして女性店員のことを目で追っていたの?」

「……え?」

雰囲気がガラッと変わる。

さっきまで好物の甘いものを目の前に、ほんわかしていたはずなのに……。

「私がすぐ近くにいて、他の女が気になる? どうして? ありえないのだけれど。理由を端的に、私の納得がいくように説明してくれる?」

「いや、気になってたんじゃなくて、素直に感心を……」

「へぇ、関心。あの女性店員に関心」

「ちょっと待て。たぶん漢字が……」

「兼助、私言ったはずよね? 私にすべてを捧げなさいと。本当に捧げているのなら、他の女に目もくれないはずよね? 違う? 違わないわよね? そうね、その通りだわ」

「出たよ自己完結……ほんと違うんだって。興味関心とかじゃ……」

「二度と他の女に興味を抱くんじゃないわよ。私、そういうのは浮気や不倫と同じご法度だと考えているから。というか、激しく許しがたいわ。だから――次はないわよ」

またスンとした表情に戻り、眞白がパフェを食べ始める。

……今のは俺が悪いか。うん、俺が全部悪いな。

それと、なんだかやけに寒い。冷房効きすぎてるのかな……あとで冷房の温度下げてもらえないか頼んでみよう。もちろん、男性店員に。

▽ ▽ ▽

日々はあっという間に過ぎていき……。

夏休みも気づけば後半に差し掛かっていた。

課題を終わらせた俺と眞白は、毎日のように一緒にいた。

花火大会にも行ったし、海にも行ったし。県外に遠出したり、スイーツを求めて旅したりもした。

そして今日は、一日中俺の家でくつろいでいた。

「兼助、喉乾いたわ。水」

「えぇ……今?」

「ついでにお菓子も持ってきてくれる? 小腹が空いたわ」

「さっき食べたばっかりだよな? 眞白……さすがに食べすぎじゃないか?」

「大丈夫よ。その分、運動はしているから」

「へぇ……努力してるんだな」

「そうよ? だって……兼助も、かわいい方が嬉しいでしょ?」

「っ!! ……かわいいよ、ずっと」

「っ!! ……ど、どうも」

家の中だと他人の目もないし、こういうストッパーがどうしても緩くなってしまう。

それは眞白も同じで、最近の眞白はいつにも増して積極的だった。

「じゃ、水取ってくるから」

「よろしく」

「……取ってくるから」

「よろしく」

「…………」

「……何よ」

「いや、だから……」

「何よ」

「……手、離してくれる?」

しっかりとつながれた手を見ながらそう言う。

眞白はじっと俺を見たまま、手は離そうとせず、

「いいわよ?」

「いいって言っときながら全然離そうとしてないだろ」

「離そうとしてないのは兼助よ」

「いやいや眞白だろ」

「いやいや兼助よ」

視線が交差する。

家にいるときは、基本的に手をつないでいた。

もはや照れるどころか、つなぐのが当たり前になっていた。

「じゃ、離すからな」

「どうぞ」

少しためらいながらも、立ち上がって手を離す。

すると、眞白はわずかに寂しそうな顔をして、手を引っ込めた。

……なんだよそれ、かわいすぎるだろ。

すぐに水とお菓子を用意し、定位置のソファーに戻ってくる。

戻ってきた俺を、眞白は意味ありげに上目遣いで見てきた。

「…………」

「…………」

きっと同じことをしたくて、思っていたと思う。

水とお菓子をテーブルに置き、俺も眞白を見つめる。

眞白はわざとらしくため息をついて、控えめに腕を広げた。

「……仕方ないわね」

「……どうも」

ソファーに膝をつき、俺はそのまま眞白を抱きしめる。

甘い匂いと柔らかな体の感触。

生々しい体温と穏やかな息遣いが、眞白を抱きしめている以上に近くに感じさせた。

「……ほんと、兼助はハグが好きね」

「それを言うなら眞白もだろ?」

「……まぁ、否定はしないけれど」

「俺は声高に主張するけどな」

「何よ、それ。調子のいいことばっかりね」

しばらくの間、俺と眞白は抱き合っていた。

ハグも最近、頻繁にするようになった。

ちなみに、ハグを初めにしようとしてきたのは眞白である。

これだけ夏休みにふたりきりの時間があれば、おのずと触れたくて、触れてほしくなる。

俺たちはきちんと自分たちのペースで歩くことが出来ていた。

「……眞白、かわいいな」

「っ! ……あ、あんまりこういうときに言われると困るのだけれど」

「困ってる眞白もかわいい」

「っ!! ……兼助、私のこと好きすぎよ」

「好きだからな。しょうがないだろ」

「……そうね。仕方がないわ」

「眞白は?」

「な、何が?」

「どうなんだよ」

「…………好き、だけれど」

「…………ダメだかわいい」

「ちょ、ちょっと兼助! 強い……から……」

幸せを共有する。

こうしていると、ふたりで幸せになっていると実感できて安心するのだ。

やがてどちらからともなく離れ、見つめ合う。

そしてゆっくりと――唇を重ねた。

五秒にも満たない、短い時間。

「っ……が、がっつきすぎよ」

「し、仕方ないだろ……したかったんだから」

ぎこちない時間が流れる。

俺も眞白もまだキスには慣れていなくて、どこか照れ交じり。

だけど、確実に前に進んでいた。

気づけば眞白が帰る時間になり、玄関まで見送る。

「また明日」

「えぇ、また明日」

眞白が靴を履き、ドアノブに手をかける。

しかし、そこで立ち止まるとパッと振り返り、俺に顔を寄せた。

そして――

ちゅっ。

眞白が背伸びをし、やがてかかとを地面に下ろす。

「おやすみなさい、兼助」

眞白はそう言って、いたずらが成功した子供のような顔で出て行った。

思わず頬が緩んでしまう。いや、緩まざるを得ない。

「ほんと、かわいいんだよな……眞白は」

幸せな夏休みは、過ぎていく――

▽ ▽ ▽

そして、あっという間に――夏休み最終日。

明日から学校が始まる。

名残惜しい気持ちもあるが、学校に行くのもそれはそれで楽しみだった。

これから文化祭があって、クリスマスがあって、新年を迎え、また新学期が始まる。

夏休みが終わっただけで、楽しみなことはまだまだある。

そう思えるのは間違いなく、眞白がとなりにいるからだろう。

家でひとり、そんなことを考えているとインターホンが鳴った。

「はいはーい」

玄関の扉を開けると、そこにいたのは眞白だった。

鞄を肩にかけ、ちょこんと立っている。

「どうした?」

「そ、その……え、えっと……」

モジモジと言葉を探している眞白。

じっと待っていると、眞白は意を決したように顔を上げ……たと思ったら視線を落とし、か細い声で言ったのだった。

「…………今日、泊まりたい……のだけれど」