軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第286話●謎の生物

「ブルファ……」

四人の前で足を止めた謎の生物は藪の中を強引に突き進んできたのか、短く硬そうな体毛には大小様々な葉っぱや蔓、小枝が無数に付いている。

数メートルの距離であらためて見てみると、頭には三十センチほどの長さの角が正面に向かって二本生えており、ボアのような長い牙も口の両端から斜め上方に向かって生えていた。

さらにそこそこ体高がある割に足が短いため、牛と豚を足したような奇妙さを感じるのだろう。

鼻息を荒くさせながら、顔に対してアンバランスに大きな金色の目が油断なくこちらを覗っている。

「……何をしてくるか分からんが、ひとまずあの角と牙には注意だ」

「「了解」」

攻撃パターンが分からないため、こちらからは仕掛けず明らかに刺さったらヤバそうな角と牙に最大限の注意を促し様子を見る。

しかしそんな静かな睨み合いも長くは続かない。

「ブファ……、ブルモォォォォォッッ!!」

雄たけびと共に謎の生物が顔を低くして突っ込んできた。

『 風壁(ウィンドウォール) !』

その動きにユリシーズが素早く反応し、準備していた 風壁(ウィンドウォール) の魔法が即座に展開される。

バギィィ

「ヴォファッッ!?」

眼前に展開された事で避けられなかった謎生物が、まともに 風壁(ウィンドウォール) にぶつかり鈍い音が響く。

くぐもった呻き声をあげて、謎生物の足が止まった。

「げ、ヒビが入った!? 標準威力だとギリギリだ!」

謎生物の突進により破壊こそされなかったが、大きなヒビが入ったのを見てユリシーズが驚きの声を上げる。

やはり牙や角が当たった場所の損傷が激しいようだ。

また、結構な勢いでぶつかったにもかかわらず、鼻血が出て牙が一本折れたくらいで首が折れたり気を失ったりはしていない。

かなり頑丈な生き物のようだ。

しかしそれでも相手の動きを無事に止める事には成功した。

その隙を逃さず、リディルとマルセラが壁の両サイドから謎生物の左右にそれぞれ切り込んでいく。

「俺は通常型を試すっ! お前は雷剣だ!」

「はいよっ!」

切り込みながらリディルが短く指示を出す。

「おりゃっ!」

最初に斬りかかったのはマルセラだった。

マツモト領では標準兵装となっている人工魔剣フェリス21型――通称“雷剣”を起動させ、謎生物の右側面を斜め上方から斬りつける。

バチンッ

「ヴォモッ」

雷剣独特の強力な静電気のような音と共に白紫色の火花が一瞬飛び、謎生物が呻き声を漏らした。

「ヴォムォォッ!」

「うわっとぉ?」

しかし不機嫌そうな唸り声をあげて、すぐさまマルセラに振り払うような頭突きで反撃を行う。

マルセラはどうにか左腕の 小盾(バックラー) でいなしつつ飛び退いて躱したが、その表情には驚きが浮かんでいた。

「あまり効きが良くないわっ!」

再び隙無く構え直したマルセラが状況を報告する。

魔法具による防御策が施された対象以外には劇的な効果を生んできただけに、生身の生物に対して効果が薄いというのは想定外だったのだ。

「分かった! じゃあこいつはどうだっ!!」

それを聞いたリディルが、同じく標準兵装となっている人工魔剣フェリス1型で、逆方向から斬りかかる。

ぞりっという硬いタワシを切ったような音がして、一拍置いてから傷口から血が滴り落ちた。

斬りつけたリディルは深追いせず、飛び退いて再び距離をとる。

「ブルヴァァァッ!!」

謎生物は先程とはうって変わって叫び声を上げると、傷をつけた相手であるリディルへと突進する。

『 風壁(ウィンドウォール) !』

「ヴモッッッ」

走り出してすぐ、ヴィレムを守りつつ様子を見ていたユリシーズが 風壁(ウィンドウォール) の魔法を唱えた。

最初より低く、さらに角度を付けて展開された空気の壁は、謎の生物の足の付け根辺りにめり込むようにヒット、苦悶の声を上げて行き足を止める。

「せいっ!」

「おらっ!」

足が止まったのを見て、マルセラとリディルが謎生物の後方と前方からほぼ同時に攻撃を仕掛ける。

後方から迫ったマルセラは、武器を1型に持ち替えて後ろ足の膝裏を斬りつけ、相手の機動力を奪う。

正面から切り込んだリディルは、角と牙を振り回す動きを冷静に見極めてサイドに流れ、首の付け根の後ろを思い切り斬りつけた。

「ヴフゥゥ…………」

結局リディルの一撃が致命傷となったのか、程なくして謎生物は息を引き取った。

「お疲れ様でした」

敵が動かなくなったのを見て、木陰に身を隠していたヴィレムが歩いて来る。

「これ、魔物なんですかね?」

横たわる見たことも無い生き物に目をやりながら、ヴィレムが誰にともなく訊ねた。

「ちょっと魔核があるか調べてみるか……。マルセラ、手伝ってくれ」

「はいは~い」

ヴィレムの言葉に小さく頷いたリディルが、マルセラと共に謎生物の解体を始める。

魔核――。

それは この世界(エーテルシア) の全ての魔物が持ってる器官のことだ。

むしろ魔核があるものを魔物と呼んでいると言ったほうが正しいか。

表面がゴツゴツした小石のような物質が核となっており、それほど大きくは無い。

ゴブリンであれば小指の爪ほど、オーガでもピンポン玉くらいのサイズで、大概は心臓(のようなもの)の近くにある。

魔石のように魔力を溜める効果があるらしく、普通の動物と比べて魔物が強いのは、この魔核のせいだというのが通説だ。

ただ、魔石のように何か使い道があるという物でもなく、強い魔物を倒した時の勲章代わりに取っておくくらいである。

「お、あったな」

慣れた手つきで探っていたリディルが、やはり心臓の近くにあった物を取り出した。

布で血を軽くふき取ると、親指の爪大の小石のようだ。

「やはり魔物だったね……。ただ、ちょっと形? 色? が違うような……?」

リディルから魔核を受け取ったヴィレムが、陽に透かすように見ながら首を傾げる。

魔核は大きさこそ様々だが、その質感はほぼ同じだ。

艶の無い灰色をしたゴツゴツした小石で、表面には細かな凹凸が無数にある。

対して目の前の謎の魔物から取り出した魔核は、少々黄色っぽい灰汁色をしていた。

また、陽に透かしてみて辛うじてわかるレベルだが、僅かに透明感がある。

どちらも微妙な差ではあるのだが、魔核を見慣れた者からすると明らかに違いがあった。

「消えないので遺跡種ではない事だけは確定ですが、謎が多いですね……」

「どうする? このままにしておくと匂いで他のも寄って来そうだから埋める?」

リディルがヴィレムと共に唸っていると、辺りを警戒していたユリシーズから問いかけが飛んでくる。

「……一旦こいつを持って帰還するか。イサム様にも魔物もだが、この変わった魔核も見てもらおう」

「それが良さそうだね。雷剣の効きも悪かったし、なんか色々変なんだよね」

「りょーかい。今からなら陽があるうちに戻れるし」

しばし悩んでからリディルが出した結論は、一時退却だった。

相手が見知った魔物であれば正確な状況判断が下せるが、よく分からない魔物相手に楽観的な判断は禁物だ。

「ご安全に」がモットーであるマツモト家の騎士達には、それが良く浸透していた。

こうして船島へのファーストアタックは、謎の魔物の亡骸一体を手土産にして終了した。

西日になる前に帰還した四人は、何か緊急事態が発生したのかと心配する勇に事情を簡単に説明すると、ひと風呂浴びてからあらためて詳しい報告を行っていた。

「なるほど、雷剣の効きが悪かったんですね……」

「はい。反応はしてたので全くという訳ではないと思いますが、ちょっと痺れたとかそんな感じじゃないかなと」

デッキにシートを敷いて置かれた謎の魔物――ピギーバイソンと仮称――を、勇が腕組みしながらしげしげと観察する。

織姫をはじめとした猫たちも興味津々で、うにゃうにゃ言いながら猫パンチを繰り出したり匂いをかいだりしていた。

「毛は硬いっちゃあ硬いけど、ボアよりちょっと上ってくらいですかねぇ」

ピギーバイソンの体表を触りながら勇が言う。

「切った時はもっと硬い感じがしましたが……。1型で思い切り斬りつけてこの傷なので」

身体の左側面。最初に1型で傷つけた場所を指しながらリディルが説明する。

「なるほど……。確かにこの硬さの毛だったら、1型でもっと深い傷を付けられそうですね」

リディルの説明に勇が頷く。

実際、領地の森に出てくるフォレストボアなら、きちんと踏み込んで斬りつければかなりの手傷を負わせることが出来る。

それより少し硬いとは言え、もっと深い傷を付けていてもおかしくは無い。

「それに加えてこの魔核……」

「別物だよねぇ」

「……明日は私も同行していいですか? 少し人数も増やしましょう」

勇が手の平に乗せた魔核を見やりながら言う。

「了解です。私ともう一人、ドラスあたりを連れていきます」

横で話を聞いていたフェリクスが答える。

ドラスは、一回目の航海でも同船していた兵士で、マツモト家水兵隊の一期生の隊長を務めている。

「さてと。あとはこのピギーバイソンをどうするかなぁ」

「牙と角、毛皮と革あたりは使えそうじゃな」

翌日からの方針が決まったところで、今度は目の前の魔物の処遇についてに話が移る。

エトの言う通り、ボアと同じような部位は素材として使えそうだ。

「そうですね。持って帰って色々試してみましょうか。じゃあ剥ぎ取って――」

「うにゃうっ!」

「いてっ! 分かった、分かったから爪を立てんなっての!!」

「あれ? バルボさん、どうしたんですか?」

勇が剥ぎ取りの指示を出そうとしたところ、船室の階段から料理長のバルボが上がってきた。

いつの間にか居なくなっていた織姫が頭の上に乗って、そのスキンヘッドをカキカキしている。

「そいつぁ俺が聞きたいくらいでさぁ」

首を傾げる勇に、肩をすくめながらバルボが答える。

厨房で仕込みをしていた所へ織姫が訪ねてきて、甲板へと連れ出したらしい。

「うにゃっ」

その織姫はバルボの頭から飛び降りると、ピギーバイソンの所まで寄っていく。

「にゃふ!」

そして魔石を取り出すために切り裂いた脇腹をテシテシと叩きながら、バルボを見て一鳴きした。

「あん? どうした?」

「…………。姫、ひょっとして食べたいのかい?」

「にゃっふ!」

首を傾げるバルボに対して、ピンと来た勇が織姫へ訊ね返すと、そうだと言わんばかりに満足げに一鳴きする。

「マジかよ……。まぁボアみてぇなもんっちゃもんかもしれねぇがよ……」

そんな勇の言葉にバルボが困り顔で頭を掻く。

「少なくとも食べられる事は間違いないはずです。私達が食べられないものは、絶対に勧めないですから」

「まぁなぁ。海の魔物もそうだったしな……。よっしゃ、いっちょやってみっか。ちょいと道具と若ぇの連れてくっから待ってろ。おいマルセラ、その間に皮剥いどいてくれ」

「はいよ~」

そう言い残して、バルボは船室へと戻っていった。

数時間後。

陽が落ちかけた頃、船内の食堂は喧騒に包まれていた。

「おっちゃん! この肉めちゃ美味しいじゃん!!」

「ガッハッハ、驚いたか? まぁ俺も驚いてんだがよ! ガハハハハ」

急遽食べることになった謎の魔物ピギーバイソン。

それを食べた者たちと作った者たち、双方の歓喜の喧騒である。

「凄いな、これは……。豚っぽさもあるけど、上質な牛っぽい感じだ」

「美味しいですね……。ワイバーンも美味しかったですけど、これはそれに匹敵するのでは?」

ステーキにされた肉を食べた勇とアンネマリーも、その美味しさに目を見開いていた。

「いやぁ、こいつぁとんでもねぇ肉でさぁ。旨味の強い肉ってのは大概硬いんですがね。こいつぁ柔らかいし脂もしつこくねぇ」

驚く勇たちのところへやって来て、バルボが料理人らしい説明をしてくれた。

そんな高級和牛に匹敵するピギーバイソンを含め、船島の謎に迫るべく明日は勇も自ら上陸を敢行する。

「ちょっとマングローブっぽいのかなぁ……?」

翌朝。無事船島への上陸を果たした勇は、その植生を見て独り言ちた。

下に水があるわけでは無いのだが、複雑にうねる根と絡み合う蔦が、何となくマングローブっぽい。

「この少し先ですね、ピギーバイソンと遭遇したのは」

慎重に歩を進めながら、先頭を行くリディルが言う。

その言葉に一同の間に緊張が走り、そこからは無言での探索となった。

「にゃふ」

十分ほど探索を続けていると、勇の頭の上にいた織姫が地面へと降り立った。

そのまま小走りで駆けて一団の先頭で足を止め、森の奥を凝視する。

「フーーーッ」

数秒後、背を丸めて威嚇の態勢に入った。

同行する騎士達は、織姫が地面へ降りた時点で既に臨戦態勢に入っている。

二年以上織姫と共に探索をしている彼らは、危険が迫っている時の彼女の行動を熟知していた。

「ヴァフウッ!!」

「ヴァンヴォン!!」

程なくして、織姫が見ていた茂みから二匹の生物が飛び出してくる。

しかしそれは、昨日倒したピギーバイソンでは無かった。

「狼かっ!?」

「犬っ!?」

敵を視認したフェリクスと勇の声が被るが、その内容は微妙に違う。

体長は二メートル程か。ぱっと見は大型のイヌ科の獣のようだ。

ただ、狼にしては毛足が長すぎる上マズルが短いし、犬と呼ぶには閉じた口から見えている牙が長すぎるし体格が良すぎる。

さらに勇の目は、そのどちらとも異なる決定的な違いを捉えていた。

「魔力光!? しかもなんで違う属性なんだ……?」