軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第263話●シャルルドール港にて

今回の勇達の船旅は、大小四隻の船によって船団を組んでいる。

勇は港へと向かう旗艦の甲板から、前を行く二隻の小型船と、後ろから付いて来る大型の双胴船を眺めて、ここ数ヶ月を思い返していた。

まず四の月中旬に十メートル級の小型船の試作に成功した後、すぐにウォータージェットのノズルを独立制御に換装する。

船体自体は破損する事も想定して二隻分作っていたので、程なくして二号艇も完成した。

続いて六の月の中頃、現在旗艦となっている試作三号艇が出来上がる。

一、二号艇よりも二回り以上大きい、全長十八メートル、全幅五メートル程の船だ。

こちらはこれまでの船とは違い、甲板下に船倉を作ったり、船首や船尾に小さいながらも船楼を設けるなどして、より外洋船の試作艇としての色が濃くなっている。

そんな大型化した船体には、ついに強化の魔法陣が施された。

丈夫なゴールドシダー製なので強度に大きな問題は無いのだが、外洋に出るのであれば強度が強くて困る事は無いので、先行実験として実装されている。

推進装置としては、出力を上げたウォータージェットが二機、個別制御できるように搭載された。

万が一推進器が使えなくなった時の保険として甲板には縦帆用のマストが一本建てられているが、こちらはほぼ帆船に見せかけるためのダミーのようなものだ。

また、地球基準で考えるとそれほど大きな船ではないのだが、場所をとるエンジンや燃料タンクが無いため、積載量は地球の船と比較して多い。

甲板の一部は大型の床下収納のように上方に開けられるようになっており、船倉スペースへ直接アクセスできるようになっている。

この特殊な船倉は、駐機姿勢の 魔法巨人(ゴーレム) を搭載するための専用スペースだ。

広い甲板下船倉があるとは言え、高さには制限がある。

バラすことが出来る魔動車なら積み込めるのだが、高さのある 魔法巨人(ゴーレム) を入れるのは難しい。

かと言って甲板にそのまま置いておくと、固定してあっても高波等で転がっていくリスクがあるし、重心も高くなって危険だ。

それを解決するための苦肉の策である。

動きの自由度が高く、クレーンやスロープなどを使わずに穴に入りしゃがむことが出来る 魔法巨人(ゴーレム) ならではの積載方法だろう。

設計上どうしても少々強度が落ちるのだが、その辺りは強化の魔法陣でカバーしている。

そんな三号艇が出来上がった少し後、最後の一艇である双胴船が出来上がった。

こちらは新造ではなく、もともとレベッキオの商会が保有していた川舟を改装したものだ。

マツモト家の船だけでは積載量が心許ないため、輸送船として同行させるのが目的である。

元々船としての素性は良いため改装は軽微で、ウォータージェット推進器を取り付けたのと、船体に軽めの強化の魔法陣を施した程度だ。

レベッキオの主戦場であるルサルサ河は南西方向に下ってメーアトル河と合流しているのだが、中流域に入った辺りで南東方向へ分流する非常に珍しい河川である。

南東側の川はメルビナのある王国東部の湾へと注いでいるため、ヤンセン領で改装後一度川を下ってメルビナへとやってきていた。

分流していなかったら陸路で運ぶか、シャルトリューズ領のさらに西部にあるメーアトル河の河口から海へ出て戻ってこなくてはいけないので、大変な事になっていただろう。

こうして出来上がった四隻の船で船団を組んだ勇達は、七の月の中旬にメルビナの港を出港した。

騎士達はもちろん、船乗りや船大工などの総勢三十名に加え、新造船に取り付ける予定のパーツや 魔法巨人(ゴーレム) 、魔動車まで積んでの大移動である。

海難事故を避けるためなるべく沿岸に近い海路を選んで進んだ一行は、途中何度か数少ない港に寄港しつつ五日目の今日、無事ここシャルルドール港へと到着したのだった。

旗艦を係留し、架けられたタラップを降りてきた勇達の前には数名の騎士と思われる一団が整列していた。出迎え、護衛するための人員だろう。

「マツモト様、長時間の船旅お疲れ様でした」

勇がタラップから降りると、一歩前に立っていた一人の騎士が声を掛けてきた。

「ああパルファンさん。ありがとうございます」

見知った顔に勇が笑顔を見せる。

出迎えてくれたのは、合同討伐等で親しくなったシャルトリューズ騎士団副団長のパルファンだった。

「ようこそ、シャルルドールへ!」

「あはは、口調は前のままでいいんですけどね……。そういう訳にもいかないかぁ」

握手を交わしつつ勇が苦笑する。

「さすがに貴族家当主となった方に対してこれまで通りという訳にもいかぬので。プライベートな場ではお言葉に甘えさせていただきます」

そう言いながらパルファンが一瞬ニヤリと笑った。

公の場で一騎士が貴族家当主と対等な口を利くと、その騎士の主である領主が常識無しと思われてしまう。

個人的に親しい間柄とは言え、円滑な付き合いをするためにはこうした建前も重要なのだ。

「遠路お疲れのところ申し訳ありませんが、本日はご挨拶だけでもお願いしたいと申し伝えるよう、主より仰せつかっております。館へとご案内いたしますので、ご同行願えませんでしょうか?」

「ええ、もちろんかまいませんよ。ミゼロイ、荷下ろしは明日でよいので、 当直(ワッチ) を残して宿へ向かってください」

「かしこまりました!」

勇はパルファンの申し出に頷くと、ミゼロイにこの後の指示を出す。

フェリクスは勇の護衛として同行するので、その後を仕切るのは副騎士団長であるミゼロイの仕事だ。

「ありがとうございます。では、こちらへどうぞ」

敬礼を返したパルファンの案内で、勇とアンネマリー、護衛のフェリクスとリディルが送迎用の馬車へと乗り込んだ。

装飾が随所に施された、いかにも貴族然とした豪奢な馬車だ。

「出してくれ」

「かしこまりました」

同じ馬車へと乗り込んだパルファンが御者に短く指示を出すと、馬車がゆっくりと動き始めた。

「ふぅ、あらためてよく来てくれたイサム殿。フェリクスもリディルもようこそ」

馬車が動き出した所で、パルファンはようやく表情を崩して大きく息を吐いた。

「あはは、お久しぶりですパルファンさん」

「ああ、久しぶりだな」

「お久しぶりです」

それを見た勇たちも相好を崩した。

「前に来た時は、丁度遠征していたんだったか?」

「ああ。街道近くにはぐれの魔物が出た故な、討伐に出ていた」

フェリクスの問いにパルファンが答える。

試作艇を作り始めた時に海洋船のイロハを学ぶため、勇達は一度ここシャルルドールを訪れていた。

その時パルファンは、ちょうど自領に出た魔物を討伐するための遠征に出掛けていたのだ。

今年の合同討伐以来なので、半年以上振りの顔合わせである。

「ああ、そうだ。その遠征の折、以前いただいた魔剣に大いに助けられたのだ。あらためて礼を言いたい。ありがとう」

「おお! お役に立ったのなら良かったですよ」

「魔剣が役に立ったという事は、強力な個体がいたのですか?」

パルファンの言葉にリディルが聞き返す。

「うむ。オークに交じってオーガが二体いたのだ」

「あーー、どっかで聞いたような話ですねぇ」

勇が、かつてヤンセン家、クラウフェルト家であった魔物による襲撃事件を思い出して苦笑する。

「オークごときには後れはとらぬが、オーガとなれば話は別だ。生半可な武器では太刀打ちできん。何人か怪我人は出たが、あの魔剣のおかげで大きな被害も無く無事討伐できたのだ」

「確かにイサム様の魔剣は凄いが、扱うものの腕が無ければ宝の持ち腐れだ。パルファンの腕あってのものだろうよ」

「フッ、そう言ってもらえるとありがたい」

そんな話で盛り上がっているうちに、あっという間にシャルトリューズ侯爵の館に到着し、馬車が止まる。

パルファンに促されて勇が馬車を降りると、馬車寄せのエントランスに見知った顔を見つけた。

「やあ、マツモト男爵。慌ただしくて済まないね」

見知った顔――金の長髪を靡かせた老齢の男性が声を掛けてくる。

オーギュスト・シャルトリューズ侯爵その人だ。

「これはシャルトリューズ閣下! わざわざお出迎えいただき恐縮です」

まさかの侯爵本人の出迎えに慌てて礼をする勇。

「いや、無理言って来てもらったのはこちらだからね。出迎えくらいするのは当然だよ」

そう笑いながら言うシャルトリューズ侯爵だったが、侯爵が男爵をわざわざ出迎える事はほとんど無い。

実際、以前王都でシャルトリューズ侯爵を訪ねた際に出迎えたのは家令だった。

引き続き機嫌良さそうに微笑みながら館へと入っていく侯爵の後ろを、何とも言えない表情でついて行く勇だった。

「さて、あまり時間も無いし、まずは主題をさっさと話をしてしまおうかね」

応接室に入って勇とアンネマリーがソファに腰掛けたのを確認した侯爵が、早速口を開く。

「まず船についてだがね、明日の午前に視察できるよう話は付けてある。宿まで迎えの馬車を寄こすから、それで造船所まで来るといいよ」

「かしこまりました。わざわざ迎えを出していただきありがとうございます」

「なに、かまわんよ。ああ、昼を挟んで午後も引き続き造船所で過ごす予定だよ。色々と確認したり、この後の工程についても調整したいだろうからね」

「ありがとうございます。助かります」

侯爵の申し出に勇が軽く頭を下げる。

侯爵の言う後工程とは、造船の主体をシャルトリューズ家からマツモト家に引き渡した後の話のことだ。

今回の造船は、両家の共同開発となっているが、その製造工程は大きく二つに分かれている。

前半であるシャルトリューズ家側の工程では、船の構造体と外装、床や壁と言った一部の内装を作るところまでだ。

そこからマツモト家側の工程となり、内装の続きや魔法具の実装などを行い完成となる。

マツモト家には建造中の船のサイズを作ることが出来る造船所がまだ無いため、ほとんどの作業をここシャルルドールで行う。

外装強化の魔法陣の実装など、秘匿したいクリティカルな部分は持ち帰ってからやるつもりだが、それ以外はこちらでやるしかない。

推進装置などの基幹パーツは、デチューンしたものを持ち込んだりもしているが、ある程度漏洩するのは織り込み済みだ。

外洋船のノウハウの一部を提供してもらってもいるので、お互い様だろう。

「で、明日の夜なんだがね。せっかく遠路来てもらったのだから、小規模なパーティーを開こうと思っているのだが問題無いかね?」

「パーティー、ですか?」

思わぬ誘いに思わず勇が聞き返す。

晩餐であれば良くある話だが、パーティーとなると誕生日やら何かしらのイベントが無いとそうそう開かれることは無いのだ。

「ああ。当家と貴家だけの小規模なものだがね。もちろん今回同行している者たち全てに参加してもらえる気軽なものだよ。いかがかね?」

相変わらず微笑みながら問いかける侯爵。

「お誘いありがとうございます。同行者含めて是非参加させてください」

急な話ではあるが、特段断る理由もないため了承する勇。

「うむ。快諾してもらえて嬉しいよ。ちょっとした余興も準備しているから、楽しんでもらえるはずだよ」

勇の返事を聞いて、満足そうにシャルトリューズ侯爵が頷いた。

その後は、引き続き氷の魔石の売り上げが好調だとか、機会があれば猫を迎え入れたいのだとか、雑談に近い話をして懇談は終了する。

時間にして一時間ほどか。侯爵の宣言通り、ごく短い時間での懇談であった。

「私は初めてシャルトリューズ閣下にお会いしたのですが、何やらとても機嫌が良さそうでしたね。いつもあのような感じなんでしょうか?」

宿へと向かう馬車の中で、同席していたアンネマリーが勇に尋ねる。

「ああ、やっぱりアンネもそう思ったかい? 元々物腰は柔らかい方だけど、あそこまで機嫌が良さそうだったのは初めてだよ。まぁ機嫌が悪いよりいいんだけどね」

その問いかけに、勇も小さく首を傾げながら苦笑した。

結局侯爵の機嫌が良かった原因は分からずじまいだったが、侯爵が何気なく言っていた“余興”の所為だった事を勇達が知るのは、すぐ翌日の夜の話である。

「おおおおっ!! これは立派ですねぇ!!」

「ったりめぇよ! 王国一の船大工であるジルデッリ様が作ったんだからよ!」

「こらジル! てめぇマツモト様になんて口きいてやがる!!」

シャルルドールへ着いた翌日。共同開発している外洋船を見に造船所を訪れた時の一幕だ。

現在建造中の船は、全長およそ三十五メートル、全幅十メートル程だ。

海へ浮かべてしまえばそこまで大きく感じないサイズではあるのだが、造船所は屋内。

海上では水中に浸かっている部分も含めて見えることも手伝い、その大きさは圧巻だった。

それを見た勇の第一声が、冒頭の台詞である。

その言葉に対して自信満々で答えたのが、自身で名乗った通りジルデッリと言う名の船大工だ。

ここシャルルドールに大きな工房を構える船大工の棟梁で、この造船所も彼の商会とシャルトリューズ家が共同出資して建てたものだ。

王国一と嘯いているがその腕は確か。こと外洋船に関しては文字通り王国一だろう。

その不遜な物言いにダメ出しをしたのはレベッキオだ。

普段の彼とそこまで差は無いけどな、と内心勇は思っていたのだが、彼にとっては違うらしい。

「はっ、相変わらずうるせぇヤツだな。マツモト様が良いっつってるから良いんだよ!」

「良いわけあるか! 大体てめぇはいつもそうだ。あの時も――」

そのまま二人の口論はエスカレートしていくが、二人とも本気で怒っている様子は無い。

それもそのはずで、二人はかつて同じ師匠の下で船の作り方を学んだ同弟子らしい。

年も近くお互い切磋琢磨するライバル同士だったそうだ。

その後レベッキオは川舟を、ジルデッリは海船を作る工房を立ち上げ今に至っている。

「さぁマツモト様よ。俺様自慢の船を、じっくり見ていってくれ!!」

胸を張って言い放つジルデッリ。

こうしてシャルルドール滞在二日目、外洋船の視察が始まった。