軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第242話●バンドやろうぜ!

夕食後、マルセラの仕分けてくれたキラークズリの髭を使って魔道ギターのプロトタイプが完成した。

基準となるA4のラの音の周波数が合っているかどうかまでは分からないので、絶対的なチューニングが地球と同じと言う訳ではない。

しかしマルセラの絶対音感のおかげで相対的な音のズレは無くなっていた。

勇は、そんなチューニングが終わった魔道ギターを弾くための準備を、テキパキと行っていく。

「ふむ、それが“しーるど”っちゅう接続用の線か」

「ええ。元の世界では、外部からの影響を受けないよう特殊な構造をしたケーブルの事をそう呼んでいたので、その名前を使おうかと」

シールドケーブル――その名の通り、外部からのノイズの影響を受けないようシールド構造を持ったケーブルだ。

エレキギターの電気信号は、外部ノイズの影響を受けやすいと言われているので、アンプとの接続にはシールドケーブルが使われている。

ある程度電気楽器を弾いたりバンド活動をしたことのある者は、このケーブルの事を通称である“シールド”と呼ぶことが一般的ではないだろうか。

なので、この世界で勇が作ったケーブルは別にシールド構造では無いし形状も違うのだが、何となくそう呼ぶことにしたのだった。

「よし、これで接続完了っと」

シールドで魔道ギターとアンプ内蔵魔道スピーカーを繋いだ勇は、小さく深呼吸をしてから優しくストロークした。

シャーーン

まずは一番簡単なEmコードを弾いてみる。

かつて散々聞いた懐かしい和音が、何とも言えないクリアーな音色でスピーカーから流れてきた。

音の感じとしては、アコースティックギターとスチールギターの中間のような音だろうか。

エフェクトによる歪みが無く、ダイレクトに弦の音を増幅再生しているので、納得の音色ではある。

しっかりチューニングできているからなのか、和音にも違和感は感じられない。

何度かストロークした後、コードを変えてさらに弾いていく。

EmからC、CからD、そしてGへ。Gメジャーの定番コード進行だ。

ちなみにこれをCメジャーにすると、九十年代にミリオンヒットを連発、一世を風靡した超有名キーボーディスト兼音楽プロデューサーが多用したコード進行になる。

「ふーーっ、久々に弾いたけど、指が覚えててよかったぁ」

三十秒ほど同じコードを弾き続けた勇が、ほっとした表情でため息交じりに言う。

「素晴らしいですね。どこか切ないのに力強いような……」

じっと聴いていたアンネマリーが、少しうっとりした表情で感想を口にする。

「あはは。前の世界では定番中の定番だったからね。実績があるコードはやっぱいいよね」

この世界(エーテルシア) にも和音の概念はあり、こちらの弦楽器でも演奏されてはいるが、音楽が巨額のお金が動く一大ビジネスになっている地球と比べると、まだまだ発展途上だ。

このコードも自分が作ったものでも何でもないので謙遜する勇だが、試行錯誤が繰り返されて定番化したコード進行が、こちらの音楽に与える影響は非常に大きいだろう。

その後も色々なコードを試していた勇の心に、徐々にバンドを組んでいた高校生の頃のテンションが蘇ってきた。

その勢いで、せっかくならと一曲歌ってみることにする。

これまでとは違ってやや真剣な表情でギターを弾く勇が歌い出したことで、アンネマリーを始め一同目を丸くするが、何とも言えないそのメロディと歌詞に徐々に耳を奪われていった。

勇が歌い始めたのは、彼が高校生の頃にコピーしていた、幼稚園からの幼馴染で結成されたという4ピースバンドの曲だ。

夜中に望遠鏡を担いで踏み切りに行く曲が大ヒットして一躍スターダムにのし上がった彼らは、当時のバンドキッズの多くがコピーした定番中の定番だろう。

そんな彼らの曲の中から勇がチョイスしたのは、インディーズ時代のとある曲だった。

地球の事を知らなくても歌詞の内容が分かる曲として選んだ、不吉だと嫌われる黒猫と貧乏な絵描きの織り成す物語だ。

イントロ無く始まった曲を、勇が弾き語りで歌っていく。

――嫌われ者だった黒猫は、はじめは絵描きの優しさを信じられなかったのだが、やがて心を許して友達になる。

黒猫に 聖なる夜(ホーリーナイト) と名前を付け、貧しくも幸せな日々を送る一人と一匹。

しかし幸せは長く続かない。貧しい生活に絵描きが倒れてしまったのだ。

故郷に残した恋人への手紙を黒猫に託し、ついに息を引き取る絵描き。

絵描きが倒れたのは、不吉な自分の絵を描き続けたためだと自身を責めながら、黒猫は絵描きの故郷へとひた走る。

ボロボロになりながら絵描きの故郷へと辿り着き、その恋人へ手紙を渡す黒猫。

しかし道中に襲い掛かった悪意と暴力は、小さな彼の身体には余りにも過酷過ぎた。

やがて息を引き取る黒猫。

恋人は、黒猫の勇敢に約束を守り抜いたその姿に敬意を払い、彼の名に一文字加えて墓標に刻む。

聖なる騎士、 ホーリー(holy) ナイト(Knight) と――

後奏無く曲が終わると、研究室に静寂が満ちる。

途中から目を閉じて歌っていた勇が目を開けると、研究室にいた全員がいつの間にか勇の前に集まり、同じように目を瞑っていた。

「えーっと、どうでした――」

「素晴らしいですっ!! とても素晴らしい曲ですね!!!」

「お前さん、歌も歌えたのか!!」

「国中をうろついてたけど、こんな曲聞いた事が無いね!!」

「感動しましたっ!!」

「ううっ、黒猫が、黒猫がっ!!」

「うわわわっ!」

反応が薄かったため感想を聞こうとした矢先、全員から食い気味に詰め寄られ思わず後ずさる勇。

ミゼロイなどは、その詞の内容に号泣していた。

「良い曲と言ってもらえてよかったです。当然私の作った曲じゃないんですが、大好きな曲なんで」

皆が落ち着いたところで、再び会話が始まる。

元々は物語性があって面白い曲だな、くらいにしか思っていなかった勇だったが、織姫を飼ってからその評価が大きく変わった。

より悲しいと思うようになった反面、大好きな曲の一つになったのだ。

そしていつしか、同じバンドに猫(ネコ科の生き物)が死んでしまう曲が多い事に気付き苦笑しつつも、こちらの世界へ来る直前まで聞き続ける大好きなバンドになっていた。

「儚いけど力強い曲と詩に、このギターの音がよく合いますね」

「メロディだけじゃなくて、歌の伴奏にもってこいな感じだねぇ」

貴族として一般人よりは多くの音楽に触れているであろうアンネマリーと、遺跡を巡る傍らで各地の音楽を聴いて来たであろうヴィレムが、口々に感想を述べる。

「そうですね。曲だけを弾くことも当然ありますけど、どちらかと言うと今みたいに歌の伴奏として使われることが多かったですね」

その言葉に頷きながら勇が答える。

「イサム様、この魔道ギターを私にも作ってもらう事は可能ですか?」

そこへ、マルセラが真剣な表情で尋ねる。

「ええ。エトさんに本体さえ作ってもらえれば、あとはほとんど手間は無いですからね。弦を張るのは、それこそマルセラさん頼みですし」

「ありがとうございます!! ちょっと衝撃を受けてしまって……。どうしても弾けるようになりたいんですよ!」

「あはは、それは良かったです。じゃあ、簡単な弾き方の説明書きも書いておきますね。弾けるようになるまで、結構練習する必要もありますし」

「助かりますっ!」

「イサムさん、私にも弾き方を教えてください!」

「私にも是非っ!!」

それを見ていたアンネマリーとミゼロイも、勇へ詰め寄る。

「わ、分かりました! あーー、そうだ。どうせだったら、アンネもミゼロイさんも、違う楽器を試してみませんか?」

「違う楽器ですか?」

詰め寄られた勇が、思い出したように聞き返す。

「ええ。このギター、特にエレキギターは、単体じゃなくていくつかの楽器を弾く人と歌を歌う人が集まった“バンド”というグループで使われることが多いんですよ」

そう言いながら勇がバンドについて簡単な説明をしていく。

ギター、ベース、ドラム、キーボード……。王道とも言える楽器の特調や役割についての話などだ。

「――とまぁ、こんな感じですね。で、今回の音を増幅する魔法具で、それらの楽器も作ろうと最初から思ってたんですよね」

「えっ、そうなんですか?」

「うん。昔バンドを組んでた時に、遊びで他の楽器もみんなでワイワイ触ってたから、最低限のことは分かるからね。上手くいけばバンド組めるし。それに……」

「それに?」

「このシールドとアンプの仕様も、最初から全て共通化した規格にしようと思ってるんだ。そうすれば、楽器本体だけ持ち歩けば演奏できるし」

楽器そのものから大きな音が出せない場合、それを増幅する装置の仕様共通化は必須だろう。

逆にそこさえ共通化出来れば機材が共用できるため、演奏場所の自由度がぐっと広がる。

「でもそれだと楽器を独占できんが良いのか? これは画期的じゃからな。貴族は飛びつくぞい?」

「ええ、大丈夫です。当面シールドとアンプは独占出来ますし。それに楽器は、色んな種類があったほうが絶対楽しいですし、広がりますからね」

エトの質問に悩むこと無く答える勇。

独占すれば多少の富を得ることは出来るだろうが、音楽もといバンド形式が市民権を得ることも無い。

勇としては、地球にいた頃のように様々な音楽が身近にあふれる事のほうが重要だった。

なので、演奏方法も無償で公開するつもりだ。

「くっくっく。なるほど、勇らしいっちゃあ勇らしいの。分かった、じゃあ早速今日から他の楽器も試作を始めるか」

「ええ。よろしくお願いします。えーっと、まずはベースですが、これは…………」

こうしてその日から、四ピース、五ピースバンドを組めるようにするための、複数の魔道楽器作りが始まった。

ベべンベンベン――

ドン チッ タン チ ドン チッ タン チ――

シャーン シャカシャーン――

それからおよそ十日後。研究室は様々な楽器の音で溢れかえっており、さながら練習用のスタジオのような有様である。

いくつかのグループに分かれて音を出しているようだ。

「おー、お嬢様お上手ですね! もうほとんどのコードが弾けているのでは?」

「ええ。イサムさんに毎日教えてもらったのよ」

「なるほど。それは羨ましい」

簡易なドラムセットのようなものに座り、真剣な表情で初歩的なエイトビートを刻んでいたミゼロイが、その前でベースのような楽器を弾いていたアンネマリーを褒める。

リズム隊同士で練習をしているのだろう。

ベースについては、先に作ったギターとほぼ同じ構造で、ネックの部分を二十センチほど延ばして弦の数とフレットの数を減らしただけだ。

音が鳴る仕組みは同じなので、ギターを作った翌日には完成する。

アンネマリーはそれ以降、自宅でも研究所でも、勇に手取り足取り教えてもらいながら腕を磨いてきたのだった。

対してドラム作りは一番難航した。

まずそもそも、構成している楽器の数が多い。タムタムなどのいわゆる太鼓だけでも五つ、ハイハットなどのシンバル系が三つ必要になる。

また、バス・ドラムとハイハットは足でペダルを踏んでコントロールするため、その機構も必須だ。

これがエレキドラムであれば、音自体は別で鳴らすのでまだ良いのだが、勇の作った魔道楽器は音を増幅するだけなので音色はその楽器から出なければならない。

この世界(エーテルシア) にも当然何種類かの太鼓やパーカッションはあるので、近隣で最も栄えている寄り親のビッセリンク伯爵領の領都まで繰り出して、それらを調達。

使えそうなものはそのまま使い、合う楽器が無い物は木や魔物素材を使って自作する事になった。

幸い太鼓もシンバルも、原理自体は単純なので、色々な素材を片っ端から試して、良さそうな音が鳴る組み合わせを見つけるのが作業の大半である。

また、音量は魔法陣で増幅または減衰できるので、そこを考慮しなくても良かったのは非常にありがたかった。

そうして出来上がったなんちゃってドラムセットを見て勇は、動画サイトで見た昔のバンド対決番組の、三代目グランドキングのランニングの人が使っていた風呂桶パーカッションセットのようだと、内心で苦笑していた。

「くぅぅ、このFコードっての、なんて押さえにくいのよ……」

「うがーっ、指がつったっす!」

少し離れた場所で、ギターを抱えたマルセラとティラミスの女子二人組は、顔を歪ませ悪戦苦闘していた。

ギターを弾く上でほぼ必ず立ち塞がる最初の壁、Fコードにぶち当たっていたのである。

(あー、やっぱりこっちでもFは難しいのかぁ……)

その様子を見ていた勇が内心で呟く。

Fコードは割と頻繁に登場する上、人差し指で全ての弦を押さえる“セーハ”という手法が必要なため、慣れるまでは中々大変なコードなのだ。

「お前らは勢いと感覚で弾こうとするからそうなるんだ」

「ですねぇ。これも親指の位置と人差し指の押さえる場所を工夫すれば……」

シャーーン

「こんな感じで弾ける」

「「ぐぬぬ……」」

一方男子同士で仲良くギターを弾いていたフェリクスとリディルは、多少苦労はしたものの見事にFコードの壁をクリアしていた。

理論派の二人は、どうすれば弾きやすくなるかを論理的に考え実践、結果を元にさらに改善していくというスタイルで、確実にマスターしていっていた。

それを見た感覚派の女子二人が唸り声を上げる。

(んー、最初は別にDm7で代用してもいいんだけど……。Bでもセーハは必要だし、このまま頑張ってもらおう)

自身も同様にFに苦戦し、その後出てきたBでも同じように苦戦したことを思い出し、見守る事を決める勇だった。

他にも、自分に合った一回り小さなドラムセットを作って楽しそうにそれを叩くエト。

何やら詰将棋でもやっているかのような面持ちで、一音ずつ魔法ピアノあらため魔道キーボードを弾くユリシーズ。

それを苦笑しながら横目で見つつ、どうにかきらきら星を弾くヴィレムと、チームオリヒメは結局全員が何らかの楽器に手を出すに至っていた。

(よかった。これならバンド文化は この世界(エーテルシア) でも広がってくれそうだ。将来、どんな曲が生まれるか楽しみだ)

そんな皆の様子を見て回った勇が、満足そうに頷く。

「にゃっにゃっにゃっふにゃ~~」

そして各グループを回っては楽しげに踊る織姫の身体が薄っすらと光っていたのだが、皆自分の楽器の練習に必死で、またしても誰もそれに気が付かないのであった。