軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第233話●村興しの算段

「フェリクスさんも一度試してもらって良いですか? これくらいのサイズであれば、フェリクスさんの魔力量なら問題無いと思います」

今後の目途が立ったところで、勇がフェリクスにも石柱の顕現を依頼する。

フェリクスの魔力量は勇よりやや少なめ――平均程度なので、彼が無理なく同じことが出来れば、桟橋の建設はほぼ間違いなく大丈夫だろう。

「どの辺りに出しましょうか?」

「あーー、そうですね……。せっかくなので、私の出した所から浜側へ三メートルくらいの位置へお願いできますか? そのまま実際の桟橋の一部に出来ますし」

「了解しました!」

位置確認を終えたフェリクスが、魔力を練り上げる。

『 天地杭(グランドスパイク) !』

ドパン!

おおよそ狙った通りの場所に、勇の出した石柱よりわずかに太い石柱が顕現する。

水深がほぼ変わらないためか、水面から顔を出している高さは同じだ。

「おお、良い感じですね! 魔力の方はどうですか?」

「これならまだ何度か使っても大丈夫そうですね」

勇の問いかけに、手を何度かグーパーさせながらフェリクスが答える。

天地杭(グランドスパイク) は、そこそこ魔力の消費量が多い魔法だ。

勇の 能力(スキル) で旧魔法化したことで死に魔法ではなくなってはいるが、効果が高くなったが魔力消費量自体が減ったわけではない。

「うん、それなら支柱作りは問題無さそうですね」

「念のため、深場だけはユリシーズ辺りに任せましょうか?」

「そうですね。ユリシーズさんとリディルさん、マルセラさんにも協力してもらいましょう」

「了解しました」

「そうだ、アベラートさん」

「は、はい、なんでしょう?」

目の前で繰り広げられるあり得ない状況に呆けていた村長のアベラートが、勇の声掛けで我に返る。

「勝手に桟橋作る話で盛り上がっちゃいましたけど、ここに桟橋作っちゃって大丈夫ですかね?」

「え、ええ。もちろんです。もう少し大型の船が使えると本格的な漁も可能になりますし、上手くいけば小型の貨物船も使えるので、願ったりかなったりです」

「それは良かった。ちなみに木材の都合って付けられますか? 支柱は魔法で立てますけど、それ以外の橋桁や床板なんかはほぼ木材になるはずなので」

「はい、クラウフェルト領との領界にある町が材木を扱っておりますので、取り寄せられるかと」

「おお。であれば、多分一週間もあれば桟橋は作れそうですね」

「い、一週間ですかっ!?」

想定外の早さにアベラートが再び絶句する。

桟橋など作った事は無いが、百メートルを超える建築物を海の上に作るということは、そんなに簡単なものでは無い事くらいはアベラートにも分かる。

「まだ正式に私の領になったわけでは無いので着工はしませんが、橋桁と床板用の木材の手配をお願いします。費用はマツモト家に回してください」

「か、かしこまりました!」

「よし、これでまず一つ村興しの方向性が決まったな。そんなに予算もかけられないから、魔法で何とかできそうなのはありがたいね」

「……そういうことにしておきます」

嬉しそうに頷く勇に、フェリクスが小さく呟いた。

旧魔法が使えるから安く上がるだけで、普通であればこのレベルの結果を新魔法で実行できる人間――それこそサミュエル・フェルカー侯爵レベルだ――を雇うことなど出来ないので、事実上不可能な方法だろう。

その後岸に戻った勇達は、再びアンネマリーらも交えて桟橋の出所となる浜辺を確認したりして過ごし、村長の家に一泊した。

翌日。朝食を摂って一休みした後、今度は海岸方面ではなく丘側の視察に出かける。

「おーーっ、広い!! そしてこの時期でもそこそこの背丈になってるんですね」

「ええ。もう少し大きくなったところで冬越しをして、春先には一斉に開花します」

「この広さで一斉に花が咲いたら、さぞや綺麗でしょうねぇ」

「はい。この村の自慢ですよ。マツモト男爵様が就任されるのが三月ですから、ちょうど見頃かと」

最初に見に来たのは、主要な産物であるアブラナ畑だ。

昨日は上から見ていただけでいまいち規模感が分からなかったのだが、近くで見てみるとかなり広大なのが実感できる。

草原のようになっているアブラナ畑の隣には、様子が異なる同じくらいの広さの畑があった。

よく見てみると、そのうちの半分ほどは土が露出しているだけだが、残りの半分には小さな芽が一面に出ていた。

「こちらは?」

「芽が出ているのはソラマメですね。少し前に発芽しました。何もない所はトマト用の畑になります。こちらは温かくなってからの植え付けですね」

アブラナは連作障害が出るので、隔年で別の植物を育てているのだ。

ソラマメもトマトも塩害に強い植物らしく、連作対策には丁度良いらしい。

ぐるりと畑を見回っていると、所々にどこかで見た事があるような木が生えているのが勇の目に入った。

樹高は二メートルほどのものもあれば五メートル近いものもあるが、いずれも同じような青々とした葉が茂っているところ見ると、同じ種類の常緑樹のようだ。

そのうちの一本に近づいてみると、青々とした葉は細長く、裏側には薄っすらと毛のようなものが生えていた。

「これ、オリーブの木じゃないのか?」

見た事があるなと思っていた木は、どうやらオリーブの木のようだった。

数年前に小豆島へ旅行に行ったのだが、そこで見たオリーブの木にそっくりなのだ。

「でも、実が生ってないなぁ。確かこれくらいの時期から収穫だったはずだけど……」

「“秋空梨”がどうかしましたか?」

「秋空梨?」

オリーブのような木を見て首を傾げている勇に、村長が声を掛けてきた。

「ええ。実の生り方が気まぐれなので、この辺りではそう呼ばれています。基本的にはほとんど生らないのですが、偶に鈴なりに生ったりするんです」

「なるほど……。食べたりは?」

「しないですね。ほとんど生らない上、渋みが強くて……。放っておくと鳥が全部食べてくれるので、放置しています」

「ふむ。これとは別の所に生えている秋空梨も見てみて良いですか?」

しばし顎に手をやって何事か思案した勇は、目の前の葉っぱを数枚千切ると、村長に案内してもらい他の秋空梨を見て回った。

「お、やっぱりあった!」

そして五本目の木のところで、最初の木から千切ってきた葉っぱとその木の葉っぱを見比べていた勇が顔を輝かせる。

「何を見つけたのですか?」

嬉しそうに葉を見比べている勇の肩越しに、アンネマリーが覗き込んだ。

「これによく似た植物が向こうにもあってね。それは、自家不結実性のものが多かったんだ」

「自家不結実性、ですか?」

「うん。一本の木だとほとんど受粉しない植物の事。別株なら種類が同じでも大丈夫な事もあるけど、別の種類のほうが確率は高くなったはずだよ」

勇の言う通り、地球のオリーブの木は自家不結実性のものが多い。

品種改良やらで昨今は自家結実可能な種類も増えているが、元々は自家不結実だ。

オリーブ以外にも、サクランボや梨、ブルーベリーなどは自家不結実な種類が多い。

そうした植物は、受粉させるために違う種類の木を植えることがほとんどである。

オリーブがそうであると小豆島の観光農園で聞いていたので、こちらのオリーブも似た様な特性があると踏んで、調べていたのだ。

「沢山生ることもある、ってことだったから、数は少ないけど別の種類の木があるんじゃないかと思ってね」

「それがこの木だったと?」

「うん。ほら、葉っぱの形が違うでしょ?」

そう言いながら、勇が二枚の葉を並べてみせる。

「ホントですね! こちらは丸みを帯びていてやや小ぶり、こちらは細長くて大きいです」

言われて比べてみれば、確かに葉の形に違いがあった。

しかし、気を付けて見てみなければ見逃すレベルの違いだ。

「この木の近くに、他の木を植え替えれば、かなり実が生るはず」

「そうなんですね。あ、でも渋くて美味しくないと先程村長さんが……」

「うん、食用にしようとするとちょっと手間がかかるね。だから、絞って油にするんだよ」

「油ですと?」

勇の答えにいち早く反応したのは村長だった。村の特産が菜種油だけあって、油には敏感なのだろう。

「はい。菜種油とは絞り方とかに違いはあると思いますが、流用できるものもあると思いますよ」

「なるほど」

「それに種ではなく果実から絞るので、風味も色も全く違います。料理にはもちろん使えますが、化粧品なんかにも使われていましたね」

「化粧品……」

その単語に今度はアンネマリーがピクリと反応する。

「まぁ、まだうまくいくか分かりませんけど、現状で放置されてるなら失敗しても問題無いですからね。試すだけの価値はあるかと」

「確かにそうですな。分かりました。温かくなってから、移植してみます」

「そうしてください。こちらも油ですからね、成功したら王国随一の油の産地として有名になるかもしれませんね」

「おお、それは素晴らしいですね!」

「あ、そうだ。一度近隣にある秋空梨の木を全てチェックしてみると良いと思います。この木以外にも違う種類があるかもしれないので」

「分かりました。今は農閑期なので、村人総出で探してみます」

「お願いします。その時実が生っていたら集めてクラウフェンダムまで届けてもらえませんか? ある程度数があれば、試しに搾ってみるので」

「かしこまりました」

「うん。これでもう一つ村興しできる可能性が出てきたな」

秋空梨の幹に手をやった勇は、青々と茂るその葉を見上げながらそう呟いた。

その後も、いくつか村興しの案出しが行われたが、課題が大きかったりコストや手間が大きいという事で、ひとまずは見送ることになった。

例えばリゾート地としての計画などである。

美しいロケーションを活かしたベストな方法だと勇は思っていたのだが、 この世界(エーテルシア) の事情を鑑みると非常にハードルが高いことが分かり、お蔵入りとなった。

この世界(エーテルシア) では、そもそも旅行がレジャーとして成り立たないのだ。

いくつか理由があるが、大きな理由は二つ。

ひとつは移動手段が脆弱である事だ。

地球ほど綺麗に舗装された道が無い上、大人数を長距離で移動できる手段が馬車くらいしかない。

移動するのに、コストと時間がかかり過ぎるのである。

そしてもう一つ。移動時に命を脅かされる脅威の数々だ。。

天候などの災害や、野盗のような人的な脅威はもちろんだが、もっともネックとなるのが魔物である。

この世界(エーテルシア) は魔物の世界で、そこに人も住んでいる、と言ったほうが正しいくらい、魔物の生息域は広い。

武力を持つ貴族でさえあまり旅行をしないのだから、一般人が気軽に遠出をするのは危険が大きすぎるのだ。

いつかはこの問題を解決したいと、あらためて思いながら、勇の新領地視察行脚は幕を閉じた。

領地へ戻ってきた勇は、再び研究所で何かを作り始めていた。

エトやヴィレムといったいつものメンバーはもちろん、時折冒険者ギルドのロッペンや、珍しい所では教会の女性神官ミミリアも今回の試作に加わっていた。

「おお、ミミリアさんこれは良い感じですね!」

「そうですか? 良かったです!」

勇がミミリアの持って来た薄い皮のようなもので出来た袋状のものを広げながら言う。

「ほー、跳び鼬の皮なんざ何に使うかと思ったら、こういう事か」

それを見ながらロッペンが頷く。

跳び鼬は、あまり木の密度が濃くない森に多く生息している魔物だ。

その名の通りムササビのような皮膜で木々の間を滑空するのが特徴で、皮膜を広げた翼長は一メートルを超える。

ロッペンに持って来てもらった薄く柔らかいその皮膜を、袋状に縫い合わせて欲しいと、ミミリアに依頼していたのである。

「これくらいの大きさがあれば、そこそこの重さまでいけそうじゃな」

「そうだね。最初の実験の時は一〇〇グラムくらいだったけど、これなら何キロかはいけそうだ」

何やら魔法具と籠のようなものを準備しながらエトとヴィレムも頷いている。

「今度は何を作っているんですか?」

久々に研究所を訪れたアンネマリーが首を傾げる。

昨日まで新領地の資料をまとめていたため、これまでの実験に参加できていなかったのだ。

ちなみに勇は、モノ作りをしていた方が新領地の為になる、というクラウフェルト家一同の総意があるため、あまり事務方の仕事はしていない。

「新たに領地を治める上で、自領や近隣の地理や地形を詳しく知る必要があると思ってね」

「そうですね。確かに正確に地形を把握していれば、かなり役立つでしょうね。これは地形を調べる魔法具なんですか?」

「近いね。正確には、地形“も”調べられる魔法具、かな」

「も、ですか?」

「うん。空を飛んで、上から辺りを見渡すんだ」

「えっ?? 空を飛ぶんですか!?」

勇の想定外の答えに、アンネマリーが目を丸くする。

そう、勇達が試作していたのは、おそらくこの世界初であろう熱気球だった。