軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第222話●一日一時間

メタルリーチの素材を型に使った魔動スクーターの量産用パーツ作りは、驚異的な速度で進められていった。

ザリッドの言う通り、まずはその日のうちにはほとんどのパーツの型が出来上がる。

元々複雑な形状のパーツが無い上、型を作るメタルリーチの加工の容易さが相まって、次々と型が出来ていく。

ハンドメイドとなるシートやタイヤなども、担当の職人が慣れた手つきで作り上げていった。

今では魔動車作りがクラウフェンダムの大きな産業となっており、それに携わっている職人たちが慣れてきているというのも大きいだろう。

また、魔動スクーターの研究、生産と並行して、とある勉強会も開かれていた。

「――とまぁ、ある程度は腕側で勝手に調整してくれるので、周りに壊れそうなものとかを置かなければ、そこまで神経質になる必要は無いですね」

「なるほど。それはありがたいですね!」

何の勉強会かというと、同じく生産を始めている 魔法巨人の書記(ゴーレムライター) の詳しい利用方法や仕様を、希望する騎士達へレクチャーしているのだ。

作った 魔法巨人の書記(ゴーレムライター) は、まず派閥内の貴族へ送られて運用が始まるのだが、その際各貴族家へ輸送し、設置、テストする必要がある。

毎回勇が行っていては、新しい魔道具の研究開発が進まなくなってしまうため、代役を立てる必要がでてきた。

エトやヴィレムを派遣しても良いのだが、勇の貴重な助手がいなくなる上、護衛する人間も必要になる。

人が増えればそれだけ輸送には手間とコストがかかることになるだろう。

どうせ護衛が必要になるなら、自分の身を守れる騎士が設置出来れば効率が良いのでは? と言う事で、“技術系騎士”という役柄を新設、希望者に対して教育が実施されることとなったのだ。

日々の訓練もこれまで通り行いながら勉強もしなければならないので、希望者が現れるか心配していた勇だったが、それは杞憂に終わる。

世界初の魔道具に対する知識が身に付くだけでなく、魔動車や魔動スクーターに乗れる仕事とあって、蓋を開けてみれば抽選になるほどの盛況ぶりであった。

また、この勉強会には、ビッセリンク伯爵家とヤンセン子爵家からも何名かの騎士が参加している。

クラウフェルト領の騎士だけで必要数を賄おうとすると、本来の騎士の仕事が手薄になってしまうため、応援を頼んだ形だ。

無償で情報提供するかわりに、しばらくクラウフェルト領の技術系騎士として働いてもらう。現代で言うところの出向社員のようなものだろうか。

自領に帰った後に確かなポストが約束されるし見聞も広がるため、こちらも人気になったようである。

さらに、少し前から戦闘訓練を行うと称してクラウフェルト領に駐屯を始めたエリクセン家の傭兵騎士に対しても、レクチャーを行っていた。

程なく立ち上がるであろう交換局は、勇たちにとっても今後の王国全体にとっても超重要施設となる。

その運営、警護にはエリクセン家の力を借りることになる事を見越して、彼らにもある程度知識を習得してもらうことが目的だ。

元々は、北方に強い基盤を持つヤーデルート公爵らの派閥に対する牽制目的での駐屯だったが、思わぬ副産物をもたらした格好である。

かくして様々な施策が動く中、並行して量産型の準備も進められていく。

そして、着手より僅か三日で量産機がロールアウトしてしまった。

「……早かったですねぇ」

「はっはっは、ザリッドらが張り切っておったからの」

「ガハハ、年甲斐もなくはしゃいでしまったわい」

感嘆する勇に、ノーム&ドワーフのもの作りコンビが高らかに笑う。

この三日ほとんど眠っていないはずだが、恐ろしく元気が良い。

二日目の夜に心配した勇が聞いたところ、なんでも太陽から遠い大地を司る大地神の影響が強く残っている彼らは、夜目が利くだけでなく寝溜めが出来る体質なのだそうだ。

テンションの高い二人に苦笑しながら、勇が完成した量産機をあらためて眺める。

試作機との大きな違いは、ほぼフルメタルリーチ製だったのが、摩擦力調整のためのメッキ部分だけの使用に留まっている点だ。

鉄で代替しているため強度は落ちているだろうが、強度増加の魔法陣を利用する事で、必要十分な強度は確保している。

「あれ? このフロント部分って……」

前輪を支えるフォーク部分の色が他と違う事に気付いた勇が確認をする。

「気付いたか? ちょっと考えがあってミスリルに代えさせてもらったわい」

「乗り心地が硬かったからの。弾性が高いミスリルに換装してみたんじゃ。少々製造コストは上がるが、クラウフェルト家で使う分だけならそれほど問題無いじゃろ」

まだコイルスプリングは作り始めたばかりでサスペンションには使えないが、リーフスプリングを半分自転車のような構造の魔道スクーターに組み込むわけにもいかない。

そこで、良くしなるミスリルで衝撃の吸収を図ったとの事だ。

「おお、これは確かに違いますね! ありがとうございます!!」

「魔法陣のことは良く分からんが、金属の事なら分かるからな」

礼を言う勇に、ザリッドはニヤリと笑いながら答えた。

その後半日ほどかけて行った試験走行でも問題無しと判定され、無事に初期ロットとして三台の魔道スクーターが完成した。

「では皆さん、すみませんがよろしくお願いしますね」

「「「はいっ!」」」

量産型の魔道スクーターの完成から数時間後。

昼過ぎのクラウフェルト子爵邸の前庭で、勇が三人の騎士に言葉をかけていた。

三人の後ろには出来たばかりの魔動スクーターが並んでおり、その座席後方や前輪上部には魔物素材と思われるシートに包まれた荷物が括りつけられている。

また、若干緊張した面持ちで敬礼した騎士達の背中にも、大きな背嚢や荷物が括りつけられていた。

出来たばかりの魔動スクーターで、これまた出来たばかりの 魔法巨人の書記(ゴーレムライター) 一式を、ズンとの戦争の最前線へと輸送するのである。

「ホントにここから四日で行けんのか? 確か魔動車でも十日くらいかかったんだろ?」

「ええ。魔動車の倍くらいの速度は出ますし、この時期は天候も良いですからね。それくらいで行けるかと」

「……マジかよ。とんでもねぇな」

驚きの表情で勇と話をしているのは、エリクセン辺境伯家の傭兵騎士であるシュマイケルだ。

騎士団の中隊長である彼は、駐屯地の現場責任者として配属されている。

今回最前線へ向かう騎士のうちの一名がエリクセン辺境伯家の傭兵騎士であることから、勇と同じように激励に駆け付けていたのだ。

ちなみに傭兵騎士団の団長であるガスコインは、当主のエレオノーラと共に最前線で戦っている。

その当主と団長のいる戦場――プラッツォの王都ラッチェリオまでは、馬車では二十日ほどかかる距離だ。

魔動車によってそれが十日ほどに短縮されただけでも驚異的なのに、それをさらに半分にするというのだからとんでもない。

何度か試乗したシュマイケルであっても、半信半疑になるのも仕方がないだろう。

「急いでトラブルにあっても馬鹿らしいので、焦らず安全運転でお願いしますね」

「分かりました。それでは、行ってまいります!」

「はい。どうぞ、ご安全に」

「「「ご安全に!」」」

と、いつもの掛け声と共に、勇たちは三名のライダーを送り出した。

しかしライダーを送り出した翌日の昼過ぎ、研究所に設置されている受信用の 魔法巨人の書記(ゴーレムライター) が、いきなり稼働した。

チリンチリンチリンと、動いたことが分かるように腕に取り付けた鈴の音が研究室に鳴り響く。

「なんだ? 流石にまだ辿り着いていないはずだから、何かトラブルでもあったのか??」

想定外に早く稼働した魔法具に、研究室のメンバー全員が慌てて駆け寄る。

「えーっと……、『ウィザードからトレボーへ。我々は現在フェルッカに在り。ワイバーンと交戦中の部隊より派遣された伝令と接触したため、取り急ぎ連絡した次第。送れ』、と」

勇が、 魔法巨人(ゴーレム) の書いた文章を読み上げる。

「なんと、昨日の今日でもうフェルッカじゃと!?」

「うわぁ、計算上はそうなるけど、あらためて事実として体感するととんでもないねぇ」

「本当に魔動車の二倍の速度なんですね……」

読み上げた文章を聞いたエトとヴィレム、アンネマリーが驚愕している。

ここからフェルカー侯爵領都フェルッカまでは、三百キロメートル強の道のりだ。

馬車なら五日、魔動車でも二、三日かかる距離を僅か一日で走破したことになる。

「じゃあアンネ、『こちらトレボー。ウィザードからの通信を確認した。用件を伝えられたし。送れ』って返信してくれるかい?」

「分かりました」

勇は、返信のため送信用の魔法具を身に着けて座ったアンネマリーに指示を出す。

魔法巨人の書記(ゴーレムライター) による通信はリアルタイム通信では無いし、紙の大きさにも制限があるため、一度に書くことが出来る文字数は決まっている。

紙一枚に収まる文章量であれば問題無いのだが、超える場合は紙をめくる必要があるため、送信の区切りごとに決められた文言を付与する運用ルールを適用していた。

それを送れ、としたのは、何かで見た自衛隊の無線通信が格好良かったので、それをそのままパクったためである。

また、トレボーは勇、ウィザードは今回の輸送部隊、ワイバーンはズンを表す簡単な符牒のテストだが、これも勇が好きだったアニメ映画のネタをパクったものだ。

こちらからの返信を送って数分後、再び輸送部隊からメッセージが送られてくる。

用紙何枚かに渡って送られてきた内容は、以下のようなものであった。

・ラッチェリオ近辺では、本格的な戦闘が始まっている

・バルシャム、イノチェンティ両辺境伯家を軸とした、南部貴族連合軍だけの時は劣勢

・東から参戦したザバダック辺境伯家、フェルカー侯爵家、カレンベルク伯爵家連合軍が合流、盛り返し始める

・シュターレン国王からの正式な派兵命令を受けて、各貴族家から更なる増援が決定

・ヤーデルード公爵を筆頭とする北部増援部隊も出撃。ビッセリンク伯爵一門もここに合流

・そのヤーデルード公爵らが、メラージャにてついに馬脚を 露(あらわ) す

「うわぁ、流石はズヴァールさんですね……。そんな罠を仕掛けていたとは」

報告内容に目を通しながら勇が苦笑する。

知らせが来たと聞いて飛んできたセルファースも、同じ顔で頷く。

「本当だねぇ。ザバダック閣下は、武力はもちろんだけど搦手もお得意だからね。先代ヤーデルード公爵ならまだしも、若い現当主ではね……」

ヤーデルード公爵のやらかしは、どうやらズヴァール・ザバダック辺境伯による策略だったようだ。

鹵獲した第一世代 魔法巨人(ゴーレム) がメラージャのザンブロッタ商会に隠される中、ザバダック辺境伯の指示で何体かをメラージャの外に立たせていたのだが、進軍の途中でそれを目にしたヤーデルード公爵が、

「あれはズンの 魔法巨人(ゴーレム) だから、ただちに攻撃する」

と言い出した。

先のアバルーシの件があるため、 魔法巨人(ゴーレム) を敵と認識するのはまだ不自然ではない。

問題なのは、状況を知らないはずの者の口からそれがズンのモノと断定する台詞が出たことだ。

王家からの派兵命令書にはズンが攻め込んだとは書かれてあったが、 魔法巨人(ゴーレム) が攻め込んだとはあえて書かれていない。

にもかかわらず、ズンが 魔法巨人(ゴーレム) を使って攻めてきたと知っているかのように断定できるのは不自然なのだ。

また、第一世代の 魔法巨人(ゴーレム) を見てすぐにズンの 魔法巨人(ゴーレム) と気付いた点だ。

そもそもクラウフェルト領に攻め込んだ 魔法巨人(ゴーレム) は、クラウフェルト領の人間以外はほとんど誰も姿を見ていない。

仮に見ていたとしても、見たのはアバルーシの第二世代だ。 魔法巨人(ゴーレム) とはそういう見た目だと認識するだろう。

魔法巨人(ゴーレム) が二種類いることを知っていなければ、目の前の 魔法巨人(ゴーレム) がアバルーシではなくズンの物であるとは言えないのだ。

実際に両方の 魔法巨人(ゴーレム) と戦った勇達以外にシュターレン王国側で知り得るとしたら、裏側を知っている者たちだけだろう。

そのあたりをビッセリンク伯爵に突っ込まれたそうだ。

「何れも疑わしいと言うだけで決定的な証拠とは言えないけどね。実際に“状況から、アバルーシ何某がズンと手を結んでいたと予測したまでだ”と苦しい言い訳で突っぱねたそうだよ」

「まぁ、そうとでも言うしかないですよね……」

「とは言え、これでまた一つ糾弾する手札が増えたかな」

「そうですね。ズンでの戦いと並行して、我々はこちらのほうも詰めていきたいですね」

そう言って、セルファースと勇は大きく頷いた。

伝令からの報告は、その後北部増援部隊が戦線に合流して、いよいよ本格的な戦闘が始まったところまでだった。

そしてその翌々日の夜遅く。またしても着信を告げる鈴の音が研究室に鳴り響いた。

音に気付いた織姫に起こしてもらった勇は慌てて駆けつけ返信をしつつ、騎士を当主への伝令に走らせる。

書き出しの内容を見た所、どうやら睡眠時間を削って急ぎに急ぎ、四日の予定をさらに一日短縮、三日でプラッツォの王都へ到着してしまったらしい。

「はっはっは、流石に閣下方も 魔法巨人の書記(ゴーレムライター) には相当驚いていらっしゃるようだねぇ」

急いで駆けつけてきたセルファースが、何度か前線にいる辺境伯らとやり取りをした後、嬉しそうに言う。

「そりゃあ馬車で二十日かかる距離とこうしてやり取りできるのだもの、閣下方じゃなくても驚くわよ」

その様子を見たニコレットが溜息をつく。

「魔動スクーターについても食いつきが凄いですね」

「王家の伝馬より速いですからね……。量産の上、魔動車と組み合わせると戦争の概念が根本的に変わるので、 魔法巨人(ゴーレム) 級の衝撃では無いかと」

勇の感想に、こちらも同じく駆けつけた騎士団長のディルークが、真剣な顔で言葉を紡ぐ。

最前線からの報告には、まず 魔法巨人(ゴーレム) 相手に少々てこずりながらも、徐々にその数を減らすことに成功していると書かれていた。

勇作の魔法具を近隣の町にあるザンブロッタ商会の関連工房で量産、魔動車を使ってそれを前線に輸送する体制が確立された事が、かなり効果的であるらしい。

しかし、戦争についての報告はその程度で、残りの九割は先のような 魔法巨人の書記(ゴーレムライター) と魔動スクーターについての話であった。

そんなやりとりの中で、勇は交換局の立上げについて確認し、各辺境伯とエレオノーラの了承を取り付ける。

むしろ金と人はいくらでも出すから、一秒でも早く作って欲しいとお願いされる始末であった。

これで本格的に 魔法巨人の書記(ゴーレムライター) を使った通信網の構築を行う事が出来るだろう。

また魔動スクーターについても同様で、すぐにでも量産して売って欲しいと強い要望を受けることになった。

こちらについては、乗り物酔いが酷く魔動車が苦手なガスコインから、極めて強い嘆願があった事を付け加えておこう。

こうして、ズンとの戦争の裏側で、 この世界(エーテルシア) の常識を覆す大きな 限界突破計画(ブレイクスループロジェクト) が動き始めるのだった。

ちなみに半リアルタイムで話が出来ることに辺境伯らが慣れてきたため、やり取りは雑談を交えて明け方まで続いた。

そして強制的に終わりにしないとキリがないと判断したアンネマリーによって強制終了、 魔法巨人の書記(ゴーレムライター) の使用は一回一時間までという暫定ルールが即時施行されるに至った。