軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第221話●魔動スクーター

完成した試作モデルは、フレームだけのスクーターのような形をしていた。

少しバイクに詳しい人なら、ホンダのズーマーのような雰囲気と言えば伝わりやすいだろうか。

最初は跨って乗る普通のバイクっぽい形状にしようと考えていたのだが、魔動エアモーターとフリクションドライブ用の円盤の幅が大きくなった都合で跨ぐのが難しかったため、スクータータイプとなった。

仮称“魔道スクーター”である。

「……今の魔動車とは全く別物になりましたね」

出来上がったプロトタイプを見て、アンネマリーが思わずそう零す。

広義では同じ魔道車だが、既存の魔動車と比べると見た目からして全くの別物である。

もちろん見た目の違いが最も大きいのだが、使っている技術もこれまでに発見したものを総動員しており、中身も全くの別物となっている。

勇たちは、出来上がったばかりの魔動スクーターを引いて、領主の館からメインストリートへと向かう。

ようやく空が白み始めた時間なので、勇たちと門番の衛兵以外に人気は無い。

「さて、では早速試走してみますか」

領主の館の前まで魔動スクーターを引いてきた勇が、そう言ってスクーターに跨る。

勇の頭には、以前遺跡から出て来て、ティラミスが気に入って使っているヘルメットが装着されていた。

「まずはこっちから……」

心の中で「ポチっとな」と呟きながら、左ハンドルにある起動用の魔石に触れる。

フォンというお馴染みの起動音と共に、フレーム部分に描かれた魔法陣が薄っすらと黒紫の光を放った。

「どうだい、軽量化の魔法陣は問題無さそうかい?」

フレームの下を覗き込みながら、ヴィレムが勇に問いかける。

「ええ、ばっちり機能していますね」

勇がスクーターに跨ったまま前後に車体を揺らしながら答える。

今回盛り込んだ新技術の一つ目、軽量化の魔法陣だ。

試作車両は制作速度を優先してメタルリーチの素材が多く使われているので、単に風の魔力を流すだけでも軽量化はされるのだが、量産車両にメタルリーチを使うわけにもいかないので魔法陣を使っている。

「で次にこっち、と」

軽量化の効果を確認した勇は、続けてその隣にある魔石に触れた。

今度はフレームが淡い黄色の光を放った。土魔法の魔法陣が起動した証拠である。

二つ目の新技術である、強化の魔法陣だ。

出来るだけ軽量化したほうが効率も速度も上がるが、全てを軽量化の魔法陣に任せるといざという時に困る。

そのため、出来るだけパーツは細く、薄くしたい。

かといって強度は犠牲に出来ないので、主要なパーツに対して強化の魔法陣を組み込むことにしたのだ。

「こちらも大丈夫そうですね!」

「そうかい。上手く動いてくれてホッとしたよ……」

今度は上下にスクーターを揺らしながら勇が言うと、ヴィレムがホッとした表情とともに笑顔を見せた。

今回、軽量化と強化の魔法陣の大半はヴィレムが描いたため、動いた喜びは 一入(ひとしお) だろう。

「座席の方はどうじゃ?」

今度はエトが勇に問いかける。

「中々の座り心地ですよ。あとは長距離乗ったらどうなるかですが、こればっかりは時間をかけて試すしかないですね」

何度か座り直しながら勇が答える。

今回は座席にもエトの手によって新たな素材と技術が投入されていた。

まずシートの詰め物にツリースライムの素材を使っている。

以前、馬車のタイヤを改良する際に候補に挙がった魔物素材だ。

タイヤにするには少々柔らかすぎたのだが、スクーターの座席にするには丁度良い弾力だったのだ。

また、シートの台座部分には、おそらく この世界(エーテルシア) 初であろうコイルスプリングが組み込まれていた。

昔見た、王女様が古いスクーターに乗せてもらって街を走り回る映画に出てきたスクーターの座席に、スプリングがついていたのを思い出したのだ。

もっとも加工技術はまだ未熟なためバネの巻きも甘いし、そもそも正しい装着方法も知らないのであくまで試験的な導入だ。

バネが出来れば、将来的にサスペンションやクラッチはもちろん、スイッチ類やベッド等々、その使い道は幅が広い。

スプリングの技術自体は、街の鍛冶屋にも伝えてあるので、今後発展していくことに期待したいところだ。

「さて、じゃあいよいよモーターを起動させますね」

そう言うと勇は、しっかりとブレーキレバーを握り、ハンドル中央にある魔石に触れる。

これがモーターを起動させるための魔石だ。ブレーキは魔動車と同じロッド式だが、古い自転車のようなハンドレバータイプとなっている。

小さな風切り音と共に、微かな振動がシート下の魔動モーターから聞こえてくると同時に、モーターと連結している円盤がゆっくりと回転を始めた。

続けてシート下から前方向に出ているレバーを少し左側へと動かした。

それと連動して、魔動モーター本体とそのシャフトに取り付けられている円盤が少し左へと動く。

それにより、円盤の中央で接触していた車輪側の円盤が、モーター側の円盤の中心よりやや右側に接触部分を移した。

少々強引だが、変速機である。

モーター側中央で接している場合、ほとんど回転は車輪側に伝わらないため、いわゆるニュートラルの状態になる。

円盤の表面にはメタルリーチが塗布されており、魔力を流していない現状ではかなり摩擦が小さいので、モーター側の円盤だけが回っていたのだ。

そこから少し外側で接触させたことで、今度はローギアの状態となった。

続けてレバーの脇にある魔石に触れる。こちらは円盤表面のメタルリーチに雷属性の魔力を流すためのスイッチだ。

徐々に魔力が流れ込むに従い摩擦力が高まるため、回っていた円盤の速度が遅くなり始める。

それを確認した勇は、今度は右ハンドルの手元に付いている二つの魔石のうち、左側の魔石に触れた。

モーターに付いている繰風球の風速を上げるためのスイッチ、いわゆるスロットルやアクセルに相当するものだ。

押すたびに風切り音が強くなっていき、しばらく押していると勇の腕と腰が、スクーターが前に行きたがっている事を感じ取る。

その瞬間、勇は意を決してブレーキレバーに込める力を緩めた。

すると、ゆっくりと魔動スクーターが前へと動き始める。上手くバランスがとれるよう、もう少し風力を強めて速度を上げた。

「おおっ!?」

「すごい!」

「やった!」

一部始終を固唾を飲んでみていたエト、アンネマリー、ヴィレムから歓声が上がった。

それを聞きながら、速足程度の速度で勇が魔動スクーターを走らせ続ける。

十メートル程走ったところでUターンすると、同じ速さで門の前へと戻って来た。

ブレーキをかけつつ右手でスロットルを緩めて速度を落とすと、シート下の魔石に触れて動力円盤の摩擦を弱めて停車、レバーをニュートラルに戻してから魔動モーターを停止させた。

「ふぅぅぅ、なんとか動きましたね」

全ての魔道具を停止させてスクーターから降りた勇が、足元のサイドスタンドを立てながら大きく息を吐き出した。

「スムーズに動いとったの」

「ええ。速度を上げたらどうなるかは分かりませんけど、低速なら全く問題無いですね」

「強化の魔法陣も組み込んであるし、すぐに壊れるようなことは無いと思いたいねぇ」

「ホントそうですね……。あとは、始動時と停止時がちょっと煩わしいのも、将来的にはどうにかしたい所です」

「慣れてしまえば大丈夫そうですが、簡単なほうが良いのは間違いないですものね」

見守っていた面々も無事に動いたことにホッとしたのか、勇を取り囲むその表情は皆笑顔だ。

「さて、じゃあいよいよ本格的にテストしていきましょうか」

「うむ」

「ああ」

「はい」

その後、完全に陽が昇って街の人々が動き出すまでの間、ライダーをローテーションしながら走行テストが繰り返された。

勇だけが操縦出来ても意味がないので、ライダーのローテーションは重要である。

想定していた時速三十キロメートル(体感)まで出しても問題が無い事が分かったところで、その日のテストはお開きとなった。

ちなみにエトだけは、身体の大きさの問題で運転する事が出来ず、ショックに打ちひしがれることになってしまった。

折を見て、小型タイプのものを試作することになるだろう。

その日の午後からは、試作一号機を使った耐久試験組と、並行して二号機以降の量産組に分かれての作業となった。

「なんで私は乗っちゃ駄目なんっすかーーーっ!!」

耐久試験組が向かった騎士団の屋外演習場に、ティラミスの絶叫が木霊する。

「……壊すからだ」

「……壊すからだろう」

「……壊れるからな」

「……壊すもんねぇ」

「ぐはっ! 全否定っす!?」

フェリクス、ミゼロイ、リディル、マルセラから一糸乱れぬツッコミが飛ぶ。

「にゃっふぅぅ」

「せ、先生まで……」

そこに織姫の盛大な溜息が加わり止めを刺されたティラミスが、ガックリと膝をついた。

「イサム様から言われているからな。お前は無理するから、ある程度台数が揃った後の最終的な高負荷試験までは乗せるな、と」

魔動車の免許を一時的に剥奪され、 魔法巨人(ゴーレム) による作戦時も危険物扱いとなっていたティラミスだからして、さすがの勇も釘を刺していた。

こうしてティラミスというギャラリーを含めた勇の専属護衛騎士達によって、耐久試験は進められていった。

一方の量産組も、いつものモノ作りマニア三人に街の職人らを加えて早速動き出していた。

「まずは型が必要じゃの」

「そうですね。メタルリーチが大量にあればよかったんですが、さすがに無理ですからねぇ」

「……いやいやイサム様よ、試作品を組み上げる量がある時点で異常だわい」

金属部分はほぼ全てメタルリーチで作られた試作機を見ながら、立派な髭を蓄えた男が呆れたように呟く。

「はっはっは、ザリッドよ、この程度で驚いておったら、この先大変じゃぞ?」

「エトよ、お前さんは慣れとるかもしれんが、ワシはそうでは無いからの? 普通驚くわい!」

エトがザリッドと呼び、親し気に話をする髭の男は、クラウフェンダムの鍛冶職人だ。

街の中で最も歴史のある鍛冶工房の工房長で、その長い髭からも分かる通りドワーフである。

ノームとドワーフは、どちらも大地神が生み出したと言われる兄弟のような種族で、双方モノ作りに長けていることもあって基本仲が良い。

エトとザリッドもその例に漏れず古くから公私ともに仲が良いとの事で、魔弾砲をはじめとした研究所発の金属加工作業を 予(かね) てより手伝ってもらっていた。

「で、イサムよ。何で型を作るつもりなんじゃ?」

「今まで通り、砂を使った型でも良いんですが、毎回崩れちゃうのも勿体ないじゃないですか? なので、今回はコレを使おうと思ってます」

エトの問いに答えながら勇がコンコンと叩いたのは、魔動スクーターのフレーム部分――メタルリーチの素材だった。

「……ほれ見ろ。やっぱり異常だわい」

それを見たザリッドが、小さくため息をつく。

「まずは、今の試作品のパーツと同じ形のものを、木とか粘土で作ります。で、それを柔らかくしたメタルリーチを使って型取りします」

メタルリーチは単に魔力を流すとどんどん柔らかくなる。そして魔力を止めれば即時に硬くなる。

また、柔らかい状態だと金属には吸着するが、それ以外のものにはほとんどくっ付かない。そして鉄や銅より、遥かに耐熱性が高い。

その特性を利用するつもりなのだ。

「なるほどな。元になる木の模型さえ作れば、あとは早そうじゃの。メタルリーチの型は丈夫だから、量産も楽そうじゃ」

勇の話を聞いたエトが腕を組みながら頷く。

「やれやれ、まさかメタルリーチを型に使う日が来るとは思わなんだが……。早速始めてみるかの」

「おう。まずは模型作りから始めるぞい」

苦笑しながらもどこか嬉しそうなザリッド。

そしてその肩をエトがバシバシと叩きながら、連れ立って作業台へと向かっていく。

「では皆さん、よろしくお願いしますね!」

その背中に、勇が大きく声を掛けた。

「おう、まかしておけ! 今日中には型を作ってやるからの!」

ザリッドは、その声に振り向くことなく右手を上げて応える。

こうして、ザリッド以外にも木工職人や革細工職人なども加えた、クラウフェンダムの職人挙党態勢とも言うべき陣容による魔動スクーターの量産が、一気に動き始めるのだった。