軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

●第206話●反撃の狼煙

(さて、どう報告したものか)

操縦席から降りた勇は、報告事項を頭の中でまとめながらリリーネの元へと向かう。

大枠は元から決まっているし、現場に居合わせた人間はこちらには勇しかいないので、適当な報告でも良いのだが、あまりいい加減に報告してヤリスコフに不信感を抱かれるのもマズイだろう。

その後リリーネと合流、相談してから、ヤリスコフに一声かけてイゴールの天幕へと向かった。

報告自体はリリーネが行うので、勇は細かい所を聞かれた時のサポートである。

「イゴール将軍、ヤリスコフです。出ていた 魔法巨人(ゴーレム) から報告と伝言があるとの事です」

ヤリスコフが天幕の中へ声を掛けると、中から横柄な返事が返ってくる。

「報告? 早すぎないか? ああ、”もどき”の操縦席はここにあるんだったか。よかろう、入れ」

「失礼します」

入室の許可が出たので、勇も一緒に天幕の中へと入っていく。

広い天幕の中央よりやや奥で、イゴールはふんぞり返るように座っていた。

現場からの叩き上げであるだけに、流石に鎧を脱いでいるような事は無かったが、ブーツとグリーブを脱いでオットマンに足をのせ、背もたれが大きく倒れた椅子に埋まるような姿勢だ。

その様子を見て一瞬眉をひそめたヤリスコフだったが、すぐに表情を戻してリリーネに報告するよう促す。

「まず、隊商と思われていた一団ですが、どうやら隣国の貴族家の馬車が擬装していたものだったようです」

「「なんだと?」」

リリーネの一報に、同時に声を上げる二人。

「馬車および積荷の奪取には成功、積荷は食料品、天幕と思しきもの、そして鎧や剣といった武具類であるとの事です」

積荷を奪取できたと聞いて少し緩んだイゴールの表情が、リリーネの次の一言で再び不機嫌なものに変わる。

「なお、騎士と思しき護衛は捕らえることが出来なかったため、追跡すべきか判断を仰ぎたいとのこと」

「逃がしただとっ!? 複数の 魔法巨人(ゴーレム) がいてどういうことだっ!!」

脇にあった机に思い切り拳を叩きつけながらイゴールが激高する。

「護衛全員がかなりの魔法の使い手だったため、壁魔法で退路を作られたようです。また、馬車の擬装が分かったのは戦闘終了後だったため、護衛確保の優先順位が低かったそうです」

「ちっ!」

リリーネの説明に、渋い表情でイゴールが舌打ちをする。

元々狙いが金品なので、捕らえたところで大した金にもならない護衛が逃げるなら、奪う側としてはかえって好都合、大きな過ちではない。

「おそらく騎士なのだと思うが、全員が魔法の手練れなどという事があり得るのか? いや待てよ……。どの貴族家か分かっているのか?」

「フェルカー侯爵家とのことです」

「フェルカー!! 赤の賢者の所か……。フェルカー侯爵家は、その騎士のほとんどが魔法騎士だと言われている。だとすれば隙を突いて逃げられるのも無理は無いか……」

リリーネの口から出てきた名前に、ヤリスコフが苦虫を嚙み潰したような顔をする。

対してイゴールは、その名を聞いて声を荒らげる。

「フェルカー家だと? 国境を守る家では無いか。すぐに追わせろっ! まだ先に潜んでいるやもしれん、騎兵隊も出せ!」

「お待ちください将軍! ここで戦力を分散させるのは得策ではありません。街攻めに注力すべきです!」

「黙れっ! このまま南側へ抜けられてみろっ! バルシャム家あたりに報告されて、こちらが守りを固めきる前に総力で攻め込まれることになるぞっ!?」

「それでも本隊が王都を落とすだけの時間はありますっ! ここで動いて万が一メラージャを落とせ無かったらそれこそ大変なことに――」

「うるさいっ! そもそも貴様の言う通り隊商を無視していたら、このことに気付くことすら出来なかったのだぞ!? 知った上で放置、それで何かあったら貴様は責任がとれるのかっ!?」

「ぐ……、しかしっ!!」

「もういい! 軍師か何か知らんがな、戦争は物語のように筋書き通りいくものではない! 貴様が騎兵を率いて追走しろ。いいか、これは命令だっ!」

ヤリスコフの注進は聞き入れられることなく、またしても指令が下されてしまう。

「どのみち街攻めは 魔法巨人(ゴーレム) がメインで、騎兵の後詰も程なく着く。この数の騎兵がおらずとも、街攻めには関係無いわ! 分かったらとっとと追走しろ!」

「くっ……、承知しました」

現場からの叩き上げであるイゴールにとっては、実戦で大した成果を上げたわけでもないヤリスコフが、したり顔で作戦を説くのがどうにも気に入らなかったのだろう。

そしてイゴールの言っている事も間違ってはいない。

むしろ最初の注進をイゴールが聞き入れていたら、大ごとになっていた可能性も否定できないため、ヤリスコフは渋々イゴールの指示に従い騎兵を率いて追走に向かうのだった。

「よし、こちらも準備出来次第出るぞっ! いいなっ!」

ヤリスコフが出ていって溜飲が下がったのか、少し冷静さを取り戻したイゴールが、残っている 魔法巨人(ゴーレム) 部隊に指示を出した。

方針が決まった事で、勇は再び操縦席に戻り 魔法巨人(ゴーレム) を起動させる。

現地で待っていた第一世代に、ハンドサインと身振りで第一世代はすぐに追走する事と、追って騎馬部隊がやって来ることを伝える。

そして自らは、ドレクスラー、マルセラの機体と共に、街道を北上し始めた。

ちなみに、サミュエルの 連鎖雷撃(チェインライトニング) を食らって停止した第一世代だが、操縦者の命に別状は無かったらしい。

防御用の魔石の魔力が尽きていたため、予備のものと交換したことで無事再稼働したそうだ。

それを聞いた勇は、ある程度無茶しても操縦者が死ぬことは無さそうな事に安堵した。

ヤリスコフが追走部隊を率いて出発してから30分。

準備が整った部隊が、後詰めへの連絡役を何名か残していよいよ進軍を開始していた。

少々状況がきな臭くなったことを嫌って、騎兵の到着を待たずに街を攻めることにしたのだ。

カポルフィを落とした時のことや、事前の演習の結果を踏まえれば、この数で一気に襲撃をかければ街の防衛戦力は容易く無力化出来る。

元々そのタイミングで騎兵が突入、占領を行う想定だったので、作戦自体に大きな変更は無い。

巨人の軍団は、隊商を襲撃した 魔法巨人(ゴーレム) や追撃に出た騎兵部隊が一度通ったことで多少進みやすくなった道を、40分ほど進んで街道へと出る。

夕陽を受けてオレンジに染まった巨人を前に、イゴールが馬上から出陣前の号令をかけた。

「ここからは北上して、一気にメラージャを落とすぞ!」

「「「おぅっ!!」」」

「この数の 魔法巨人(ゴーレム) があれば恐れるものは無い! 存分に暴れるがいい!! いくぞっ!!」

「「「おおー!!」」」

イゴールが掲げた剣を振り下ろすと、巨人たちが一斉に駆け出し始める。

途中で、追撃に参加せず森の中に姿を隠していた勇達三体の第二世代も合流、なおも北上を続けた。

あと一時間ほどでメラージャが見えてくるか、という辺りで、街道右手が森から切り立った崖に変わった。

この辺りから東側は急峻な岩山がシュターレン王国まで連なっている。

崖沿いにしばらく行くと、前方左手側に何本か倒木があるのが、先頭を行く第一世代の操縦者の目に入った。

この辺りの森には大型の魔物が生息していると言うので、そいつらの仕業だろうか。

幸い街道を塞ぐようなことにはなっていないので、後続には指差しで軽く注意を促してそのまま街道を進んでいく。

そして倒木の脇を通り抜けようとした瞬間だった。

ドガァァッ!

「なぁっ!?」

派手な音をさせながら、先頭を行く第一世代の足下が突然崩れた。

「うぉぉぉ!?」

それが連鎖するように、二列目を走っていた第一世代の足下も同じように崩落する。

崩落に巻き込まれた三体の第一世代が、腰上あたりまで地面に埋まる。

「なんだぁぁっ!?」

三列目の第一世代はどうにか踏みとどまろうとするが、止まり切れず埋まった第一世代に激突して前転するようにその上へと転がった。

さらに何体かの第一世代が玉突きのようにぶつかり、ようやく全軍が停止する。

「何をやっておるかっ!!」

後方から馬で追走していたイゴールが怒声を上げながら前方へと出てくる。

「どうなっておるのだっっ!?」

「は! 先頭集団の足下が突如陥没、それにより何体かが地面に埋まったようです!!」

「陥没だとぉっ!? なぜ街道がそんな事に――、んん??」

状況報告に怒鳴り返しながら現場へ辿り着いたイゴールが、違和感に気付く。

穴は街道の道幅の8割程度、奥行きは五メートル強といったところか。

自然にできた穴にしては形が綺麗すぎる。

そしてその穴の中が泥で満たされていると言うのも不自然だ。

水が湧くなり豪雨なりで泥になるなら、地面に露出していなければならない。

「ん? なんだこれは?」

さらによく見てみれば、木や金属のようなものが泥の中に見え隠れしている。

「閣下! こちらを!」

現場を調べていた近衛の一人が、小さな板のようなものをイゴールへ差し出す。

穴の縁に引っかかっていたらしい。

「なんだ? んん? これは魔法陣か!? なぜこんな所に魔法陣が……」

「閣下! どうやら落とし穴のようなものに嵌ったと思われます! 木や金属のようなもので蓋がしてあった形跡があります」

もう一人の近衛が、調査結果の報告に来る。

「落とし穴だと? 確かに人工的に掘られた感じではあるが、こんな街道のど真ん中になぜ……? いや、そんなことより被害状況は?」

「先頭を行った一体と、すぐ後ろの一体は、落下と後から突っ込んだ機体がぶつかった衝撃で大破。その突っ込んだ二体も、腰まで泥に埋まり行動不能。他は多少魔装甲を削られましたが無事です」

「くそっ! 四体も行動不能だと!? どうなっているのだ……」

「……いかがいたしましょうか?」

「メラージャは目と鼻の先だ、残った機体で行軍を続ける! 間もなく日も暮れる。街道を通るようなものもおらんだろう。機体の回収は後から来る騎兵とヤリスコフに任せればよい!」

「かしこまりました!」

「とっととその邪魔な木をどけて、先を急ぐぞっ!」

「はっ! おいっ、何体かでさっさと木を片付けろ!!」

「「「「了解!」」」」

イゴールからの指示を受けて、四体の第一世代が街道脇の木の撤去に取り掛かる。

「デケェな……。おい、そっち側を持ってくれ。一体だとバランスが取れねぇ」

「おう!」

持ち上げられなくも無さそうだが長さがあるため、二体で一番上の木を持ち上げにかかる。

その時だった。

ドドンッッ!!!

再びの派手な爆発音とともに、二体が持ち上げた木が突如爆発した。